夕学レポート
2015年05月28日
企画における「違和感」と「集合的無意識」
川村元気さんの作品は映画『モテキ』と、小説『世界から猫が消えたなら』は読んだ。
『モテキ』は、先に観た友人から「長澤まさみちゃんのノーブラシーンがある」と聞き、すぐ映画館に行った。
しかし、実際はノーブラではなくて、そういう設定なだけだった。
明らかにノーブラではない。
落胆のあまり、映画の内容は覚えていない。
『世界から猫が消えたなら』は10歳年下のT君に勧めてもらって読んだ。
「すごく素敵なお話です。読んだら感想聞かせてもらえませんか?」と、文末が「?」のメールに喜び勇んで本屋へ買いに行った。
早く返信しようと、急いで読んだ。長くなるから感想は書かない。
さて、今回の講演である。
前半60分は川村さんの企画作品においての「発見と発明」を足早に話してくれた。
後半60分は質疑応答だった。
講師の中には用意してきた話は完璧だが、質疑応答になるとグダグダになる人もいるが、川村さんの場合は逆であった。
参加者と直接話しながら、仕事について語っているほうが遙かによい。
話の内容もそうだが、人としても魅力的に見えた。
そして、後半の川村さんの話しの中で、特に二つのキーワードが印象的だった。
企画における「違和感」「集合的無意識」である。今回はそこを中心に考えてみたいと思う。
「企画の発見と発明」において、「違和感」に多く気付くことが大事だという。
例えば、ポストの上にぬいぐるみが置いてあったとする。
普通だったら気付いても素通りする。しかし、それを持ち上げて「これ、誰のですか!」と叫ぶのが川村さんの仕事である。
作家の阿刀田高先生も、去年の講演で同じことを仰っていた。銀座に片方だけ靴が落ちている。普通の人はなんとも思わないことが、自分はどうも気になってしまう。
しかし、その落ちている靴からストーリーを創るのが小説家であると。
川村さんと阿刀田先生の創作の原点に同じものを感じた。
私も違和感を覚えやすいほうだと思う。
セリフではノーブラと言っているのに、実際はノーブラじゃないシーンに違和感とか。やたらと違和感を覚える。
『モテキ』の公開はレジュメによると、2011年になっているので4年間もそのことを恨んでいることになる。
違和感というのは、文字通り「違和」なので、自分のなかに入って来ない。そのぶん、常に記憶の表面にある気がする。
川村さんは、それを「違和感ボックス」と表現した。
川村さんが携帯を落とし、電車に乗った時のこと。
窓の外には綺麗な虹が出ているのに、誰も見ていなかった。皆スマホを見ていた。
そこに、違和感を覚え、「何かを得るには、何かを失わなければならない」と思ったという。それが『世界から猫が消えたなら』の発想の原点だ。
聖書の創世記と、映画『エターナルサンシャイン』を重ねて、一つのストーリーが生まれた。
読んでからその話を聴くと、「なるほどな」と思える。
普段は案を5つぐらい重ねて1つの作品をつくるという。
ベストな作品例として「ミルクレープ」を挙げた。
何層にも薄いクレープが積み重なっているのに、それを作った人の苦労が見えないことが大事なのだ。作品も作り手の苦労がわかると、観客が引いてしまうという。
ここでも、阿刀田先生の話を思い出した。
やはり新しいものをゼロから生み出すのではなく、何かと何かを組み合わせて、元ネタがわからないようストーリーを生み出せるのが作家だと仰った。
これは『短編小説と知的創造』の講座での話だ。
次の「集合的無意識」は、川村さんが谷川俊太郎さんと対談した時のこと。
「ヒットするものの特徴」という問いに、「集合的無意識にアクセスしたものなのでは」と結論が出た。
集合的無意識は、先の違和感に通じる。
フロイトで言えば、本来自分にとって受け入れたくないものを入れてフタをするのが無意識。無意識なので表面に出ず、夢で見る。
しかし、川村さんの「集合的無意識」をよく聴いてみると、有意識の意味も含まれている。
皆が思っていることだけど、誰も口に出さないこと。そこに、言葉や映像を与えることがヒットの要因になるのではないかと言った。
確かに日常のすっきりしないことを、言葉で代弁してほしいという思いがある。そして、ピッタリの言葉が見つかればすっきりする。それが本であったら、その著者の作品を他にも読みたくなるのだ。
Twitterでも小田嶋隆先生のように、皆がモヤモヤしているところに、言葉を与えてくれる人のフォロワーは断然に多い。
質疑応答も終わり、皆が帰ろうとした時だった。
「もし、一緒に仕事をすることがあれば、今日この場にいたことを教えてくださいね」と言われた。
講演の中で、川村さんは面白い人との出会いが大事だと振り返った。湊かなえさんや、映画監督の中島哲也さんらは、有名になる前から注目して付き合いがあった人たちだ。
川村さんに言わせれば、流行は同じ人のところに留まらない。輪番でやってくる。
そんな想いが、最後の一言を言わせたのかもしれない。
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