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夕学レポート

2015年06月01日

作家の頭の中をPublishする!

youhei_sadoshima.jpgコルクとは一風変わった会社名である。
「上質なワインを世界中に運びだし、後世に残すためには上質なコルクが必要」と、名前の由来を佐渡島庸平さんは講演の冒頭に説明してくれた。
上質なワインは作品。コルクはエージェントである。
隣の隣ですごい熱心に頷きながら聞いていた人が、質疑応答の時も「コルクの由来を教えてください」と質問したので、二回も由来を聞くことができ、頭に刻み込まれた。
講演タイトルは『クリエイターと同じ舟に乗る』。
エージェントとして作家(クリエイター)と出版社を結ぶだけでなく、
作家がより活躍するために様々な取組みを、出し惜しみすることなく話してくれた。
その中でも、特に出版社にはない、エージェントならではの発想が印象的だった2つのことをここで紹介する。
詳しくは、実際に講演に足を運んで聞くのをお勧めする。


1.作家に#(ハッシュタグ)をつける
朝起きた時、ちょっと休憩する時、まず、FacebookやTwitterをチェックしていないだろうか。プロが書いた文章のほうが絶対面白いのに、ついつい見てしまう。
佐渡島さんによると、そこには親近感が働いているのだ。
これに作家の書いた絶対的に良い作品を掛ければ、「親近感×質の絶対値」になる。
作家に親近感を持たせるために、何ができるか。
読者はトークショーやサイン会などに行けば作者に会えるが、それでは回数が少ない。
例えば『宇宙兄弟』は4ヵ月に1回発売されるが、その間も作家を感じられるようにしたい。そこで、作家のファンクラブを作り、作家と読者の間でも、SNSやメルマガを使って親近感を覚えられるようにしている。
佐渡島さんは、初めTwitterの#(ハッシュタグ)が理解できなかったが、今ではエージェントの仕事とは、作家に#をつけて読者と結ぶことではないかと感じている。
補足しておくと、Twitterの#は、つぶやきに「#○○」と入れると、同じことを話題にしている人と、簡単に共有ができる仕組みになっている。
私は初めて#を見た時、かつての喫茶店や、ラブホテルにあった落書き帳によく似ていると思った。同じ場所で同じように過ごす人たちと、それに関する何かを共有する。
例えば、喫茶店がいかに好きかを書き、好きなメニューを書く。
それを誰かが読んで、触発されて何かを書く。これがリアルタイムでできる時代になっていて面白い。「ITは同じものに興味を持つ人と人とをつなげる技術だ」という佐渡島さんの言葉に納得した。
2.作家の頭の中をpublishする!
作家の魅力は、頭に別のストーリーを持っていることである。普通の人にはこれがない。
そこで、佐渡島さんは作家の頭の中をpublishすることを思いついた。
このpublishは「出版する」の意で使われるが、本来の意味はpublicに近い。
つまり、作家の頭の中を公にするのだ。
コルクでは、パリのメゾン・ド・クローズを舞台に描いた安野モヨコさんの新作『鼻下長紳士回顧録』の発売に合わせて、作中に出てくる娼婦が身に着けているランジェリーも販売する。小山宙哉さんの『宇宙兄弟』では、宇宙服も販売した。このようなグッズは、全部買ったとしても3万円ぐらいにしかならないが、1人で18万円も買う人もいた。
このように作家の頭をpublishすることで、金銭面でも書く環境を整えてあげることができる。
私は漫画を読まないので詳しくないが、小説は読む。
作家のなかには、不動の地位を得ている人もいるが、消えていく人も多い。
単に面白くないからではなくて、金銭的にも書き続けられる環境がないというところにも原因がありそうだ。
作家である以上は書き続けたい。しかし出版社では、作家は新陳代謝したほうがいい。
それに抗うために、作家は作品を書くこと以外でも努力しなくてはいけない。
たいして面白くない作品を一派の中で身内同士褒めし合ったり、文学賞の選考委員にしがみついたりと。
生活が懸かっているので作家が悪いのではないが、こういう姿を見るとげんなりする。
そこをエージェントが関わることで、作家に書く環境が整うのではないか。
作品で評価される公平な世界になってくれるのではないかと、佐渡島さんの話を聞くことで思えた。
「#」と「publish」については、漫画家羽賀翔一さんのオフィシャルサイトに集約されていると思うので、ぜひ見てほしい。
羽賀翔一オフィシャルサイト
hagashoichi.cork.mu/
羽賀さんは、佐渡島さんがすごい才能を感じている漫画家である。
本日の参加者には『ケシゴムライフ』という漫画が配られた。投資家を募って発売した作品だ。
出版社では、本が売れ残った場合、裁断して再生紙として使用するが、投資商品なので名刺代わりに無料で配ることができる。
最初は名前を覚えて貰えばいい。しかし、気に入ってもらえば、どこかに課金がはじまるポイントはある。
講演の最後に佐渡島さんは「何もまだ成し遂げていないのに未来を話した」と謙遜し、
「成功して5年後にもう一度話したい」と言った。
私は、むしろ現時点での話が聞けて良かった。
成功すると、顕教と密教のところの、顕教の方しか語られない可能性もある。
そういう意味では、受講料以上のものを学べたと思うし、ひたすら作家側に立って仕事をしようとする佐渡島さんに共感することができた。

ほり屋飯盛

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