KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2015年07月21日

女性がいきいきと働く社会は、明るい未来を連れてくる

photo_instructor_779.jpg「夕学五十講」を何度か聴講しているが、この日の開演前に配布された資料の厚さにまず驚いた。全22ページ。1ページあたりスライド2枚が掲載されている。
今回は、村木さんの解説を聴きながら、さまざまなデータやグラフが掲載されている資料を読み進めていくスタイルだ。


グラフから読み解く未来と希望
講演の冒頭、配布資料のなかの「少子化の進行と人口減少社会の到来」という見出しのついたグラフが紹介された。一目瞭然、年を追うごとに出生数がどんどん減っているのが分かる。しかし、このグラフが示しているのはそれだけではない。グラフの中の”第二次ベビーブーム”は昭和46~49年。しかし、その後”第三次ベビーブーム”は到来していない。第二次ベビーブームに生まれた人は現在40代で、ざっくり言えば「子供を産み終わっている世代」だ。にもかかわらず、現時点で次のベビーブームが来ていないということは、恐らくもう来ないのだろう。
「あれだけたくさんの”親予備軍”がいたはずなのに、子供が生まれていない。それほどまでに、現在の日本は子供を持ちづらくなっているということでしょう」と村木さんは言う。
そして、現時点で子供の数が少ないということは、未来の子供の数が増えるはずもない。
別のグラフを見ると、2060年には高齢者人口の割合が40%を超えるとの予想が示されている。ここにも暗たんたる未来がある。
しかしよく考えてみると、この時期に社会の中心となる20~30代の人たちは2015年現在にはまだ生まれていない。ということはつまり、この後10年くらいの取り組み次第で2060年は変えられるかもしれない。村木さんは、これを「ひとつの望み」と表現した。
さらに「もうひとつの望み」として挙げられたのは、グラフ中の「生産年齢人口」には女性や障がい者も含まれている、ということ。”今は働いていない人”たちが活躍できる社会になれば、大きな潜在パワーと見なすことできる。
高齢者の定義も、現時点では「65歳以上」ということになっているが、今は元気なお年寄りがたくさんいる。将来はもっとパワフルになっていくだろう。60代後半も立派な働き手と考えれば、「ふたりでひとりを支える社会」の実現も夢ではない。
女性だけの問題ではない
日本は、世界でも類を見ないほど女性の教育水準が高く、また健康状態が良いとされている。諸外国からは、「女性への”投資”は十分なのに、もったいない国」と言われているそうだ。
ただ現実問題として、女性が出産後も仕事を続けるにはたくさんのハードルを乗り越えなくてはならない。私の周りを見ても、堂々と時短勤務できている女性は数えるほどだし、働くママはもれなく慢性的な睡眠不足に悩まされている。仕事と子育てを両立するには常にフルパワーでがんばらなくてはいけない状況で、二人目三人目を生み育てようという気になれるだろうか。自分に置き換えると、まるで自信がない。
この問題を考えるにあたって村木さんが提示したポイントは、”そもそもこの国は長時間労働者の割合が大きすぎる”ということ。女性だけの問題ではない。男性も含めた、全就業者の話だ。
長時間労働が引き起こす問題はふたつある。
ひとつは、女性も男性と同じくらい長く働くことを求められる風潮が生まれてしまうこと。子供の突発的な体調不良によるお休みや、保育園のお迎えのために決まった時間に帰らざるを得ないことに対して理解の無い職場では、働き続けるのは難しい。
もうひとつは、男性も長時間労働を強いられているために子育てを分担できないこと。たしかに、私の周囲のほとんどのママは(共働き・片働きにかかわらず)、夫の十分な協力を得られずに孤軍奮闘している。パパとしても、可愛い我が子との時間を思うように取れないのは辛いだろう。
つまり、少子化も、出産後の女性の社会進出がままならないのも、女性だけの問題ではないということだ。男性の自由な時間を増やし、子供が生まれたら堂々と育休を取れる社会にすることが、やがては少子化ストップや女性の社会進出を促すことに通じる、というのは目からウロコの発想だった。
パイオニアの言葉の重み
村木さんがご自身のキャリアをスタートした当時は、女性の残業時間が規制されていたそうだ。また、村木さんが第一子を出産したころはゼロ歳児保育も育休もなかったそうで、自ら探した「保育ママ」に生まれて間もないお子さんを預けて仕事を再開したというエピソードはショッキングだった。しかも、お子さんが2歳のときに命じられた島根への転勤は”子連れ単身赴任”だったそうで、このエピソードもユーモアをまじえてさらっと語っていらしたが、相当なご苦労だったろうと思う。
「子供がいるからといって全てを諦めなくてもいいのかな、と思います」
「自分のころと較べると、少しずつ良くなってきています」
村木さんの言葉のひとつひとつに、働く女性のパイオニアとしての重みを感じた。
パイオニアといっても、ただのパイオニアではない。村木さんは官僚のトップに上り詰めた超エリートだ。こう書くと、キレキレでコワモテの女性を想像する人もいるかもしれないが、村木さんの語り口はあくまで優しく穏やかで柔らかい。「外部のサービスを使ってカバーできることがあるのなら、積極的に頼ればいいと思うんです」という村木さんの言葉に励まされる女性はたくさんいるのではないだろうか。
実際のところ、女性が長く働きつづけるにはいくつもの高い壁を越えなくてはならないのが現状だ。でも村木さんのお話を聴いているうちに、「村木さんたち行政が世の中のシステムを変えてくれたら、そして私たち自身の言動によって周囲の認識を少しずつ変えていけたら、本当に明るい未来がやってくるのかもしれない」と、素直にそう思えた。
講演終了時、立ち上がりそうな勢いで拍手していた隣席の若い女性も、きっと同じ思いだったに違いない。

千貫りこ

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