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夕学レポート

2016年06月06日

限りなく透明な産廃業者 石坂典子さん

photo_instructor_821.jpg今回のレビューにこのタイトルを持ってきたのは、石坂産業社長、石坂典子さんのお話を聴き終えた後に「限りなく透明に近い産廃業者」という言葉が思い浮かんだからである。村上龍の小説『限りなく透明に近いブルー』を文字っている。しかし、透明に「近い」は失礼だなと思った。講演を聴いたかぎり、ズバリ透明である。石坂産業は透明な産廃業者なのだ。そして、社長の典子さんは、これからも透明性を追求していくと感じた講演であった。

不可能に思える差別化

産廃業者において、他者との差別化は可能なのか?顧客は不要なものを捨てるのに、価格にしか反応しない。つまりは安ければ安い業者ほど選ばれる世界なのだ。生き残る方法は、つきあいと、熾烈な価格競争しかないように思われる。しかし、値下げは値下げを呼び、赤字経営をしている産廃業者も少なくない。
そんな状態の中、石坂産業は異色を放っている。事業とは真逆である環境問題に積極的に取り組むことで、他社との差別化をはかり、自社のポジションを明確にしている。いかにして、典子さんはこの発想に至ったのだろうか。

ダイオキシン問題で絶体絶命

転機は1999年、今から約17年前であった。当時、所沢付近の野菜が汚染されているとの報道があり、石坂産業は会社存続の危機にさらされた。先代社長であるお父さんの「会社を存続させたい」という思いから、典子さんは社長に就任した。しかし、お父上は猛反対だったそうである。産廃業者のお客様は入れ墨をガッツリいれた兄ちゃんたちである。「そんなに(廃棄の)量入ってねーだろ」とドスを効かせて値切る奴らに、女では対抗できないと言われた。(*この話のくだりで、入れ墨兄ちゃんより、その辺のおばちゃんのほうが100倍怖いけどなーと思ってしまった。いえ、何でもないです。)
話を戻そう。そんなわけで、父親の猛反対を押し切って、社長になった。しかし、進んだ道はいばらの道であった。

石坂サティアンと呼ばれて

典子さんは「産廃屋らしくない産廃屋」へと、変革をはじめた。業務を縮小した。経営者にとって難しいことは、「事業を拡大することよりも縮小すること」だと強調された。自分が成長させた会社を小さくする決断は、どの経営者にとっても難しい。そして、施設をすべて屋内型にして、プラントを綺麗にみせようとしたのだ。そうすることで、外からの見た目もきれいになるし、粉塵は外に飛ばないしで、ご近所に迷惑がかからないようにした。しかし、「何やっているかわからない」「中で怪しいことでもしているのではないか」と、石坂サティアンと呼ばれてしまった。(サティアンを知らない世代の方は、ググってください。)

そして、見せる化へ

産廃業者は不透明な部分が大きい。例えば、今年の1月におきた冷凍カツ事件(産廃業者に処分を依頼したはずの冷凍カツが、再び店頭に並んでいた事件)も、事件がおきて産廃業者の不透明性に気づいたのではないか。私たち外部からは産廃業者がどのように動いているのか知る由もない。典子さんは石坂産業をまわりの人たちに見せて行こうと考えた。
社員教育を徹底し、3S(整理、整頓、清掃)を徹底し、工場見学ができるようにした。そして、森再生プロジェクトを立ち上げ、近所の人たちにも開放した。
工場を訪れた人たちからは、産廃業者の先入観が薄れ、本当の意味での「地域と共生していく産廃業者へ」と徐々に歩みを進めはじめた。現在では、教育にも力を入れており、子供たちが楽しみながら、学べるイベントも充実させている。
私は経営戦略には詳しくないので、細かいことはわからないが、典子さんのお話を聴いて、「常識を常識として捉えないこと」が、石坂工業が成功しているキーポイントだと感じた。典子さんは、女性蔑視の世界で「女にはイノベーションは無理」と言われたことがあるそうだが、この自由な発想はまさしく、ドラ娘の発想ではないだろうか。(留学という名目でアメリカをフラフラされてたそうで、ドラ娘と呼ばれたそうです)。そして、ここには書ききれなかったが、まだまだ女性経営者としての苦労や、内部の社員教育、ISO取得のお話しもして頂いた。詳しくは『絶体絶命でも世界一愛される会社に変える!』という本も出しているそうなので、ぜひお買い求めください。
「限りなく透明な産廃業者」。石坂産業には、これからも業界全体が透明になるように、全体を牽引して行って欲しい。
追記
後日、講演会場で配られた石坂産業コミュニティ誌『やまゆり倶楽部』や三富今昔村の案内を読んでみた。意外であった。私は産廃業者と女性社長という物珍しさ(当日は密着取材のテレビカメラも入っていた)に加えて、容姿の美しさから、もっと典子さん自身を打ち出したパンフやHPを予想していた。しかし、そこには自然と教育が前面に打ち出されていて、好感が持てたので、ぜひご覧ください。
(ほり屋飯盛)

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