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夕学レポート

2017年07月24日

人を幸せにする働き方改革~働き方改革を次のステージへ~

photo_instructor_863.jpg 現代では、働き手の価値観は多様化し、同じワークとライフのバランスに関する価値観を共有することは難しい。出社は求めるが、「毎週水曜日は早帰り」というような全社統一の働き方改革により、社員は自律的な労働の管理ができなくなり、仕事のやりがい失うを可能性がある。学習院大学の守島先生は、企業のこのような働き方改革が「働かせ方改革」に陥っているのではないかという疑問を呈し、働く人が意欲を持って仕事に取り組み成長できる働き方改革を推奨した。
 守島先生が必要と考える働き方改革の目的は、働く人の幸せとその結果生まれる持続可能な企業づくりである。その改革は、働く人が意欲と誇りをもって仕事に取組み、仕事を通じて成長し、その結果、人生を豊かにすることを可能にする改革であるべきだと説明した。また、それが結果的に人材の持続可能性向上につながり、長期的に企業を強くするという。
 逆に言えば、うまく働く人の心をマネジメントできず人材が成長しないと、企業の弱体化を生む。近年では、人材の質が低下したことで、倒産する中小企業もあるほどで、企業の弱体化がわが国の深刻な問題となっている。
 企業は、働く人が自律的に働く内容と時間を管理することができるような仕組みを構築し、従業員の心をマネジメントする必要がある。人材不足の中で働き方改革の機運が高まった今だからこそ、日本人が労働を自律的に管理する仕組みの整備を始めるべきだと先生は考えている。


 具体的に、先生は企業のとるべき4つの対策を教えてくれた。例えば、1. 従業員の自律促進。働き手の武者修行やキャリア開発のことであり、先生は、成長した従業員の転職を恐れる企業こそ、意識の改革を求めている。また、2. 個を尊重する人事管理も重要な対策である。まず、個のニーズを理解し、それを可能な限り尊重し対応すること。これには、多様なキャリアに柔軟に評価・処遇できる制度や、優秀な者だけでなく全員を戦力とみなし、それぞれの成長を個別評価・処遇する心構えも必要となる。3. 企業全体での仕事と仕事文化の見直しとして自社の仕事を総合的に見直し、暗黙知化された知見や仕事の方法を言語化し、様々な場所や時間で働く社員に伝えること。最後に、4. 新たなリーダーシップ像の確立がある。強いリーダーシップではなく、多様性への配慮や志・目標の高さ、自分らしさを持っているリーダーシップを推進すること。
 以上の4つを通じて働き方改革を画一的な労働時間の短縮対策から次のステージに昇華させ、働き手の自律的な労働を促進することで、最大限のパフォーマンスを引き出すことができれば、人材も企業も長期にわたり強化される。
 お話を伺って、日本には実際に自律的なキャリアプランを立てて、それに向かって行動したいと考える人材がどれだけいるだろうと考えてみた。先生は、優秀な人材は自律的で、企業の選択に当たりワークライフバランスや仕事に対するやりがいを重視する傾向にあるという。それはその通りだと思うのだが、一方で、日本の生き方は欧米に比べ、優秀層だけ取ってみても多様性が少ないと感じる。この要因は、人と異なることで仲間はずれになるリスクを恐れる感覚ではないかと思う。
 例えば大学卒業後の進路選択に関して、日本は欧米に比べ多様性に圧倒的差があると思う。日本では経団連が就職活動の時期を設定し、大卒予定者は一斉に企業の面接へ出かける。学生時代にインターン経験を積む学生は増えたが、大学卒業まででその経験を終えないといけない空気があるように思う。一方で、欧米の大学生は、卒業後は企業に就職せず、ボランティアやインターンとして海外での業務経験を積むことも多い。このように欧米では、キャリアのスタート地点においても多様性がある。
 多様性の幅が狭ければ企業が個別対応するコストが安いのかもしれない。同様の経験を積んだ同僚と悩みを共有できるかもしれない。しかし私は、リスクに対する考え方を修正する必要がある思う。
 自分が勤める企業や部署がいつなくなるかもわからない現代では、画一的な生き方を選択するほうが自分の雇用を危うくするリスクになるのではないだろうか。同じスキルを持ち合わせた同じ年の人が多ければ多いほど、いざ転職せざるを得なくなったときに自分と同レベルの競争相手が多くなる。他方、仲間とは違う選択をして経験を増やし、特技を備えればそれだけ、代替ができない人材になる。
 企業にとっても、多様性は強みとなるはずである。イノベーションの創出に多様性は不可欠であるし、他人とは異なるキャリアを自律的に選択してきた人材は、他人に同調して既定路線を進んだ人材より、リスクの取捨選択やビジネスにおける判断能力に優れていると感じる。
 守島先生によると、日本の大学では学生が自律的な決断や発言ができるよう、先進的な授業やプログラムを導入しているようである。今の学生が企業に入社してくることで、企業の新陳代謝は進み、人材の多様化は確実に進行していくことを期待したい。多様性という武器を備えたそんな学生の未来は明るいのだと信じたいと思う。そして、企業は既に自律的で多様な価値観を持つ働き手への対応のみならず、自律的な従業員を育成することにも目を向けることが求められるのではないか。
(沙織)

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