夕学レポート
2006年02月08日
「ジェネレーションYの起業家に聞く」
「ジェネレーションY」とは、デジタル時代に育ちネットを空気のように当たり前のものとして使いこなす世代を意味する言葉だそうです。何年生まれから「ジェネレーションY」と飛ぶのかは日米で基準が異なり、しかも日本でも諸説あるようですが、だいたいその時代に生まれた人々は、それ以前の世代とは明らかに違う価値観を持っているという認識から生じた概念かと想像されます。ところがそれは、あくまでも上の世代から彼らをみた時の感覚であって、当の世代の人にとっては、自分達が上の世代と価値観が異なるという意識はそれほどなく、違いを感じるとすれば、ネット社会の本質を掴まえることができるかどうかという洞察力であって、それは年齢とは関係がないという印象のようです。
確かに、「ジェネレーションYの起業家達」の話を聞いていて、世代論というレッテルでひと括りには出来ない普遍性を感じました。
同じジェネレーションYでも、ネットプライスの佐藤さんとクララオンラインの家本さんとは少しタイプが違います。お二人の事業ドメインの違いが、なんとなく人柄にも現れているのです。佐藤さんは、Eコマースというネットビジネスの激戦区で数少ない勝ち組に入るだけに、ネットの最前線を切り拓いている華やかさを感じます。家本さんは、サーバーホスティングというネット社会の縁の下の力持ち的存在を事業ドメインにしているせいか、どっしりとした安定感があります。一口にIT企業といいますが、その多様性を改めて認識しました。
もちろんお二人には共通点があります。会場でお話を聴いた聴衆の皆さんが感じたように、頭の回転の速さや立て板に水の弁説力、年齢を感じさせない信頼感という点は一緒です。私は、もうひとつ、言葉の端々から強烈な「達成動機」を感じました。上昇志向や事業欲というギラギラしたものではなく、自分が決めたことをなにがなんでもやり抜こうという強い意欲のようなものです。
「コンピテンシー」という言葉は、一般的には「成果につながる行動特性・思考特性」と定義されていますが、その昔のモチベーション(動機付け)論研究に源流があることはよく知られていることです。コンピテンシー概念の最初の提唱者である社会心理学者D・マクレランドはモチベーション研究、特に「達成動機」論の研究者として有名ですが、彼は、高いパフォーマンスをあげる人々の特徴を分析した結果と知的能力の高さやスキルの有無ではなく、自分が決めたことをやり抜こうという達成意欲を持っていることが決定的な要因になるという事実を発見しました。それが「コンピテンシー」という概念を産み出すきっかけになったといわれています。
マクレランドの研究から30有余年。YだのXだのとラベルを貼って分類したとしても(世代論の有効性は認めますが)起業家に一番必要な素養は変わらないことを改めて認識しました。そして、ベンチャーインキュベーションの社会的インフラが「達成動機」を持つ若い人々を上手にすくい上げ、育てるものになることを切に祈る次第です。
登録

オススメ! 春のagora講座

6月14日(土)開講・全6回
小泉 悠さんと考える
【日本の安全保障】
政治、経済、環境、技術など多角的な要因を考慮する広義な「安全保障」を議論する。

人気の夕学講演紹介

2025年5月27日(火)18:30-20:30
アテンション・エコノミーのジレンマ
山本 龍彦
慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)副所長、慶應義塾大学 X Dignityセンター共同代表
偽・誤情報や誹謗中傷、さらには社会的分断の一因になっているとも言われる「アテンション・エコノミー」が孕むジレンマに人権や民主主義の観点から迫り、克服の糸口を考えます。

人気の夕学講演紹介

2025年5月30日(金)18:30-20:30
蔦屋重三郎の仕事に迫る
鈴木 俊幸
中央大学文学部教授
NHK大河ドラマ『べらぼう』時代考証教授
次々と流行を生みだしていった蔦屋重三郎との仕事ぶりを辿り、江戸時代中期から後期へと大きく変化する時代の様相を見てみます。
登録