KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2006年04月06日

「科学立国ニッポンの危機」 立花隆さん

『夕学五十講』2006年前期のトップバッターは「知の巨人」立花隆さんです。お聞きすると、忙しいこともあって、講演はよほどの義理がない限りおやりにならないそうです。我々に義理があったわけでもありませんが、慶應MCC開設間もない頃、あるプロジェクトで講義をお願いしたことがあり、そのことを憶えていらっしゃって懐かしさもあってお受けしていただいたとのことでした。昨夜というより今朝まで、東大立花ゼミの学生さんと二人で、きょうのプレゼン資料を作成していただいたとか。
講演は、「科学ニッポンの最前線」というよりは「科学ニッポンの危機」といった方が相応しい内容でしたが、最前線を追いかけている立花さんの強烈な危機感が伝わる2時間でした。


講演は、危機に立つ日本の科学技術の現状からはじまりました。
立花さんは、まず、日本の科学技術分野における知的生産性の低下が著しいと指摘します。基礎科学の分野で生産性をはかる指標となる研究論文の量(発表数)と質(他者から引用された件数)の両方で諸外国に劣っているとのことです。米国がダントツであるのは当然としても、ヨーロッパ諸国と比しても低い水準だそうです。
それでは、研究費が不足しているかといえば、けっしてそうではなく、研究費の総額は世界第2位、GDP比でみれば世界一とのこと。とはいえ、研究費の70%は民間に頼っており、政府予算の割合はわずか。つまり金儲けに直結する応用研究の分野では企業の研究開発費が期待できても、すぐに成果を見込めないゆえに、政府が負担すべき基礎研究に向けられる予算はわずかしかなく、悲惨な状況だそうです。しかも小泉・竹中改革の影響で、その状況は益々悪くなる傾向にあります。科学技術創造立国とは名ばかりで、将来の種に戦略的な投資をしようとしない政府の姿勢に対して、立花さんが強い問題意識を持っていることがよくわかりました。
立花さんの問題意識は、科学技術の現場をささえる人的資源の能力低下にも向けられています。日本の国際競争力の担い手であった生産現場の技術労働者においても、先端科学技術の研究を担う東大などの一流大学の学生においても、知力と意欲の低下は目を覆うばかりとのこと。ゆとり教育政策以降、東大では、これまでの水準の教育を続けるためには、駒場での教養課程で大規模な補習授業を組まないと対応できない状況だそです。
カネとヒトの両面で地盤沈下の激しい日本の科学技術。「軍事研究」という科学の進歩を支える暗部をもたない日本では、仕方ない部分もあるかもしれませんが、莫大な富を惜しげもなく注ぎ込む米国や進境著しい中国に互して戦うには、あまりに基盤が貧弱であることを指摘されると、正直暗澹たる思いにさせられます。
一方で、暗い話ばかりではなく、数は少ないながらも、夢のある素晴らしいプロジェクトも合わせて紹介いただきました。地殻を突き抜けマントルまで掘り抜いて、地震のメカニズムや生命の謎を解明しよういう「地球深部探査船プロジェクト」 10の15乗をあらわす10ペタレベルの超高速スーパーコンピューター、東海村に作られているニュートリノ研究のための大規模実験施設等々。世界をリードする先端研究もいくつか存在しているそうです。詳しくは是非立花ゼミの科学総合情報サイト「SCI(サイ)」をご覧ください。
そんな先端研究のひとつに脳科学研究があります。これまでよくわからないものとされてきた人間の記憶のメカニズムが少しずつ解明されているそうです。立花さんによれば、解明される程に人間の脳が恐るべき高性能マシンであることが明らかになったそうです。「頭が一杯になって憶えられないということは絶対にありません。どんな人にもスパコンなみの記憶容量があります。いくら勉強しても大丈夫です」という立花さんの一言に会場が沸き立って第一回目の夕学が終わりました。

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