2010年11月08日
『10年目のリフレクション』連載開始に寄せて
城取一成
慶應MCCゼネラル・マネジャー
慶應MCCが産声をあげて10年になる。
これまでに約1000本のプログラム・講座・講演会を開催してきた。延べ受講者は約11万2千人以上になる。「働く大人の学びの場」として、多くの人々に集っていただいてきた。
「MCCには、入学はあっても、卒業はありません」
開設した当初からそう話してきた。
MCCのプログラムを受講していただいた方は、リピートするかどうかに関わらず、学びたい意欲と行動力があれば、いつでも気軽に活用できる、開かれた学びの場を目指していたからだ。
• メーリングリストは、情報交換がなされている限り半永久的に閉じない。
• プログラム終了後であっても、受講者間の自主的な勉強会・ミーティングを開催する場合には、無料で会場を提供する。
この二つは10年前から継続してきた約束事である。
誰かが用意した学びの場に自主的に参加するだけでなく、自ら学びの場を企画し、デザインする人々を支援したい。そういう人々が集うコミュニティでありたいと願ってきた。
残念ながら、1000近い受講者OBコミュニティのうち、自然消滅してしまったものも多いが、理想的な形態で継続的に活動している、いくつかのコミュニティがある。
その中のひとつ、MCC草創期に生まれ、アクティブな活動を10年近く続けている仲間達が、本企画の主役である。
2002年5月に開講した【キャリア・アーキテクチャ論】(コーディネイター:金井壽宏神戸大大学院教授)の受講者コミュニティである(自称:CA論メイト)。
交わされたメーリングリストの総数は2,800を越えた。有志が集まった会合は数知れない。勉強会、飲み会、送別会、独立激励会、起業祝賀会etc。メンバー同士でビジネスに発展したこともあったようだ。
プログラム主催者の立場でコミュニティに加わったはずの私も、いつしか仲間の一員になってしまった。
グラノヴェッダー流に言えば、「弱い紐帯」を繋ぎ合ってきたソーシャルキャピタルである。
気がつけばもうすぐ10年。そろそろ何か形になるものを残せないかという話が、誰ともなく持ち上がったのは、今年の春のことだ。
かつて「キャリア論」を学んだ同士、やるべきことはみえていた。「10年目のリフレクション」というテーマはすぐに決まった。
4月から頻繁に会合を開いて、内容は進め方を議論した。
出会った時の新鮮な感動を思いだそうと、第一回目の講義ビデオを鑑賞したところ、自分達の10年前の若々しい姿に愕然とし、そろって意気消沈したこともあった。
8月に、各自の草稿が出揃ったところで合宿をやった。
酒を酌み交わしながら朝の四時まで続いた激論は、いつのまにか、酔いにまかせた大ダメ出し大会に変わっていた。
いくら酔っぱらっていても、耳の痛い忠告を謙虚に受け止めることが出来るのは「キャリア論」を学んだ成果であろうか。
最終原稿を読んだ時の共通印象は、「はじめて聞くことばかりで驚いた!」というものであった。誰もが、赤裸々な悩みや葛藤を綴っていたからである。
見方を変えれば、誰もがこういう「内省」の機会を待っていたのかもしれない。
「内省」は、達磨大師のように壁向かって呻吟するものではない。支援者・協力者の手を借りて行うべきものだ。
• 語るともなく口にした言葉を拾ってくれる人
• 認めたくないプライドの存在を指摘してくれる人
• 忘れていた時代の原点に引き戻してくれる人
• うしろからそっと背中を押してくれる人
「10年目のリフレクション」という企画は、そういう温かな人間関係の中から紡ぎ出されてきた。10年の年月を経て、わたし達の関係性と信頼感が、その次元にまで高まっていたことを知ることが出来たのは、望外の幸せであった。
これから1年半をかけて、13人の「10年目のリフレクション」をお届けすることになる。
執筆者は、さまざまな組織・働き方・生き方を選択してきた33歳から63歳までの男女である。
そこには、劇的ドラマや波瀾万丈の人生はないかもしれない。毎日通勤電車に揺られ、上司・部下に気を使い、クライアントに翻弄されている「ごく普通の人々」の10年である。
「ごく普通の人々」が、どこにでもある、そして誰にでも起こりうる出来事や心理的葛藤を、等身大の解決策を捻り出しながら乗り越えてきた10年の記録である。
「働く大人の学び」とは、賢人の至言に心地よく酔うことではない。日常に埋め込まれたありふれた機会の中から、自ら掴み取るものだということに気づいていただければ幸いである。
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