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ネットワーク時代の教育とファシリテーション

2003年08月05日

國領二郎
慶應義塾大学環境情報学部教授

遠隔教育の台頭

テクノロジーの進歩とブロードバンドアクセスの急速な普及に伴って、遠隔教育に対する期待が高まっている。上手に活用すれば学びを志す人が距離の制約をこえて、希望する講座・コンテンツに取り組むことができる。すでに語学やIT講座等の学習で利用され始めている。
遠隔教育と一口で言ってもいろいろな形態がある。我々は概ね(1)同期型と非同期型、と(2)在宅型と拠点型に分けて考えている。

同期型は、遠隔地などに分散している受講者に対して、テレビ会議システムやパソコン、電話などを利用してリアルタイムで講義を行なうもので、質問やディスカッションもできる。また音声と画像だけでなく、資料の共有や、文字チャット等のツールを利用して、マルチメディアの教育空間ができる。 対して非同期型は、CD-ROM教材をコンピュータで自学自習するCBT(Computer Based Training)や、ネットを通じて受講者がいつでも好きなときにーバにアクセスして学習するWBT(Web Based Training)がその代表例である。

遠隔で「学び合い」

慶應ビジネススクール(以下KBS)でも、約8年前から遠隔教育についての様々な試みを行なってきたが、特に同期型の形態に拘ってきた。その最大の理由は学生同士による「学び合い」を実現させたいということであった。KBSでは、ケース教材を使って学生間で徹底的に議論をすることを通じて、自ら状況を分析し、知見を体系化し、第三者を説得できる訓練をしている。また、高度に専門的な内容は単に教科書を読んだり講義を受けたりすることで身につくものではなく、学生同士が相互に知的に刺激し合うことによってのみ修得できるものと考えている。様々なフェーズにおいて非同期型ツールで充分な教育が実現できるかどうかを実験してみたが、得られた結論は、密度の高い議論は集合であれ遠隔あれ、リアルタイムで実施する必要がある、ということであった。

また、継続率を高めるという狙いもある。受講者を途中挫折させずに完了させることは、遠隔教育の大きな課題である。これは「いつでもどこでも」受講できるという利便性の代償であろう。時間や場所を強制されないことで受講者はより強い意思がないと継続できないのである。これに対して、リアルタイムで討論を行なう授業形態では、学生間のつながりが抑止力となって挫折しにくい傾向にある。我々の取り組みにおいてもほとんどのコースのドロップアウト率は5%以下で、通常の教室における授業並におさえることに成功している。

さらにコストの問題もある。同じような研修を集合で行なう場合に比べ、WBTではコンテンツ開発に数倍から数十倍の初期投資額が生じるために、受講者数が少ない教材についてはWBTでの開発は難しいのが実情である。

これらの知見を元に、KBSでは3年前から外部受講者向けにリアルタイムの遠隔講座を開催してきた。1クラス20~30名程度、その殆どが自宅や会社での受講で、北は北海道から南は九州、さらには韓国からの参加者もあった。

ファシリテーター育成の必要性

このように、場の制約を最大限取り去ることで教育に様々な可能性が生まれてきた訳であるが、この形態も万能ではない。長時間一方的な講演・講義になってしまうと従来の形式よりも短時間で集中力が切れてしまう傾向が見られたために、色々な方法でインタラクティブ性を維持して受講生に刺激を与えることが必要で生じた。また、講師に対する負荷の大きさも深刻な問題である。この遠隔授業ではテレビ電話、文字チャットさらには資料を睨みながら授業を進行していかなくてはならず、前述のような受講生に飽きさせない工夫も必要となり、それが全て講師に対する負荷となってくる。

従って、同期中心とした遠隔授業においては、1人の講師が講義内容の決定、講義で使う資料を選定あるいは作成、講義の実施、学生との質疑応答、学生への課題やテストの実施、成績評価まですべて行なうのは困難であり、アシスタントやサポートスタッフによるチーム運営が不可欠なのである。しかしながら、日本ではリアルタイム遠隔教育の運営スキルや、遠隔教育に特化したプログラムを企画・開発できる能力を持った人材が殆ど存在しないのが実情である。

今後様々な講座・授業がパソコンや専用端末を利用して、自宅や職場など好きな場所から、また地域の格差なく、誰でもが自分が受けたい講座を受講することが可能になるか否かは、それらの講座運営を支えるファシリテーターやアシスタントをいかに多く養成できるか否かにかかっている。このような問題意識のもと、MCCでは2003年9月より10回シリーズで「遠隔教育プロデューサ養成講座」という講座をスタートすることとなった。遠隔教育成功のポイントを「Strategy(戦略策定)」「Facilitation(学習促進機能)」「System(学習支援システム)」と捉え、遠隔教育の導入、展開、運用について実践的なアプローチで考察し、効果的効率的な遠隔教育を総合的にプロデュースできる人材を育てるための、他に類を見ない講座である。これは大きな可能性を秘めた遠隔教育を普及させるための第一歩である。
(『月刊丸の内』 8月号より)

國領 二郎
慶應義塾大学環境情報学部教授

東京大学経済学部経営学科卒業後、日本電信電話公社勤務。その後、ハーバード大学経営学修士(MBA)、経営学博士(経営情報システム専攻)修了。慶應義塾大学経営管理研究科教授を経て現職。専門は、経営情報システム。

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