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安藤 浩之「リーダーのための仕事哲学」

2011年12月13日

安藤 浩之
慶應MCCシニアコンサルタント

アカウンタブルなリーダーが少ないことに愕然

昨今の日本の経済や産業界において、不用意な発言や社会通念から逸脱した行動が繰り返され、報道されるたびに、多くの人が心を痛めていることでしょう。本来、目の前にある危機に対して、人は一致団結して力を発揮すべきはずなのに、いったいどうしたのでしょうか。責任受容できるリーダーが少ないことに愕然とします。

世界的に有名なフォーブス誌の発行人であるマルコム・フォーブスは「責任を引き受けることを楽しむ人は、大抵、責任ある立場を手に入れる」「権限を振るうことだけが好きな人は、大抵、その地位を失う」と言っています。まさにそのとおりです。

また、小説家のエリカ・ジョングは「問題は、何のリスクも冒さなければ、さらにリスクを負う羽目になる」と言っています。責任を引き受けるとはリスクをとるということに他ならず、リスクをとる覚悟ができていないままにリーダーシップを発揮しようとしているところに、問題があるように思います。

優れたリーダーであるために

それでは、優れたリーダーとはいかなる人物でしょうか。たとえば、今は亡きスティーブ・ジョブズを思い浮かべるでしょうか。あるいは、GEのジャック・ウェルチ、IBMのガースナーやイメルト、フィアットのマルキオンネ。こうした人物に共通しているのはリーダー自身がイノベーティブであるとともにカリスマ性があるということです。

リーダーシップを語る際、このふたつのリーダー特性がよく出てきます。GEと言えば、ジャック・ウェルチ。日産と言えば、カルロス・ゴーン。会社名を言うだけでCEOの名前が出てくる場合、大抵、そのリーダーはイノベーティブであり、イノベーティブなリーダーが注目されやすいというのは事実です。しかし、イノベーティブなリーダーばかりが優れたリーダーというわけではありません。イノベーションは組織にとって通過点に過ぎず、破壊、喪失、創造の先にある維持や定着を指揮したリーダーが注目されないのは残念なことです。

一方、カリスマ性についても同様です。カリスマ性のあるリーダーばかりが優れたリーダーというわけではありません。業績の良い時にカリスマと言われたリーダーも業績が低迷してくると独裁的と評されてしまいます。同じ人物であったとしても、そのように言われてしまうのです。そもそも、カリスマ性のあるリーダーは、そんなに多く存在するものでもありません。よって、カリスマ性のあるリーダーが優れたリーダーの要件となると、ほとんどの人はリーダーになることをあきらめなければなりません。

それでは、優れたリーダーであるために大切なことは何でしょうか。作家のトマス・フラーは「どこにでもいる人は、どこにもいないのと同じである」と言っています。つまり、優れたリーダーとは、イノベーティブであるとか、カリスマ性があるとかということよりも、「他の人との違い」があるということが大切なのではないでしょうか。

違いはどこから生まれるのか

それでは、他の人との違いはどこから生まれるのでしょうか。ここでは、「人生態度」に注目して話を進めることにしましょう。人生態度とは、その人の人生に対する基本的な姿勢(心構え)を指します。人は生まれ育つ中で、多様な経験を通じて人生態度を形成しているものです。カリスマ性と異なり、誰もが持っているものであるにも関わらず、多くの人はそれを無意識化し、自分の人生やリーダーシップ発揮の指針としていないところに問題があります。その一方で、有意識化して実践に結びつけリーダーシップを発揮している人もいるものです。

たとえば、アメリカのジェットブルーという航空会社は、格差のない企業経営をポリシーとする格安航空会社として有名です。その背景には、創業者であるデビット・ニールマンが若い頃、ブラジルの貧困社会を目の当たりにし、心を痛めたという原体験があります。

グンゼの創業者である波多野鶴吉氏は教師であり、蚕糸業を営む家庭の子供たちが貧しく苦労していることを知って地域の産業振興を願い、会社を創業したと聞きます。

これらの例が示すように、どのような人生態度を持っているのかによって、その人の行動が決まります。行動が決まれば、その先の人生が変わります。この人生態度と行動に人々は共感し、自然と集まってくるものなのです。

観想と志想

振り返るべきは人生態度です。自身が体験したさまざまな出来事を振り返り、その時、何を想い、何を感じ、何を考えたのか言語化し、有意識化することが大切です。人生態度から培われたものの見方や考え方の軸は「哲学」とも言えるでしょう。しかし、過去の経験の蓄積によって長年にわたって形成された人生態度を変えることは容易なことではありません。蓄積に要した年数と同等の年数をかけなければ変えることはできないかもしれません。一方、人生態度に磨きをかけることはできるはずです。そのための鍵が「観想」と「志観」です。

観想とは、心を集中して物事の本質を洞察することです。大前研一氏は「洞察力は創造性を持ち、ある程度まで直感的で、ときとして現状打破の傾向を帯びているので、そこから生まれる計画は、分析的な観点からつじつまの合わないことさえある」と言っています。観想は直感的であるが故に独自色を有しており、他の人との違いとなります。

志想とは、信念や志のことです。世界有数の投資家であるウォーレン・バフェットは「信念とは、ただ心に備わった考え方なのではない。それは心を占有する思想である」と言っています。心を占有するほどの志想を持つことで、一点に集中できるようになります。一点に集中することで最後まで貫くことができるようになります。そこまでできれば他の人との違いとなります。

リーダーのための仕事哲学

「今までやってきたことをやり続け、新しいこともやらなければならない。このままでは、組織は疲弊するばかり」「これ以上、コストを削減したら品質問題になりかねない。目先の利益を追っていたら信用を失う」「”顧客を重視せよ”と会社は言う。その一方で利益も上げなければならない。いったいどっちを優先すべきなのかがわからない」 このように、ビジネス環境は複雑さが増し、容易に解決できない問題が多くなっています。こうした矛盾に対して、リーダーは観想と志想を養い、すなわちリーダーとしての仕事哲学をもって人々の共感を引き出し、集中して問題解決に向かわなければなりません。多くの人々はそうしたリーダーを待望しているはずです。

さて、あなたは優れたリーダーになれるのでしょうか。あなたが会社のトップマネジメントであるか否かに関わらず、より多くの人が仕事哲学を持ってリーダーシップを発揮すべき危機に、いま直面していることを私たちは理解しなければなりません。

それでは、どうすれば仕事哲学をもったリーダーになることができるのでしょうか。次の機会では、仕事哲学を形成するのに大切な観想、志想に磨きをかける方法を考察する予定です。

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安藤浩之(あんどう・ひろゆき)
安藤浩之

  • 慶應MCCシニアコンサルタント
明治大学法学部卒、英国ウェールズ大学大学院卒(M.Sc取得)。HOYA株式会社人事部を経て、1992年に産業能率大学総合研究所に入職。2004年同大学経営情報学部兼任教員、2006年主幹研究員、2008年同大学院総合研究所教授。2009年11月より現職。組織・人材マネジメント、戦略的意思決定論を中心に企業内教育で活躍中。
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