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これからの産学連携について

2004年01月13日

斎藤信男 株式会社慶應学術事業会 代表取締役社長、慶應義塾常任理事・同大学環境情報学部教授

産学連携という言葉や概念は、今や広く浸透した感がある。そこには、産業界側、学界側ともに今までのやり方では行き詰まりを感じ取っており、何か新しい手法が必要とされてきている背景が垣間見える。また、二者だけでなく、「官」をいれた三者「産官学」連携、「公」(自治体)をいれた四者「産官学公」連携などもよく言われている。それぞれが、相手にない部分を期待し、連携によってより有効的な活動や成果を期待しているのである。


「研究」の連携
産学連携の最も典型的で古くから行われてきたのは、研究分野の連携である。これは、委託研究、共同研究、研究コンソーシアムなど、種々な形態をとっているが、ある研究課題を決め企業と大学が共同で研究推進を行うもので、その深さや成果は様々の形態をとる。どちらかというと自然科学系の分野でやりやすいものであった。これに官の支援がつけば、多額の資金や多数の参加者が得られて大規模な研究プロジェクトになる。その辺りから、やや焦点もボケてきて、研究成果がはっきりしなくなる場合が多い。
このような研究活動での連携も、社会科学系あるいは人文科学系の分野でもかなり行なわれてきているのは大きな前進といえる。また、個人レベルから組織レベルの連携へのグレードアップも試みられており、大学と企業の包括的な研究の連携というものも見られるようになってきた。慶應でも、現在最初の例を模索しているところである。
「教育」の連携
産学連携は、相互の特色を活かした連携活動であるから、人材の育成を共同で行うことも当然考えられる。人材育成機関である大学が「余計なことに口を出すな」と居丈高になる必要はない。最近では、情けない話であるが、入試問題を民間の予備校に委託することも多く見られることである。勿論、手抜きのために外部と連携するのはご法度であるが、相互の補完をするというのであれば大いに歓迎すべきである。
現在のような社会制度、技術、国際情勢などが目まぐるしく変化する時代では、現役の大学生だけを育成しているのでは間に合わない。社会人教育、生涯教育という分野が、非常に重要になっている。欧米では、もともとその分野も、非常に重要な要素として捉えられてきた。例えば、英国で50前後の女性が仕事をしながら大学を卒業したいといったことを、制度的にも大学が大いに支えている。入学、卒業、日頃の学習活動などに最大限の協力を惜しまない。我が国ではどうであろうか?難しい入試、困難な卒業制度、日頃の学習のしにくさなど、仕事をもった社会人が本当に学習しやすい制度になっているのか、反省することが多々ある。
このような教育の連携は、産業界のニーズの把握、方法論、やりやすい運営方法などを大学がもっと積極的に連携して取り組み、制度を改革しなくてはならないと思う。そのような産学連携は、大いに歓迎すべきだ。
「産学地域」の連携
現在の我が国の経済の低迷は、ことに地方において目立っている。多くの大企業の撤退、税収の落ち込み、雇用不安など、良いことは何もない。一方で、三位一体改革ということで、地域の活性化は今後の我が国の重要なテーマになっている。地域経済のかなりの部分は、いわゆる中小企業が担っているのが実情である。これを活性化することは、急務であろう。慶應義塾は、東京に中心が存在しており、地方より中央、中小企業より大企業、ベンチャーよりもエスタブリッシュした企業との連携が主流をなしていた。この流れを変更することが我が国の将来にとって、非常に重要な課題となる。慶應の関連してきた地域、例えば山形県の鶴岡(庄内地方)、岐阜県の大垣、など非常に苦労して産業育成、集積を計っているが、なかなか思うに任せない。
慶應学術事業会の今後の新規事業に、「産学地域連携」事業というものを設定したいと考えている。その具体案は、まだ未定であるがいくつかの要素を含むと想定している。たまたま、昨年10月から『夕学五十講』の一部を通信衛星を使っていくつかの地域に配信することを始めた。これは、「研修」事業の一環であるが、それは地域連携のきっかけを与えてくれるだろう。研究と教育の二つの軸の地域連携が進めば、我が国の将来への大きな貢献になるのではないかと期待している。
「統合的な産学連携」
産学連携の具体的な面では、個別で戦略のない連携から、戦略に基づき設計された統合的な連携にシフトしていかねばならない。そこでは、例えば大学の知恵、身軽で専門性の集中した中小、ベンチャーのような企業、経験を積み大規模な市場での経験が豊富にある大企業がある共通のテーマについて役割分担をしっかり決めて相互に連携していくプロジェクトを行っていく。そこに官の強力な支援をして貰う。米国のITの歴史には、このような連携が結構多かったように思われる。インターネットは、米国のARPAネットプロジェクトから始まっているが、これはまさに統合的な産学連携の見本といえる。このような統合的な産学連携に慶應学術事業会の上記の新規事業が貢献できればと思っている。

斎藤 信男
株式会社慶應学術事業会 代表取締役社長、慶應義塾常任理事・同大学環境情報学部教授

昭和15年生まれ。昭和39年東京大学工学部卒業。同41年同大学大学院工学系研究科修士課程修了。
同49年筑波大学専任講師。その後、筑波大学助教授を経て同53年慶應義塾大学工学部助教授。同62年理工学部教授。平成2年環境情報学部教授。同5年湘南藤沢メディアセンター所長・図書館長。同7年より環境情報学部長。同11年からは政策・メディア研究科委員長を兼ねる。専門領域「計算機科学・マルチメディア工学」。工学博士。
SFC・連携スクエア・メディアネット(ITC)・学術事業担当。

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