HOMEへ戻るMCCマガジン桑畑 幸博『「巻き込む」技術―なぜ皆があの人に動かされてしまうのか?』

桑畑 幸博『「巻き込む」技術―なぜ皆があの人に動かされてしまうのか?』

2014年02月11日

桑畑幸博
慶應MCCシニアコンサルタント

「それは費用はもらえるのか? もらえないのならダメだな」

お客様が業界ぐるみで進めようとしていた、ある実証実験のプロジェクトに、協力会社として参加することを提案した私は、上司である部長のこの言葉に耳を疑いました。

「もらえるわけないでしょ? 実験ですよ?」
「だったら無理だな。利益のでない仕事は仕事じゃない」
「なんでそう目先のことしか考えないんですか? いいですか? 今このプロジェクトに関わっておけば、この実験が実際のビジネスになったとき、ウチがそのシステムをまとめて請け負う可能性も高くなります。つまり、これは将来の大規模商談への投資なんです。あと、ここで協力して恩を売れば、各社との従来の商談にも絶対プラスになります!」

「この実験が、実際にビジネス化される保証はあるのか?」
「保証なんかありませんよ。実験なんですから」
「リスクがあるものを承認はできんな」
「リスクがないビジネスなんかどこにあるんですか? お客様も実験にかかるコストは自社の持ち出しですし、声を掛けているウチの関連会社のX社も、実験については無償でやってくれる手はずになってます」

私がこう言ったのは、3日前にX社のA部長と、私の部下をまじえてこんなやり取りをしていたからです。

「面白いですねえ!」
「でしょ? 首都圏でこれが始まれば必ずニュースになりますし、パブリシティやればメディアでも報道されますよ。そうすれば御社のこの製品にも注目が集まって…」
「なんか夢が広がりますね。最初に話もらったときは、この製品にそんな使い道があるとは思ってなかったんで、半信半疑だったんですが」
「じゃあ、ご協力いただけますね?」
「もちろんです。では、そちらの正式なGOが出たら、すぐ技術部隊を動かします」

X社からの帰り、私の部下が言いました。
「なんかワクワクしてきましたよ。最初に一緒にやるぞって言われたときは、正直なんで僕が? と思ったんですが」
「細かいところに気がつくお前がいてくれないと、俺ひとりじゃあ間違いなくヌケモレが出るからな。おかげで助かってるよ」
「いえいえ、こちらこそ誘ってもらってよかったです。ところで、今回はあの一言が効きましたねえ」
「?」
「ほら、最初の「いつまで宝の持ち腐れを続けるんですか?」ってやつですよ」
「ああ、あれか。A部長はちょっと慎重なタイプだからな。最初は夢を語るより、危機感を持ってもらった方が、重い腰が上がると思ったんだよ」

こうして部下や関係会社の協力も取りつけ、意気揚々と上司に報告と提案を行った私でしたが、その根回しすらも否定されてしまったのです。では、冒頭の場面に戻りましょう。

「なんでそこまでの話になってるんだ?」
「どういう意味ですか?」
「なんでX社まで巻き込んで、勝手に話を進めてるんだ?」
「だって実現性の裏づけがないと、こうして部長に提案できないじゃないですか」
「お前は先走りすぎだ。ものには順序がある」
「ひとつひとつ手順踏んでたら、ビジネスチャンスを逃がしてしまいますよ」
「急いては事をし損じる、と言うだろう。いいか、だいたいお前は…」
「ああもうわかりました。要するにリスクを最小限にすればいいんですね。早急に考えますから、あと2日待ってください」

こうして席を蹴った私でしたが、翌日、このやり取りを見ていた事業部長に呼び出されました。

「お前の言ってることは正論だ」
「でしょ? 事業部長からも言ってやってもらえませんか?」
「ああ、5百万くらいまでだったら、事業部全体で費用をみるから進めるように、お前のところの部長には言っておこう。しかしな」
「はい?」
「お前も、上司を上司とも思わない態度はなんとかしろ」
「え? そんな態度取ってましたか?」
「お前はなあ、顔に出るんだよ。「バカかこいつは」とか「情けないヤツだ」とかな」
「はあ…でも事実ですし、上司の顔色うかがっているヒマなんてないです」
「だからお前は空回りするんだ。仕事はひとりでやるものじゃないだろう?」
「仕事はひとりでやるものじゃない」

私も含め、そんなことはみんなわかっています。
上司や部下、同期や同僚、また他部署や社外のパートナー、そしてお客様とも協力しながら、私たちはさまざまな仕事に取り組んでいます。これはフリーランスで働いている人も同じで、「仕事はひとりではできない」のです。

ただ、「仕事はひとりでやるものではない」という事実をわかってはいても、いや、わかっているからこそ、周りの協力を仰いで一緒に頑張ろうと思っているのに、なかなかすんなりと協力してもらえない。
自分の「やりたい」こと、また社会やお客様、そして自社のために「やるべき」と信じていることがあるのに、周りを上手く巻き込めないばかりに、想いだけが空回りする。

冒頭のやり取りは、実際に私が体験したことです。
このときは、上司を上手く巻き込めなかったわけですが、じゃあこの例のように上司以外はいつも巻き込めていたかというと…残念ながらそうではありません。

「いま忙しいから」と、はなから話も聞いてくれないお客様。
「ウチの担当じゃないですねえ」と、当事者意識のかけらもない社内の他部門。
「どうしましょうか?」と、なかなか自分の頭で考えてくれない部下。
どんなに「一緒にやろうよ」と思っても、上手くいかなかった経験がたくさんあります。

では、私には何が欠けていたのでしょう。
やはり、人間力に根ざした「人望」が足りなかったのでしょうか?
確かに人間力や人望は重要な要素でしょう。そして、確かに私はそんなに人望があるタイプではありませんので、この指摘はあながち間違ってはいません。
しかしそんな私ですが、現実にはいろんな人を巻き込んで様々な仕事に取り組み、他人に誇れる成果を出してきたという自負があります。(またそうでなかったら、こんな本を書くような立場にはなれなかったでしょう)

人間力や人望などという、属人的かつ抽象的な「何か」を持っていないと、私たちは周りを巻き込んで仕事ができない…などということはありません。
実際、何ごとかをなし遂げた人たちは、全員人望が厚かった、というわけではないことを、私たちは様々な歴史から学んでいるはずです。
そもそも人望、つまり人の「器」や「度量」を科学的に解明し、誰でも練習すれば身につけるようにするのは不可能です。

しかし、人望という個人の資質に頼らなくても、理論に裏付けられた「技術」を練習によって磨けば、今よりは格段に周りを巻き込んで、仕事ができるようになるのも事実です。
本書では、私が「周りを巻き込んで」仕事をしようとしたときにぶつかった、「どうやったら周りを巻き込むことができるのだろう?」という問いに焦点を当てました。
これは決して私だけでなく、多くのビジネスパーソンの悩みでもあるはずです。

そして、この「どうやったら周りを巻き込むことができるのだろう?」という問いを、
どうやったら「この人の話なら聞いてみよう」と、周りとの距離を縮められるのか?
どうやったら「これは他人事じゃない」と、周りに当事者意識を持ってもらえるのか?
どうやったら「確かにその通りだ」と、周りに理解・納得してもらえるのか?
どうやったら「やるしかないでしょ」と、周りをその気にさせられるのか?
どうやったら「あ、そうすると…」と、周りに気づいてもらえるのか?
どうやったら「これからもこいつに」と、上司を継続的に巻き込めるのか?

という「6つの問い」に細分化し、私自身の経験・知見に加え、対人心理学の理論も交えながら、徹底的に「技術」の観点で、周りを上手く巻き込むための「コツ」や「テクニック」をアドバイスしていきます。

本書を手に取ってくれたあなたは、これら「6つの問い」のどれか、あるいはすべてが、周りを巻き込むにあたっての「悩みの種」のはずです。

さて、あなたが周りを巻き込んで「やりたい」こと、「やるべき」ことはなんですか?
そして、あなたが巻き込むのに苦労している相手は誰ですか?
また、仕事のどういう段階で、巻き込むのに苦労してますか?

これらを頭に置いて本書を読み、そしてアドバイスに基づいて自分なりにアレンジし、実践すれば、必ずこれまでより上手く、周りを巻き込むことができるようになります。

あなたは、コツやテクニックを身につけ、きれい事でなく「計算ずく」で、周りを巻き込んで仕事ができるようになりたいとは思いませんか?
だから精神論が大好きな方には、本書はおすすめしません。

しかしあなたに「やりたい」こと、「やるべき」ことがあり、それに周りを巻き込む必要があるのなら、私はそのための武器を惜しまず提供します。
そしてこの武器を手に取るか取らないか、選ぶのはあなたです。

桑畑幸博著『「すごい結果を出す人の「巻き込む」技術 なぜ皆があの人に動かされてしまうのか? 』のプロローグより著者および出版社の許可を得て編集転載。無断転載を禁ずる。

桑畑幸博(くわはた・ゆきひろ)
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應MCCでプログラム企画や講師を務める。
また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。
主な著書に、『すごい結果を出す人の「巻き込む」技術 なぜ皆があの人に動かされてしまうのか?』(大和出版)『日本で一番使える会議ファシリテーションの本』(大和出版)『論理思考のレシピ』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

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