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高田 朝子「女性管理職、昇進の背中をおした事象とは何か」

2014年08月12日

高田朝子
法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授

女性管理職育成についての定性的調査からの一考察

1.役職に就きたくない女性たち

ビジネスの現場で「仕事は続けたいが役職には就きたくない」という女性の声をよく耳にする。

男性の大多数が企業で働く以上、昇進を前提として行動しているのに対して、女性の多くは昇進に対して意欲的とは言い難い。財団法人21世紀職業財団(2007)による調査によれば、女性管理職が少ないもしくは全くいない理由を「女性が希望しない」とした企業の割合が、平成15年の12.7%に対し、平成19年では24.2%と増加している。内閣府男女共同参画局(2010)が行った調査では、「将来、管理職として組織の経営管理に関わりたい」と答えた のは、男性49.7%、女性は15.9%である。

他方、少子高齢化社会の進行という環境下において、企業では人材不足が懸念され、男女問わず能力のある人材を多く確保し戦力としたいと望んでいる。

優秀な女性を活用したい企業側と役職に就きたくない女性との間に存在するギャップの背景には何があるのだろうか。現在、管理職についているもしくは管理職手前で将来管理職に就くことが予想される女性達21名に焦点をあておこなった研究調査(※)からみえた、「昇進の背中を押した事象」について考察したい。

2.未来に対して自信を持つこと・効力感

彼女達は、キャリアの初期から管理職につくことを射程距離に入れていたわけではなく、直接的、間接的の違いはあるにせよ、仕事上のある種の事象の体験が背中を押して、昇進についての考え方が変容していた。

昇進を受容する際の心境の変化について述べる際に、最も多く使われた表現が「できるのではないかと思った、やってみようと思った」である。別の言い方をすれば、昇進に対して受容的になることに大きく影響したのが、彼女達が自身の未来に対して自信を持つことができるか否かであった。昇進に対する不安を解消し、未来に対する「自分はやれるに違いない」という自信感を持つためには、彼女達が自分の仕事やキャリアに対して、効力感を持つことである。効力感はBandura(1977)が提唱した動機付けの要因の一つで、人が未来に対して持つ自信感のことで、効力感の高さは動機付けに対して正の相関があるとされる。それでは、どうしたら女性達は効力感を持つことができるのだろうか。

3.昇進について背中を押す人の存在

彼女達の背中を押した事象としてもっとも多くあげられたのは、直接の上司による助言や説得であった。実に21名中20名があげた。また、上司の影響と並んで同僚の影響も多くあがった。ここからわかる重要な点は、彼女達は物理的に近い位置にいる人々の影響が非常に大きいことである。

20名中8名が、直接的な言語的説得をあげた。当時の上司から「君なら上の役職でも十分やっていけるから」と何度も折に触れて説得された、上司が背中を押してくれなかったら上位職にはならなかった、と語っている。

上司が直接的に昇進を勧奨するには、彼女達が良い結果を仕事上で出していることが必須である。ある種の成功体験の心理的蓄積があり、それが言語的説得によって強化され、効力感につながったと考えられる。

残り12名は直接的な言語的説得は受けてはいなかったが、昇進についての考え方に上司が影響を与えていた。上司の仕事への考え方や姿勢に感銘を受け、自分もより高いレベルの仕事をしたい、そのためには昇進するのも悪くないと考えるようになったという。

同僚の影響も同様である。具体的には、同じ部署で働いた経験を持つ同期や数年入社年度が上の男性達で、近くにいてその働き方や仕事への姿勢を見ることで、自分もあのようになりたいと思ったことが刺激になったという。

仕事から得た達成体験を根底に仕事そのものの面白さ、組織への愛着心、仕事を通じて自分が成長する事への期待、そして同僚や上司の仕事ぶりをみて自分も「やれる」と思うことなど効力感からみると様々な要素が複合しているといえる。

4.人的ネットワーク

ビジネスにおいては「何を知っているかより誰を知っているかの方が重要だ」と言われ、複雑化した企業環境の中で競争優位となるような情報とそれを持つ人にアクセスできるような人的ネットワークを持つことがビジネスパーソンのスキルとして不可欠である。

何らかの業績をあげそれが評価され昇進するためには、彼女たちの仕事を直接的、間接的に手助けし、助言を与えるような人々、又はその仕事を評価する人々と繋がりがあることが重要と考えられる。

同時に、上司や同僚から間接的に効力感を得ることにおいても、人的ネットワークが重要な役割を果たしていた。先ほどあげた複合的な要素を定期的に刺激し、気持ちの切り替えや新たな視点を得る場、そして自分のキャリアについて前向きに考える場として機能していたのが幾重にも張り巡らされた社内人的ネットワークである。

彼女達は、「○○支店△支店長時代のメンバーの飲み会」や「□□プロジェクトの元メンバーの飲み会」といった、お互いの近況報告や交流をする機会を定期的に持っていた。自分なりの仕事のやり方や仕事での達成体験や失敗を話し合い、他者からコメントや違った角度からのアドバイスを得たり激励されたりすることの経験の積み重ねが、間接的に彼女達の昇進への考え方に影響を与えていたと考える。

他者からも様々な刺激を得、さらには「あの人ができたのだから自分もできるかもしれない」「仲間が何らかの達成ができたのだから、自分もできるかもしれない」と代理体験として受け止め、考え、同時に仕事に対する思いを新たにしていたといえる。

5.どうしたら彼女達の背を押せるのか

本研究では、女性達が昇進をしてもやっていける自信を持つことが鍵要因の一つであり、そのためには彼女達が効力感を持ちやすい環境を作ることが重要であることがわかった。では、より多くの女性が昇進を望むようになるのにはどのようにすればいいのだろうか。

効力感発生の前提条件には、仕事上での達成体験の蓄積が不可欠である。その土壌があった上で、上司からの直接的な言語的説得の経験や、あるいは他人の成功を代理体験として持てる場があることである。仕事において効力感が醸成できるサイクルなり場なりが彼女達の周りに形成され、それらが最終的に彼女達の背中を押す。

言い換えれば、彼女達の効力感が醸成しやすい環境を作ることが、結果的には女性の昇進に背中を押すことに繫がる。効力感の発生原因である、達成体験、言語的説得、代理体験に働きかけやすい環境をつくることが重要である。

具体的には、第一に、部下を伸ばそうとする意思があり、部下が昇進を躊躇している際には言葉に出して昇進を勧めるような上司を、今後期待をかける女性の側に配置することである。この際、上司には性差なく、部下に対して、部下の実力より少し上の仕事を相手に与えることができること、即ち、仕事の難易度と部下の実力の見極めが正確にできる能力が求められよう。一歩進めれば、社内教育や管理職教育の中でこの種の要素の育成を含んだ教育プログラムを作成することが必要と考えられる。

第二に、女性に幅広い社内ネットワークを構築させることである。情報源ともなり、相談をする場とも代理体験を得る場ともなる。様々な刺激から効力感をえることによって、次のキャリアステージに進むことに積極的になりやすい。

第三は、異動を含めて、様々な人と一緒に働く経験、即ち、様々な職種を経験することである。世代が若くなるほど幅広い職種を経験している傾向が強くなるが、それでも営業職に偏りがちである。異動が難しい場合は、ルーティンの仕事とは別に、組織横断的なプロジェクトを経験させることもできる。仕事上の専門性の育成とのバランスを取ることに配慮が必要であろうが、多くの職種又は、職場横断的な仕事をさせることが正の影響を与えると予測することができる。

彼女達には同性のキャリアモデルが十分機能しているとは言えなかった。遠くにいるキャリアモデルよりも、異性でも物理的に近所にいて、観察の対象となる相手の方が影響を与えていた。そのためにも多くの人と一緒に仕事をする機会を持つことが不可欠であろう。

本研究からの考察が皆様の企業組織においても参考になることがあれば幸いである。

※研究調査は2009年6月から2011年9月の間に地方銀行4行21名の女性に対して実施した。調査対象者は、実際に昇進したもしくは昇進途中にある者で、役職で言うところの支店の課長クラスから支店長もしくはそれ以上とし、各銀行に依頼した。

『経営行動科学』(経営行動科学学会、pp33-248, 2013年12月号)「女性管理職育成についての定性的調査からの一考察」より著者の許可を得て編集・転載。無断転載を禁ずる。

高田朝子(たかだ・あさこ)
モルガン・スタンレー証券会社勤務をへて、サンダーバード国際経営大学院国際経営学修士(MIM)、慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士(MBA)、同博士課程修了。経営学博士。専門は危機管理、組織行動。
主な著書に『人脈のできる人-人は誰のために「一肌ぬぐ」のか?』(慶應義塾大学出版会)、『危機対応のエフィカシー・マネジメント-「チーム効力感」がカギを握る』(慶應義塾大学出版会)、『組織マネジメント戦略(ビジネススクール・テキスト)』(共著、有斐閣)、『ケース・メソッド入門』(石田英夫編さん・慶應義塾大学出版会)などがある。

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