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粂川 麻里生「ルパン三世の「マンネリズム」と「マニエリスム」」

2015年10月13日

粂川 麻里生
慶應義塾大学文学部教授、アート・センター副所長

ジャズを研究するとは、どういうことだろうか。もちろん、20世紀の初めに、アメリカ合衆国において様々な音楽的伝統が混ざり合うところから始まった新しいポピュラー音楽を研究することは、その中心的な作業ではあるだろう。「即興」が欠かせない要素となってからのジャズについては、そこで用いられるコード進行や旋法、またリズムについての分析なども重要な研究に違いない。しかし、大野雄二&ルパンティックファイブが三田の山で聴かせてくれた音楽は、「ジャズ研究」の中でどう位置付けられるだろうか。

「ルパン三世」で知られる作曲家・編曲家・ピアニストの大野雄二。30年ぶりに10月2日より始まった新テレビアニメシリーズでも大野は音楽を担当している。
大野が作り、奏でる「ルパン」ミュージックは、たしかにジャズ・テイストを多分に取り入れてはいるが、元来は「映画音楽」であろう。それはアニメ映画の背景に流れるべきものであって、現在のように夜毎ジャズクラブで即興演奏されるものではなかったはずだ。

 それでいて、大野が『ルパン三世』のために作った一連の音楽は、日本で作られた他のどんなジャズ・ミュージックにも劣らぬほどに「ジャズ」を感じさせる。それは、ジャズピアニストでもある大野が、「ルパン」というアニメと、親友でもあったという故・山田康雄(ルパン三世役)をはじめとする声優たちに最高にインスパイアされて作り出した音楽だからでもあろう。大野自身、著書『ルパン三世 ジャズノート&DVD』(講談社、2004年)の中で「ルパンの仕事は僕の天職」と書いている。大野によれば、『ルパン三世』というアニメ・シリーズは、「究極のマンネリ」とそれを「すかしたり、かわしたり、裏切ったり」することだという。モンキー・パンチが作り出したルパン三世、次元大介、石川五ェ門、銭形警部、そして峰不二子という出色のキャラクターこそが作品の命であり、「この設定をしつこいくらいにやっていれば、十分面白いんだよ」。それは、まさにジャズではないか。

ジャズは即興音楽である一方で、大ヒット曲のテーマソングを必要とする。最高によくできた美味しいフレーズを「しつこいくらいに」くり返す。ただし、「すかしたり、かわしたり、裏切ったり」しながら。「マンネリ(mannerism)」とはラテン語なら「マニエリスム(Mannierismus)」だ。「古典」を前提としつつも、「手技」や「装飾」がその前提からは逸脱していくこと。しかし、逸脱こそが、逆説的にオリジナル=根源をむしろ生き生きと想起させること。「ルパン」が大野ジャズの世界と結びついたことで、ジャズという表現様式をバロック・マニエリスムと結びつけて考察する視点も開けてくる(17世紀ヨーロッパも、即興演奏の華が咲いたというではないか)。ジャズはやはり、音楽にとどまらず、あらゆる領域を超えていく生命なのだ。

ルパン三世は、すなわちモーリス・ルブランが創作したフランスの怪盗アルセーヌ・ルパンの孫であり(ルパンは2度結婚しているが、どっちの系統なんでしょうね。それとも……)、石川五ェ門は石川五右衞門の子孫、銭形警部も銭形平次の子孫という設定である。盗賊小説と捕物帖の華々しいコラージュで成り立っているのが『ルパン三世』の世界であるわけだが、とりわけ「ルパンの孫」が日本人というのは破天荒と言えるかもしれない。しかし、モンキー・パンチが「漫画アクション」に『ルパン三世』を連載しはじめた頃の日本では、不思議なほど自然なことだった。たとえば、「和製ウェスタン」という映画ジャンルがあった。馬に跨がりテンガロンハットをかぶった主人公(たとえば小林旭)が、ギターを抱いた流れ者として、国籍不明の町にやってくる。そして、街の善男善女を苦しめる悪漢どもを、ピストルの早撃ちで倒して去っていく。「そんなばかな、どこの国の話だ」などと言う人はいなかった。皆、シュールな設定を楽しんでいたのである。「和製~」の中に、じつに色々なものがあったあの時代、東京オリンピックから大阪万国博覧会に向かっていた独特の時代に、今では、世界的な人気を博している『ルパン三世』が生まれた。そこにも、やはりすでに「ジャズ」があったのではないだろうか。あらゆる文脈から、オイシイところを盗み、庶民に楽しみを提供する文化的“義賊”としてのジャズが。
 

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慶應義塾大学アート・センターARTLET』第43号より著者の許可を得て改編。無断転載を禁ずる。

粂川 麻里生(くめかわ・まりお)
  • 慶應義塾大学文学部教授
  • 慶應義塾大学アート・センター副所長

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