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深谷 昌弘「意味の探索―ソシオセマンティクス(社会意味論)を学ぶ」

2004年07月13日

深谷 昌弘
慶應義塾大学総合政策学部教授

ソシオセマンティクス(社会意味論)は人々の意味世界を研究する学問です。これは慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で誕生し今も開発されつつある新しい学問です。
社会現象は人々の行為の複合・集積です。そして、社会現象を構成する諸行為の背後にはその行為を導出したそれぞれの人のそれぞれなりの物事に対する意味づけがあります。したがって社会現象の研究にとって、意味の視点は欠かせません。意味・行為・社会のダイナミックな関係に踏み込むことができれば、社会研究は一層の広がりと深まりを見せるにちがいありません。それには何よりも先ず、人々にとっての物事の意味や意味づけが展開する内的舞台―――人々の意味世界 ―――を明らかにする必要があります。

これまでの社会研究でも、意味の視点の重要性は指摘されてきました。この視点を取り込んだ研究蓄積も少なくありません。にもかかわらず、人々の意味世界そのものを正面から見据える学問が未発展だった最大の理由はデータ・アベイラビリティの制約でした。しかし、今やネットワーク社会の進展で事情が大きく変わろうとしています。ネットワークに日々蓄積され続ける、テクスト、画像、映像、音像など。これらは人々の意味表出行為の記録、すなわち、意味表出データにほかなりません。しかも、このデータはコンピュータ解析が容易なようにデジタル化されています。いうなれば、ネットワークは意味表出データの宝庫です。これを活用できれば、特定の人物や小集団から大きな集団や不特定多数の市民にいたるまで、さまざまな人々を対象にした意味世界の研究に大きな可能性が開けます。しかし、人々の意味世界にアプローチするには、データを扱う新しい理論・方法も必要です。ウェッブに対応した社会調査法の理論・方法、コトバの人々にとっての意味を取り扱う言語コミュニケーション論、その理論に立脚したコンピュータ・テクスト解析の理論・方法、などが必要です。

SFCでの学部研究プロジェクト・意味の探索、および大学院・ソシオセマンティクス工房は深谷・田中が協働開発した「意味づけ論」とこの理論から生まれたテクスト意味空間分析法を土台として、人々の意味世界を研究する新しい学問・ソシオセマンティクスづくりをしています。ソシオセマンティクスの狙いは、人々の心の中にある意味世界を、テクストなどの意味表出データから析出して、より深いところまで踏み込んだ社会研究に役立てることを目指しています。

社会意味分析および手法に関する簡単な紹介

理解を助けるために分析例とこれから力を入れようとしている分析システムの開発について簡単に紹介しましょう。

[スクリプト分析:コトバから隠れた意味世界の潜在構造を析出する]

「家族」、「世間」、「大学」といった私たちをとりまくさまざまな「社会的現実」と呼ばれている諸事象の概念や意味知識は私たちの心の中にあるとされています。社会現象はこれらの概念・意味知識から編成されるそれぞれの行為主体にとっての物事の意味とそこから導出される行為との相互作用の複合として現象するものです。

しかし、心の中にあるとされている概念や意味知識とはいかなるものでしょうか。
例えばあなたは世間の中で生きており、それと付き合い、ときにそれに悩まされます。その世間とはとりあえずはあなたが世間だと思っている世間です。

ではあなたの思っている世間とは何ですか?こう聞かれたとき明確に説明できるでしょうか。あなたはとまどうはずです。
世間を論じた司馬遼太郎や阿部謹也なども同じようにとまどったのです。日本人の社会生活を大きく規定している「世間」という概念や意味知識をいざ説明しようとするとそれがあまりにも漠然としていることにおどろかされます。分かっているはずなのに明確に説明できないのです。人々は「世間」をどのように考えているのか。人々の心の中にあるとされている社会的な概念・観念などをどうやれば明らかにすることができるのでしょうか?

スクリプト分析システムはこれに応えるために私たちが開発したテクスト分析システムです。その詳しい内容およびこの手法を適用した「世間のスクリプト分析」などの事例については、下記ホームページ収録の諸資料を参考にしてください。 http://imi.sfc.keio.ac.jp/

[イメージ調査システム開発:人々が抱いている物事のイメージを探る]

ウェッブから採取した大量のテクスト・データをコンピュータ解析して人々がさまざまな物事についてどのようなイメージを抱いているのかを明らかにできるようなシステムの開発を今本格的に推進しようとしています。アイドル、ブランド、政党などのイメージを解析できれば、幅広い応用可能性が開けます。
勘のいい人は、今後ソシオセマンティクスが発展すれば、より掘り下げた社会研究に資するだけでなく、広告・マーケティング、組織・経営、政策形成、教育などのさまざまな分野での応用にも役立つようになると直感することでしょう。

なお、現在、21世紀COEプログラム「日本・アジアにおける総合政策学先導拠点 -ヒューマンセキュリティの基盤的研究を通して-」の中の研究グループ「ウェッブ社会調査法開発:ソシオセマンティクス」にて、テクスト意味空間分析システムの開発を本格化させています。ネットワークからテクストなどの意味表出データを採集し、コンピュータによって意味的解析をする新しい社会調査法の開発提案です。今秋開催されるSFC Open Research Forum2004にて、その研究成果を発表させていただく予定です。ご関心のある方は、ぜひ、お越しください。

深谷 昌弘(ふかや・まさひろ)
  • 慶應義塾大学総合政策学部教授
慶應義塾大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科修士課程、同 博士課程 修了。成蹊大学経済学部教授等を経て、現職。専門は、ソシオセマンティクス、意味づけ論、ヴィジョン形成論、地方財政論、社会保障論。
主な著書に『《意味づけ論》の展開』(田中茂範・深谷昌弘著、紀伊国屋書店、1998)、『コトバの《意味づけ論》』(深谷昌弘・田中茂範著、紀伊国屋書店、1996)などがある。
深谷研究室/ソシオセマンティクス工房

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