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花田 光世「組織の活性化と個人のキャリア自律の統合を図るキャリアアドバイザーとは」

2004年08月03日

花田 光世
慶應義塾大学総合政策学部教授、同大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリー代表

最近、キャリアカウンセラーがブームとなっている。キャリアカウンセラーの役割は、個人のキャリアと心の整合性を対象とした個人に対するサービス提供にある。ところが、いま企業が切に求めているのは、単に個人のキャリア自律にとどまらず、併せて組織の活性化を統合する役割を果たすキャリアアドバイザーではないだろうか。

1. キャリアアドバイザーとキャリアカウンセラー

キャリアカウンセラーがブームとなっている。キャリア自律の流れのなかで、個人へのカウンセリングサポートは重要という認識は確かに存在している。しかし現実には、臨床心理士の仕事はあっても、キャリアカウンセラーの仕事はなかなかないというのが実態という話も耳にする。にもかかわらず多くのキャリアカウンセラーがキャリアカウンセラー育成機関から送り出されている。さらにはアウトプレースメントをはじめとする人材サービス関連企業からキャリアカウンセラー育成コースが提供され、企業の人事・教育担当者のなかにも資格取得、コース修了者が多数出始めてきてもいる。このギャップはいったい何なのだろうか。

筆者は、企業が現状求めている役割はキャリアカウンセラーではなく、キャリアアドバイザーであり、そこに企業ニーズとキャリアカウンセラーを志向する個人との認識ギャップが存在していると考えている。

このような視点に立ち、我々は、キャリアアドバイザーの育成と活用がこのギャップを埋めるものとして重要と考えている。人によってはキャリアカウンセラーの名称をアドバイザーに変えただけとか、育成コースの内容はそれほどかわらないのではという疑問を持たれる方も多いかもしれないが、まず次の図1を参照されたい。

自律した個人をサポートする専門職

この図表で筆者は、キャリアアドバイザーとカウンセラーの役割を明確に異なるものとして位置づけている。しかし企業の現場では、このアドバイザーとカウンセラーの役割は明確には区別されていない。一般的なキャリアカウンセラーの役割は、個人のキャリアと心の整合性を対象としたサービス提供にある。これに対し、筆者の考えるキャリアアドバイザーの役割は組織の問題解決と個人のキャリア自律の整合性を提供するものである。その意味から言うと、キャリアアドバイザーのサービス対象は個人のキャリアであり、キャリアアドバイザーのそれは組織の活性化であろう。

(1)キャリアカウンセラーの役割

このキャリアカウンセラーが対応する個人のキャリア・仕事といっても、臨床心理士が担当するそれらとは、自ずから差が存在しよう。臨床心理士は心の問題に正面から取り組み、キャリア・仕事の問題が話題となったとしてもそれは心の問題に接近していく表面的な現象にしかすぎない。その背景にある親子関係といった人間関係、過去におけるトラウマの影響などをより重視するのである。キャリアカウンセラーがキャリアを通して心の問題を取り上げるといっても、カウンセリングや臨床の知識は限られており、臨床心理士の対応までには至らない。

それに対して、キャリアカウンセラーにとって、キャリアの問題は本人の心に迫る手段ではなく、それ自身が重要な対象テーマである。その典型が内的キャリアであろう。内的キャリアでは、自己の価値観と仕事の内容の整合性がどれほどあるか。本当にやりたい仕事・なりたいキャリアであるかどうかが問題となる。また、キャリアの発達を人間の年齢・心の成長とともに考えるなど、キャリアに関する心の問題が重要なテーマとなるのである。

その流れでいうと、キャリアカウンセラーの役割では、ライフキャリアに対する考え方、ワークライフバランスに対しての対応、個人の加齢や生活・仕事の変化にともなうキャリアのTransitionへの対応など、いわゆる自分のライフステージに応じたキャリアデザインへのサポートが重要な仕事となる。

このキャリアカウンセラーの役割のなかで、筆者が特に重視している点は、価値観と仕事との関係を固定的に捉えず、いかに自分の価値観をストレッチし、それに伴い仕事やキャリアをさらにストレッチしていくかというダイナミックなアプローチである。筆者は、キャリアカウンセラーが、仕事と個人の価値観の固定的、静態的な整合性に捕らわれず、お互いが変化し合いながらダイナミックに新たな整合性を構築していくプロセスのサポートを行うことが重要と考え、キャリアストレッチング論を展開した(2003年、花田・宮地・大木、「キャリア自律の新展開」、一橋ビジネスレビュー、Summer)。

このダイナミックなプロセスは、個人の成長や動機づけ、やる気の向上などと大きく関係し、その結果、組織の活性化を引き起こす重要な要因となるものである。それゆえ、筆者は、この個人に対するカウンセリングの効果・成果が、単に個人の内的キャリアの充実だけを目的とするのではなく、個人のやる気の向上などを通した組織の活性化にもつながるという視点を有している。

ところが企業の現状では、このようなキャリアカウンセラーの役割が、組織活性化に対する貢献につながるという認識を強く持っているとはいえない。キャリアカウンセリングサポートサービスは、あくまで個人の価値観・心と仕事・キャリアの整合性を構築することにあるという見解が一般的であろう。

このような状況のなかで、企業のキャリアカウンセリングへの対応は後ろ向きにならざるを得ない。もちろん企業は、個人の内的キャリアへのサポートを実践するキャリアカウンセラーの役割を必要とはしている。しかし、むしろそれ以上に、現状で必要とされているサービスは、現場のマネジャーの部下管理、コミュニケーション、部下指導のサポート役であり、現場で育成される機会をなかなか受けることができなくなってきた、若手社員たちへのサポートである。これらの一連の役割は、むしろ組織の視点からのサービスである。

現場の管理者の本音は、「今組織に必要とされるのは、個人のキャリア自律と組織ニーズの統合。個人のわがまま、自己実現につきあっていては組織がつぶれる。個人の自律の重要性はわかるが、それをどう組織側からの個人に対する役割期待とドッキングさせるかが重要」という認識を強く持っている。そして、この個人の自律と組織のニーズとの調整に対するサポートサービスの提供を現場管理者は期待しているのである。

「キャリアカウンセラーの提供サービスを、個人を対象としたサービスに限定してしまっては、現実に組織はまわらない」。「キャリアカウンセラーの役回りは、臨床心理士に比較して中途半端」という認識が人事や現場管理者の正直な感想ではなかろうか。現場の期待は、組織の視点や組織のニーズをしっかり理解した専門スタッフが提供するキャリア自律へのサポート提供である。

ところが、現状のキャリアカウンセラー養成教育では、この組織のニーズに対応する理解・現状把握、問題解決に対する対策が十分とはいえないのではなかろうか。残念なことに、結果としてキャリアカウンセラーになかなか仕事が回ってこないのである。筆者はこのギャップを解消するにはキャリアアドバイザーの有効活用が重要になると考えている。

(2)キャリアアドバイザーの役割

こうなるとキャリアアドバイザーの役割は幅広い。上司や管理者が果たしていた部下指導に対する役割のサポート、職制から離れたプロジェクト活動やコミュニティー活動などを教育の場として活用するためのサービスなどもキャリアアドバイザーのテリトリーとなる。
特にキャリアアドバイザーの重要な役回りは、仕事に密着した個人のキャリアデザインへのサポートサービスである。具体的にはOJTのサポート、現場における権限委譲をベースとした職務拡大・ジョブデザインなどへの支援などが重要な役割となる。

この認識の背景には企業組織の形態・活動の変化をあげることができる。従来上司が担当していたこれらの役割が、組織の仕組みの変化、上司の役割の変化、成果主義の流れのなかで、上司が必ずしも担当できなくなってきているのが現実である。キャリアアドバイザーは現場の上司を補完しながらこのような役割を果たしていくことが重要となる。
それではこのキャリアカウンセラーとキャリアアドバイザーの役割の相違をもう少し検討してみよう。

(『人材教育』2004年8月号p.98-103 より。全文はこちら(PDF,73.9KB)

花田 光世(はなだ・みつよ)
花田光世

  • 一般財団法人SFCフォーラム代表理事
  • 慶應義塾大学名誉教授
南カリフォルニア大学Ph.D.-Distinction(組織社会学)。産業能率大学教授、同大学国際経営研究所所長を経て、1990年より慶應義塾大学政策学部教授。企業組織、とりわけ人事・教育問題研究の第一人者。
日本企業の組織・人事・教育の問題を研究調査、経営指導する組織調査研究所を主宰する。特に最近はキャリア自律プログラムの実践、キャリア・アドバイザーの育成、Learning Organization の組織風土づくりなどの研究や実践活動を精力的に行う。
日本人材育成学会副会長、産業組織心理学会理事をはじめとする公的な活動に加えて、企業の社外取締役、経営諮問委員会、報酬委員会などの民間企業に対する活動にも従事。現在は、キャリア・リソース・ラボの活動に加え、財団法人SFCフォーラム代表理事として活動。
著書に『新ヒューマンキャピタル経営 エグゼクティブCHOと人材開発の最前線』(日経BP社)、『「働く居場所」の作り方‐あなたのキャリア相談室』(日本経済新聞出版社)、『その幸運は偶然ではないんです!』(ダイヤモンド社)などがある。
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