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村田 祐造「ラグビーワールドカップに学ぶ、最高のチームを作る方法」

2019年05月14日

村田 祐造
スマイルワークス株式会社 代表取締役
ラグビーワールドカップ2003日本代表チーム テクニカルコーチ

ラグビーワールドカップが日本にやってくる

4年に一度じゃない。一生に一度だ!
まさにその通り。今年は絶好のチャンスです。

ラグビーは、見た目は肉弾戦ですが非常に頭脳ゲームで、精神力の戦いさらには組織力の戦いでもあります。用意周到に、計画的に準備し、本番で力を発揮したチームが勝ちます。だから面白い。

そして、これはまさに、仕事と同じではないでしょうか?

しかもラグビーワールドカップは、国を代表する最高で最強の男達が、心技体知のすべてを駆使する戦いです。4年間準備して最高のチームを作り上げ、人生をかけた、命懸けの勝負をする舞台です。そこには熱い人間のドラマがあります。

そこで今回は、ラグビーワールドカップ観戦から、皆さんにビジネスパーソンとしての学びをたくさん得ていただくために、仕事に通じる「最高のチームを作る」ポイントを紐解いてみたい思います。

自己紹介「二つの日本代表と二つの国際大会」

私は、埼玉県立川越高校でラグビーを始めて、東京大学ラグビー部、三洋電機ラグビー部と、ラグビー選手として挑戦を続けました。そして、大学院生時代に技術者としてヨットレースの最高峰「アメリカズカップ2000」、その後20代にはラグビー日本代表チームのゲーム分析戦術戦略担当スタッフとしてラグビーワールドカップ2003に挑戦しました。
若い頃に、二つの競技で日本代表チームとして二つの国際大会を経験できたことは幸運でした。

その後独立し、チームワークのコーチとしてたくさんの挑戦・失敗・挫折を繰り返し、少しの成功と栄光の経験を積みながら多くの事を学び、現在は「心とチームワーク」をライフワークとして体感型チームワーク研修の講師を務めています。また、ラグビースクールの校長として子供たちのラグビー指導・育成に携わっています。

以降まずは、私のワールドカップ2003の体験記をつづり、次に前回ワールドカップ2015の日本代表の南ア撃破の快挙の裏側を描いてみたいと思います。

RWC2003豪州ワールドカップの記憶「BRAVE BLOSSOMS」

「あとは頼んだぞ」

2003年のラグビーW杯、スコットランド代表との開幕戦の直前。私はメインスタンドの観客席のど真ん中に設けられた日本代表チームの分析担当コーチ席で、スタジアムに掲げられた日の丸を見つめていた。左手には分析用のパソコン、右手は胸に縫い付けられた桜のエンブレムを握りしめて。国歌「君が代」を斉唱していた。目から涙がとめどなく溢れた。

相手は強敵スコットランド代表。勝つなら接戦に持ち込むしかない。そのための戦略戦術プランのたたき台は、私が書いた。なぜなら、私が東大ラグビー部時代にワセダやメイジなど強豪校に挑戦した経験が、世界の強豪国に挑戦する日本代表の選ぶべき戦略と戦術を考える上で非常に役に立ったからだ。

まずは違いを敬意と傾聴して受けとめる

私が日本代表チームの戦術・戦略を提案する相手は、私よりラグビーの実績が上の人ばかりだった。だから、私は、まずは、敬意をもって彼らの考えを傾聴し、尊重した。そして、彼らの考えを否定しない形で、私の考えを慎重に言葉を選んで伝えていった。自分の考えを自分の先輩や上司に理解してもらうためには、まず相手の考えを傾聴して理解してから、私の考えを理解してもらう方が得策だった。まず先に相手を理解するからこそ、自分を理解してもらえるのである。

特に、日本の司令塔であったアンドリューミラー選手のゲームプランと私のゲームプランは正反対だった。彼は言った。「スコットランドはデカイ。私達は、積極的にボールを動かして相手を走らせて疲れさせるべきだ」
私は言った。「うん、アンディ、そうだね。その気持ち、よくわかるよ。うんうん。私の考えを聴いてくれる?」

正論と反論のチームワーク

私がこの後、アンドリューミラー選手にぶつけた戦略のプランは、アンディの考え方とは正反対だった。議論は全く平行線だった。私の論にも、彼の論にも一定の正しさがあるのだ。だから私が、正式に代表チームの向井監督に提案したプランを彼の正論と私の反論を合わせた合論を提案した。つまり正論と反論を合わせてどちらの論も妥協せず両方のメリットが得られる合論を導きだしたのだ。これは、ドイツの哲学者のヘーゲルさんが編み出したアウフヘーベン(止揚)と言う思考法だ。

メタファーのキーワードでイメージを共有

試合の序盤・中盤のゲームプランは、「ビルディングビーバーズ」。木を集めて地道にダムを造るビーバーのように試合を造る。守備に徹して失点を最小限に抑える戦略。戦術はすべて保守的なものを選ぶ。キックオフは奥に蹴り込む。バスはなるべくしない。キックで陣地を稼ぐ。自陣のペナルティキック(PK)はすべて陣地を回復するキックを選択して安全地帯を確保する。敵陣のPKはすべてゴールを狙う。しかもゆっくり落ち着いて蹴る。時間を浪費してなるべくロースコアゲームに持ち込む。僅差で試合の終盤を迎える事が目標だ。

そして、試合終盤の勝負所のゲームプランの名は「チャレンジイーグルス」。地力に劣る日本代表が最後まで保守的に守っていては、アンディの言う通りで絶対に勝てない。獲物を狙う鷹のように。チャレンジイーグルスは、リスクに挑戦してボールを動かして相手を疲れさせてチャンスを創り出す戦略だ。すなわち、自陣からでもチャンスがあれば積極的に攻める。ペナルティキック(PK)を得たら、タップキックですぐに攻める。攻撃的な選手にボールを集めて果敢に攻める。

個性を適材適所で活かす

前半戦は、試合を造るビルディングビーバーズだ。スターティングメンバ―は、守備に献身的な選手で固めた。指令塔のSOは、堅守と堅実なキックの広瀬圭司選手を起用。攻撃的な選手達は、リザーブメンバーに控えていた。後半流れを変えるべきタイミングで、監督が最も攻撃的な選手「アンドリューミラー」をピッチに投入する。それが、ビーバーズからイーグルスに戦術をチェンジする監督からのメッセージだ。
以上が、私達が準備した、ラグビーワールドカップ2003の日本代表チームの開幕戦、対スコットランド代表戦のゲームプランの概要だ。

強みと弱みを自覚する

日本の強みは、守備の献身性と攻撃の切れ味、スピードと敏捷性だった。逆に、日本の弱みは、スクラム、モール、体格、パワーの面では明らかに劣勢だった。肉弾戦になるとどうしても分が悪い。

最も脅威となるのは、スコットランド代表が、試合の序盤から肉弾戦を仕掛けてくることだ。だから、相手の強みに対しては、自分達の強みである守備の献身性をぶつける。私達の限られた体力は、序盤は守備に使うしかないのだ。そして、相手の強みを消して自分達の弱みを隠すために、日本は、守備以外はラグビーをしない。そのために、キックで陣地を稼ぐ。試合終盤の反撃の時まで時間をつぶし、体力を温存するという戦略だ。

そして本番、総合力の勝負

あの試合は、なんと心躍る展開だった事だろうか。我が国最高のラグビー選手達が、捨て身のタックルを繰り返す。献身的な守備でスコットランド代表の猛攻をダムのように堰き止め続けた。私は「いいぞ!ジャパン!ナイスタックル!」と絶叫しながら感涙に震えた。

後半15分、アンドリューミラー選手が投入されて、日本代表が準備していたサインプレーでスコットランド代表から起死回生のトライをもぎとった瞬間、観客席が沸騰してスタンド全体が大きく揺れた。私も小躍りして、分析用パソコンをお手玉して落としそうになった。

本当にゲームプラン通りに試合は進んだ。後半20分のスコアは、11-15。僅差でゲーム終盤を迎えた。
しかし、最後に力尽きてしまった。守備が決壊しダムが壊れてしまったのだ。結果は、11-32。接戦とは言えないスコアの完敗だった。戦略・戦術では、ごまかしきれない地力の差、総合力の差を感じた敗戦だった。

ラグビー日本代表が集めた世界からのリスペクト

しかし試合後、隣の席のオーストラリア人のおばちゃんが私にこう言ってにっこり笑ってくれたのだった。

「Well done, Japan. I love your team.(日本、よくやったわね、私はあなたのチーム大好きよ。)」

「Thank you.me too」.(ありがとうござます。私もです。)」私も笑顔でそう答え、握手しハグした。忘れられない思い出だ。

また、同じ日、試合のあった町タウンズビルの道端で出会ったオーストリア人のおじいちゃんが私に話しかけてきた。
「俺は日本が嫌いだった。俺は陸軍の兵士だったからだ。お前らの国の飛行機が私のいた基地に来て爆弾を落とした。だから日本はあまり好きじゃなかったんだけど、今日のゲームは最高だった。俺は日本が好きになった。Well done, Japan.」

ラグビーにおけるリスペクトは、戦争の記憶や分断や憎しみを癒すのだということを実感した。翌日の世界の新聞は、私達のチームを「BRAVE BLOSSOMS(勇気の桜)」と讃えていた。本当に嬉しかった。

挑戦の目的を語りハートに火をつけるということ

もう一つ、私の心に深く残ったことがある。3戦全敗で迎えた最終戦、試合前日のミーティングで、副将の大久保直弥選手が言った言葉だ。

「明日は、未来につながる戦いをしよう。明日は、日本の人達がみんな注目して観てるよ。日本の子供達や若い選手達が感動するような戦いをしようぜ。」

大久保選手は「だから、明日は勝とう!」という挑戦の目標を語る前に、私達の挑戦の目的を語ってくれたのだ。その言葉に、私は心が熱くなって涙が溢れた。選手も皆、同じ気持ちだったと思う。

敗戦からも何かを得てまた立ち上がる

しかし、翌日、そのアメリカ戦もまた敗北した。
結局、2003年のワールドカップにおいて、私達日本代表チームの残した成績は「4戦全敗で予選リーグ敗退」。残念な結果だった。
大会終了後の懇親会で、アンドリューミラー選手が私のところに来てこう言った。
「ユーゾー。君の言ったとおりだったよ。世界の壁は厚かった。あの戦い方は正解だったと思う。おかげで楽しめた。いい仕事だったよ。ありがとう」

私達のラグビーに対する心と知性の方向性は間違っていない。ベースになる体力と技術力を上げていけば、いつか勝てるはずだという手ごたえをつかんだ戦いだったと思う。私達ラグビーワールドカップ2003日本代表チームは、「BRAVE BLOSSOMS(勇気の桜)」という素晴らしいチームの愛称と、未来につながる手応えを得たのであった。

あの勝利は「大番狂わせ」でない

そして、あの勝利である。2015年の日本の南ア撃破。皆さんもご記憶のことだろう。日本中が勝利の歓喜に湧き、強い印象を残した。

あの勝利は「大番狂わせ」とよく表現されるが、それは間違った表現だ。ラグビーという競技では「番狂わせ」が起きないからだ。強い方が勝つのがラグビーなのである。

番狂わせが起きやすいのは、サッカーのような1-0とか2-1の一桁代の得点で勝負が決まるロースコアゲームの競技だ。得点すること自体が非常に困難で、一回の一連の攻防で攻撃側が得点する率が低い。
ラグビーは、一回の一連の攻防で攻撃側が得点する率が高い。このようなハイスコアゲームの競技は、実力差がそのまま得点差に結び付きやすい。実力差がありワンサイドゲームになると100点差さえつくこともよくある。
つまり、ラグビーで南アフリカ代表に勝った日本代表チームは、本当に実力があって、強かった、といえるのである。

最後のワンプレー

もう一つ、勝利につながった理由に、日本代表チームの試合終盤のあり方があった。
試合終了まで数十秒、3点差でリードする南アフリカ代表は、日本代表チームに自陣奥深くに攻め込まれ、反則を犯してしまう。南アフリカ代表の選手達には不安、焦り、恐怖の心理状態であった。
時間が少なくなってきて「やべー、マジでやべー。負けるつもりなんて毛頭なかったけど・・俺たち、今日負けるかも・・・」と強者の側を焦りと恐怖の渦に巻きこんでその隙をついて勝利を奪う、ジャイアントキリングのシナリオである。

つまり、南アフリカ代表に勝った日本代表チームは、試合終盤の精神状態に強かったことに加え、本当に実力があって、強かった、といえる。

現場にいる選手達の自立性

「しめた!あいつら、スクラムを選んだ!」
試合後のインタビューによれば南アフリカの選手達は、この瞬間内心安堵していたそうだ。ゴールを狙われたら、日本代表のキッカーは名手五郎丸選手。確実に同点で引き分けになる場面だ。南アフリカ代表にとっては、格下の日本に引き分けだなんて受け入れがたい屈辱であったからだ。
事実、日本代表チームの監督のエディ・ジョーンズは、観客席の上の方にある監督席で、頭にセットしたインカム越しにグラウンドレベルに降りているコーチに「狙え!3点とれ!引き分けでいい!」と叫びまくっていたという。
しかしラグビーの世界には、「試合は監督のものではなく選手のものである」という不文律の文化がある。最終意思決定権は「監督」ではなく「選手達」であり「選手を代表するキャプテン」にあるという伝統である。

勝負所での会議力と意思決定力

「監督は狙えって言ってるみたいだけど、どうする?」
「FWどう?スクラム行ける?」
「スクラム行けると思うよ。」
「このために準備してきたしね。スクラムでしょ。」
「トライとって逆転しようぜ。」
「つーか同点じゃ、歴史変わらねえだろ!
「歴史変えるの誰だよ」
「俺たちだよ!」
「ようしスクラムだ!」

私が関係者にいろいろと取材したところ、選手達の試合中のショートミーティングの様子は、こんな感じの会話だったらしい。
試合の合間の重要な場面で選手達が集合し、情報を共有して意見を交換して意思決定することを「トークアンドフィックス」という。残り時間は、ほんの数秒。ラストチャンス。点差は3点。ペナルティゴールで同点引き分けを狙わず、スクラムからのトライで逆転勝ちを狙う決断。優れたトークアンドフィックスの結果、彼らは、スクラムを選択し、そして、彼らは、狙い通り、勝ったのである。

ラグビーワールドカップに学ぶ、最高のチームを作る方法

いよいよラグビーワールドカップが始まります。
ここまで、ラグビーとそのワールドカップでの試合から、チーム作りのポイントを紐解いてきました。

  • 違いを受けとめる
  • 正論と反論のチームワーク
  • キーワードでのイメージの共有
  • 個性を適材適所で活かす
  • 強みと弱みを自覚する
  • 現場の自律性
  • 勝負所での会議力と意思決定力

これらは、ラグビーやスポーツにとどまらず、チームで挑戦するどのような組織や場面にもつながることです。ワールドカップ観戦を楽しみ、応援しながら、皆さんが学びや気づきを得るヒントを得ていただけましたら嬉しいです。

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慶應MCCではタグラグビーを用いてチームビルディング、リーダーシップを学ぶ体験型ワークショップを開催します。
『最高のチームをつくるリーダーシップ』
2019年9月開講・全6回

村田 祐造(むらた・ゆうぞう)
村田 祐造

  • スマイルワークス株式会社 代表取締役
  • ラグビーワールドカップ2003日本代表チーム テクニカルコーチ
東京大学工学部精密機械工学科卒業、同大学院工学系研究科環境海洋工学コース中退。高校でラグビーを始め東京大学ラグビー部、三洋電機ラグビー部ではプロラグビー選手として活躍。三洋電機時代業務で開発したラグビー分析ソフトが日本代表チームに採用され、自身もコーチとして釜山アジア大会、ラグビーW杯2003に挑戦。選手引退後、起業。また、大学院では造船工学を専攻しニッポンチャレンジ・アメリカズカップ2000における世界最高のレーシングヨットの開発に携わるも、まさかの準決勝敗退経験をもつ。敗因と感じた「心とチームワーク」がライフワークとなる。
現在、タグラグビーを通じた「心とチームワーク」を学ぶ体感型研修プログラムを実施。また、東大ラグビー部の学生たちと共に子供たちの育成・指導にもあたる。東京セブンズラグビースクール 校長。
慶應MCC担当プログラム

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