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ピックアップレポート

2019年07月09日

村田 祐造「ラグビーに学ぶ、目的設定と和の精神」

村田 祐造
スマイルワークス株式会社 代表取締役
ラグビーワールドカップ2003日本代表チーム テクニカルコーチ

ラグビーは頭脳ゲームで精神力、組織力の戦いだ。計画的に準備し、本番で力を発揮したチームが勝つ。だから面白い。この原理は、まさにビジネスと同じだ。ラグビーワールドカップから「最高のチームを作る方法」を探った前回に続いて、今回は「目標を支える目的の存在」と、ラグビーの精神を表す「ノーサイド」と「和の精神」について、考えてみたい。

目標を支える目的の存在

「今大会の我々の目標はベスト8に入ることでしたから…」

ゴローは、涙ぐんで言葉を詰まらせた。本当に悔しそうだった。
前回のラグビーワールドカップ2015で歴史的な快挙を成し遂げ、一躍ヒーローになった五郎丸歩選手。最終戦を勝利した後のインタビューで、今大会の感想を聞かれて彼は悔しさを滲ませた。
3勝1敗の勝ち星で、南アフリカ代表とスコットランド代表と日本代表の3か国が並んでいたが、得失点差の関係で日本代表は3位。予選敗退となってしまった。五郎丸選手は、自分達で立てたチームの目標を達成できなかった事を悔いていた。あれだけの快挙を起こしても涙が出るほど悔しかったのだ。逆に、凄いなと私は思った。その精神力、目標達成への拘りがあの快挙を起こしたのだろう。「目標設定がいかに大事であるか」がわかる。

しかし、私は、目標も大事だがさらに大切なのは目的なのだと考える。

目的と目標。皆さんはこの二つの言葉を明確に意識して使いわけているだろうか?
目的とは、何のために挑戦するのか?なぜ挑戦するのか?の理由であり、想いであり、理念であり、動機付けである。目標とは、目的をより具体的に測定可能にした言葉だ。具体的かつ測定可能な目標を掲げるにすると、サッカーの岡田武史監督が指摘するように行動が変わる。
しかし、いくら目標を設定しても、なぜその目標を達成したいのかという目的が明確で力のあるものでなかったら努力は続かない。その目標を支える目的は、心の底から力が湧いてくるような、胸が熱くなるような目的でなければならない。

では、ラグビーワールドカップ2015で南アを撃破した日本代表の目的は何だったか?
それは、「歴史を変える」という言葉だ。

ワールドカップで予選敗退し続けてきた日本ラグビーの歴史を変える。そして、「自分達が愛するラグビーというスポーツを、もっともっと人々に愛されるスポーツにする。」ということだ。この目的を合言葉に、日本代表チームの選手達は、共感し共鳴し一つのチームになっていたのである。
この「歴史を変える」「愛するラグビーを人々に愛されるスポーツにする」という目的は、強烈な動機付けとなって、選手達の「世界のベスト8」になるという目標を支え、朝5時に起きて一日4回練習するという「世界一のハードワーク」を支えた。
また、その目的は、南ア戦の終了間際のチームの決断も支えていた。「スクラムを選択してトライを狙い逆転勝利を狙うか?ゴールキックを選択して同点で引き分けを狙うか」の究極の選択。「歴史変えるの誰だよ!」「俺たちだよ!」「引き分けじゃ歴史は変わらねえよ!」「よし、じゃあスクラムだな。」「トライして勝つ!」
このように正しく決断して見事に実行して鮮やかに実現できたのも、挑戦の目的がチームの共通認識として共有・共感・共鳴した「最高のチーム」だったからなのであろうと私は考えている。

では、私達が、ビジネスパーソンとして、大人として、親として、あるいは、次世代の子供達のために掲げる目的と目標はなんだろうか? 私達の人生の目的(使命・志)と目標はなんだろうか?

2015年のラグビー日本代表チームのように。
愛するもののために戦うことを目的と志として生きることこそ、楽しく充実した人生を生きる秘訣なのではないかと私は信じている。

日本ラグビーの「和」の精神

ラグビーの精神を表す素晴らしい言葉に「ノーサイド」という言葉がある。
試合中は敵同士で、激しくぶつかりタックルしあう関係だが、試合が終われば敵味方なく俺たちはみな友達だ!彼我の違いによって分け隔てしないをという精神だ。

ノーサイドの精神は、ラグビー日本代表チームのメンバー構成にも表れている。
南アフリカ戦に選手登録された23人の選手のうち、8名がカタカナで、15名が漢字で表記されいる。それだけラグビー日本代表チームはインターナショナルなチームなのだとわかる。人種や生誕地や肌の色の違いを超えて、JAPAN WAYというラグビー日本代表のあり方を共有して、彼らは一つになって戦っていた。

ノーサイドの精神は、日本の「和」の精神や「武士道」にも通ずる素敵な言葉である。
だから日本のラガーマンは、ノーサイドという言葉が大好きである。ところが、海外のラグビー選手に「ラグビーのノーサイドの精神っていいよね」と話すと、「は?なにそれ?」という顔をされることがよくある。

つまり、ラグビーが本来もっていたノーサイドの精神が、世界では薄れてしまっていて、日本ラグビー界ではその国民性や文化とあいまって今でもとても愛されているという現状があるのだ。

ワールドカップ日本開催の意義「和の精神を世界へ」

2019年の現在、世界はまだまだ平和には程遠い「乱」の時代である。東アジアは核の脅威にさらされ、拉致問題は、解決の糸口さえ見えない。欧米では、自国ファーストの極右勢力が議席を伸ばし、国内外で分断が進んでいる。ニュージーランドやスリランカでは、宗教の違いによるテロが発生した。違いが分断を生み、争いを引き起こし、憎しみと疑心暗鬼がさらなる分断を深めようとしている。

今から1400年ほど前、聖徳太子が我が国で初めて日本国民の規範として制定した十七条の憲法は第一条「和を以って貴しと為す」から始まる。この後、第1条の文章は、それぞれにみんな違いがあるんだから、なかなか一つにまとまるのは難しい。だから、よくよく意見をぶつけあってよく話し合って合議して物事を進めていこう。という聖徳太子からの日本国民へのメッセージが続く。

違いを超えて「和」を目指そう!というのは聖徳太子の心である。
「ラグビーのノーサイドの精神、和の心を日本から世界に発信する」
これこそが、今年日本でワールドカップを開催する意義なのだと私は信じている。

それに続いて来年は東京オリンピック。オリンピックは、世界最大のスポーツイベントであり平和の祭典である。世界的なスポーツイベントが二年連続で日本に来るのは本当に一生に一度の機会。ラグビーやスポーツの素晴らしい価値を一過性のブームとしてではなく、永久の財産として後世に継承していくこと。それが世界の平和と人類の安寧につながるのだと私は信じている。

ノーサイド=和の精神を体得する

さらに、違いを超えてノーサイドする「和の精神」は、ラグビーだけでなく、あらゆるスポーツ、スポーツだけでなく、チームで活動するすべての組織を成果や平穏に導く非常に重要な精神だと思う。
ノーサイドの精神は、東洋哲学の言葉で表現すると自他一如などとなるが、言葉ではなかなか伝わらないのが実情だ。だから私は、ノーサイドの精神を体感して学んでもらうことができたら、と思いタグラグビーによる体感型チームワーク研修をおこなっている。そして同時に、ラグビースクールで次世代を担う子供たちにラグビーの精神を伝えている。

人生もラグビーだ

私たちの命は、両親さらには先祖から受け継いだもの、受け取った“パス”だ。命をラグビーボールにメタファーするならば私達がこの命が運んで目指すゴールとは何だろうか?

出会った人とチームを組んで仕事をする。
その積み重ねがトライとなり、ゴールになり、結果となり、人は成長していく。
そして、最後はノーサイド。
私達の仕事と人生は、ラグビーのようなものだ。それぞれの持ち場で、自分の可能性を最大限に発揮する。今の世界を少しでも良い方向に前進させ、次世代により平和でより素晴らしい世界をパスして継承していく。これこそが、私達の使命なのではないだろうか。

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さて、ワールドカップイヤーの今年。世界最高峰のラグビーの観戦を通じて、彼らが体現しているラグビーの精神や生き様をぜひ感じてみていただきたい。それはきっと、皆さんの仕事や人生に大いに役立つはずだ。私もラグビーを通じて「笑顔で働く大人」と「強くて優しい人」を増やす、という私の人生のトライのために仲間と全力で走り続けたいと思う。一緒にトライを目指しましょう!(ノーサイド)

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慶應MCCではタグラグビーを用いてチームビルディング、リーダーシップを学ぶ体験型ワークショップを開催します。
『最高のチームをつくるリーダーシップ』
2019年9月開講・全6回

村田 祐造(むらた・ゆうぞう)
村田 祐造

  • スマイルワークス株式会社 代表取締役
  • ラグビーワールドカップ2003日本代表チーム テクニカルコーチ
慶應MCC担当プログラム
東京大学工学部精密機械工学科卒業、同大学院工学系研究科環境海洋工学コース中退。高校でラグビーを始め東京大学ラグビー部、三洋電機ラグビー部ではプロラグビー選手として活躍。三洋電機時代業務で開発したラグビー分析ソフトが日本代表チームに採用され、自身もコーチとして釜山アジア大会、ラグビーW杯2003に挑戦。選手引退後、起業。また、大学院では造船工学を専攻しニッポンチャレンジ・アメリカズカップ2000における世界最高のレーシングヨットの開発に携わるも、まさかの準決勝敗退経験をもつ。敗因と感じた「心とチームワーク」がライフワークとなる。
現在、タグラグビーを通じた「心とチームワーク」を学ぶ体感型研修プログラムを実施。また、東大ラグビー部の学生たちと共に子供たちの育成・指導にもあたる。東京セブンズラグビースクール校長。
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