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牧 兼充「SIVの達成点とこれからの展開」

2004年10月12日

牧 兼充 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助手、SFC Incubation Village 事務局長

SFC Incubation Village研究コンソーシアム(SIV)は、「慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)をベースとした大学発ベンチャーインキュベーションの成功モデルを作る」ことを目的として2002年4月に発足以来、SFC発ベンチャー企業の調査、仕組みの検討・実践など、様々な成果を挙げてきました。活動の幅も、フェーズIの「国内外の基礎調査」、フェーズIIの「個別施策の実践」に続いて、フェーズIIIでは来年度開設予定のSFC隣接型起業家育成施設を見据えた「インキュベーションシステムの創生」と発展しております。フェーズI開始時は、SIVの会員組織は5団体でした。その小さなコミュニティが活動を重ねるに連れて、フェーズIIでは10団体、そしてフェーズIIIでは33団体(2004年8月現在)と少しづつではありますが拡大しております。


ネットワーク社会とは、「ビジョンを持った活動を継続的に展開することによって、人と人との新たな出会いを促進し、その出会いが新たな結合を生み出し、その結合が新たな活動を創出し、その繰り返しがやがて大きな力になっていく社会」であるように思います。SIVの今までの活動を振り返ると、まさにこのネットワーク社会の特性を具現化しているように思います。
インキュベーションの活動は、組織やシステムが生み出すものではなく、「人と人の活動」が生み出すものです。そのような意味で、SIVの活動にご協力いただいている皆さんに改めて御礼申し上げます。私自身がSIVの活動をここまで継続的にがんばってこれたのも、多数の方からの応援・励まし、多数の魅力的な方との出会い、新たな活動の創出などがあったからだと思っております。
以下では、現在SIVとしての主要な活動について、紹介したいと思います。
インキュベーション組織の体制整備
SFC におけるインキュベーション組織の体制整備はSIVの一番重要なミッションです。この観点から一番長い間お世話になってきたのは村井純教授で、SIVの立ち上げから今まで継続的にSIVの活動の後見人、アドバイザとしてご尽力くださっています。またフェーズIIからはKBSから移籍した國領二郎教授に推進役・アドバイザ・後見人としてお世話になっております。その他、塾内外の多くの方々にご協力をいただいております。
大学におけるインキュベーションの整備にあたっては、知的財産・利益相反のマネージメント、企業との受託研究・共同研究における契約書に関するノウハウの蓄積、研究成果の個人帰属・機関の整理、学生を含めた機密保持体制の確立などの課題が乱立しておりますが、SFCとしてこの分野の知見をためることにある程度貢献できたと思っております。この分野に関する知見は、少なくとも国内のレベルでは最先端になりつつあると自負しておりますが、今後はグローバルにおける最先端を目指して、研究活動を進めていきたいと思っております。
このような活動を通じて、SFC内における組織整備、ベンチャーに関連する各種ガイドラインの整備、外部応援団との連携の仕組みなどは、少しずつではありますが、形が出来上がりつつあります。SIVは、研究コンソーシアムとしてはフェーズIIIでその役割を終えますが、その役割を引き継ぎ、来年度以降の継続的な運営のために、ベンチャー支援コミュニティとしてのNPO法人の設立、インキュベーションやアントレプレナーシップに関する学内研究・教育組織の設立などを検討しております。
教育活動とネットワーキング活動
大学においてインキュベーションを促進するためには、教育活動とネットワーキング活動が重要となります。
教育活動は、この2年間の活動で大変充実したものとなってきました。SIV Tutorialと題して國領二郎研究プロジェクトと連携したアントレプレナー教育を展開しています。この活動は基礎コースと応用コースに分かれています。
基礎コースは、1)七夕祭の模擬店におけるビジネスプランを作成し、2)出資者の前でプレゼンし、3)出資者を募り、4)実際に経営を行って、5)決算して、6)利益の配分を行う、という一連のプロセスを通じてビジネスの基礎を学びます。このプランを作成する際には、地元への貢献につながるビジネス展開を条件にしたこともあり、学生たちの活動が地元産業と有機的につながるしかけとなっています。
応用コースは、各自のテーマに応じたビジネスプランを作成する場を提供します。と言ってもただビジネスプランを書くための基礎知識を提供するだけで、新たなビジネス創出につながるとは考えられません。学生たちがビジネスモデルを検討するにあたって、ブラッシュアップをお手伝いをしていただける産業界の方々との連携が最も重要であると判断しました。そこで、コースの前半の基礎知識編については、産業界よりゲストスピーカーをお呼びした実務家によるレクチャーを中心に構成しました。またコースの後半ではSIVの会員組織の皆様に週代わりにいらしていただいて、学生のプランをブラッシュアップしていただきました。
毎週の講義の終了後には学生と講師の交流会を開催しました。一言で言うならば、この講義を受けるアントレプレナーがビジネスを立ち上げるにあたって必要となるネットワーキングが一通り揃うことを目指しています。それに加えて、慶應義塾の塾員の方々を中心に、学生たちのプランにアドバイスをいただくメンター制度を作りました。
教育活動は、基礎コース・応用コースの雛形は完成したと思っています。今後はこの雛形に基づいてより、実効性の高い教材開発を行っていく必要性を感じています。またコースの形が整ったといっても、國領二郎研究プロジェクトに限定された内容です。来年度のSFCのカリキュラム改定とあわせて、SFCにおけるアントレプレナー教育の体系的カリキュラムの提案を行っていく予定です。
交流イベントとしては、SIV Networking Seminarが有効に機能し始めています。フェーズIIでは基礎的な講演会による敷居の低い交流イベントを目指したのに対し、フェーズIIIでは実際の起業家によるプランの発表と専門家によるパネル形式のブラッシュアップセッションによるやや敷居の高い交流イベントを行っております。その結果参加者数は減りましたが、ベンチャー育成においてより交流して欲しい人材にターゲットを絞った交流会の実現が可能となりました。またこのセッションそのものがベンチャー企業家にとっても大変有益であり、このプロセス自体がインキュベーション活動といえるかと思います。今後とも、クオリティの高いビジネス案件とアドバイザを提供していくことを目指します。
外部との連携
大学におけるインキュベーションには、外部の応援団組織の存在が重要です。特に学生・若手のビジネスプランには穴が多く、経験豊富なアドバイスが必要不可欠となります。このようなアドバイスをいただく方をメンターと呼び、SIVとしてこのメンター制度を整えました。草の根的にお声をおかけしたところ、その趣旨に賛同する方々が少しづつ増えております。メンターの活動が一層活性化し、メンター三田会(三田会: 慶應義塾大学の同窓会組織)を設立いたしました。このメンター三田会は慶應義塾の特色を活かした、慶應義塾全体のインキュベーションにとって大変重要な役割を担って行くと確信しております。
SIVのグローバル展開も積極的に行っていきます。SIVスタート時は、海外に視察に行ってもこちらは一方的にお話を伺う立場でしたが、SIVの活動が活性化するに連れて、パートナーとして一緒にビジネスを展開していくような形になりつつあります。現在具体的にいくつかの海外組織からアライアンスのお話をいただいております。このようなインキュベーションの活動のグローバル展開においてハブになるのはやはりシリコンバレーです。また、SFCはアジアに強いキャンパスです。今後は積極的にアジア展開を行って、アジアの大学型インキュベーション組織との連携を拡充していきたいと考えております。
地域との連携も重要です。SFCからグローバル型ベンチャー企業を輩出していくだけではなく、この藤沢という地域に根を下ろした産業を生み出していくことも目指します。さらに、産業界とのより強固な関係つくりは今後も拡大していく必要があります今後ともSIVの会員組織に拘らずに、多様な組織との連携を図っていきたいと思っております。
インキュベーション施設
SIV がフェーズIIIで大きく飛躍することができた要因の一つに、SFC連携型起業家育成施設の事業化があります。ベンチャーインキュベーションに箱物は重要ではないという議論もありますが、いくら他の施策が整ったところで、SFCのように物理的スペースの不足しているところは、最後には箱物がないとインキュベーションが活性化しないことも事実です。現実的には、この箱物がSFCにおけるインキュベーション施策をアクセレートする起爆剤となりました。
IT特化型施設ということで、高速ネットワークインフラを整備し、また入居ベンチャー企業がSFCと共同研究を行う際にはSFCのキャンパスネットワークシステムへのコネクティビティを提供するなどの仕組みも準備中です。場所はSFCの隣接ということでビジネスとしては不便な場所にありますが、SFCとの密接な連携により、成功確率の高いベンチャー企業を育成していきたいと思っております。いくら充実した施設があっても、関係者のインキュベーションや新規事業の立ち上げへの情熱が重要であり、そのためには、インキュベーションシステムの充実を図っていきたいと思っています。
ところで、このSFC Incubation Villageという名前は、SIV立ち上げ準備時の村井純さん、松本孝利さん、鈴木寛さんによる打ち合わせにおいて、村井さんが命名しました。「センター」ではなく「ビレッジ」にこめた思いは、一つの建物を目指すのではなくここを起爆剤にして、キャンパス周辺がベンチャーコミュニティになることを目指すものです。この施設に拘らず、SFC周辺がインキュベーションビレッジとなるよう、今後ともがんばって行きたいと思っています。
SFC Incubation Village研究コンソーシアム http://www.siv.ne.jp/

牧 兼充 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助手、SFC Incubation Village 事務局長
2000 年3月 慶應義塾大学環境情報学部卒業、2002年3月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。2002年4月より、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助手として、SFC Incubation Village研究コンソーシアムの立ち上げから現在まで実働の責任者として運営に携わる。専攻は、ネットワーク技術を基盤としたビジネス・社会モデル、アントレプレナーシップ論など。修士(政策・メディア)。

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