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田口 佳史『渋沢栄一に学ぶ大転換期の乗り越え方』

2021年09月14日

田口佳史
東洋思想研究家
株式会社イメージプラン代表取締役会長

はじめに

2021年のNHK大河ドラマに続き、2024年からは「新一万円札の顔」として登場する渋沢栄一。
なぜ今、これほどまでに渋沢栄一が注目され、世間から求められるのでしょうか。
これは単なる偶然ではありません。
渋沢栄一の人生をひもといてみると、驚くほど現代を生きる私たちと共通点が多い、したがって学ぶべき点が多いことに気づきます。

一つ目は「大転換期を生きている」という点。
今、世界が大きな転換期を迎えていることは疑いようがありません。新型コロナウイルス感染症の突然の襲来により、人々の生活、経済のあり方、働き方は大きく変わってしまいました。
しかし、それ以前から、
「行き過ぎた資本主義」
「格差の問題」
「物質至上主義から、見えないもの重視への価値転換」
「組織中心から個人の時代へ」
などさまざまな側面で世界の構造は大きく変わり始めていました。
インターネットの普及やデジタル技術の革新により、法体系、政治制度、経済システムに至るまで、世の中のあらゆる部分で「前時代的なしくみ」が制度疲労を起こし、新しいルールやカルチャー、考え方が求められています。
私たちは、紛れもなく自らの人生では体験したことのない「大転換期」を生きています。
従来の制度やルール、考え方がまったく通用しない「新しい時代」を迎えているのです。

「幕末から明治」という激動の時代を生き抜いていく

渋沢栄一が生まれたのは1840年。
それがどんな時代なのか。
この年号を見ただけでピンとくる人はなかなかの歴史通です。
1840年はアヘン戦争が起こり、欧米列強のアジア支配が本格化した象徴的な年。ここから始まる時代の大きなうねりについてはご存知の方も多いでしょう。
渋沢が13歳になった1853年にペリーが来航し、1858年(渋沢18歳)には日米修好通商条約が締結。同じ年には安政の大獄も起こります。
幕末激動の時代に少年期、青年期を過ごした渋沢は28歳(1868年)のとき明治維新を迎えます。
この先の詳しい生涯やストーリーは本文でたっぷり触れますが、江戸末期から明治を迎える、文字通り「大転換期」の真っただ中を渋沢は生き抜いていきます。
こうした渋沢の生涯を「偉人の歴史」「過去のもの」と捉えてはいけません。
激動の時代を駆け抜けた彼の生き方や考え方は、新しい大転換期を生きる私たちにとても大きく、現実的なヒントを与えてくれるのです。
ドイツの政治家ビスマルクは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という有名な言葉を残しています。
大転換期を生きる今こそ、私たちは「歴史に学ぶ」必要があります。
大転換期を過ごした渋沢栄一のような人から「今」という時代の生き方を学ばなければならないのです。

キャリアチェンジをしながら「長い人生」を生きていく

二つ目の共通点は「人生100年時代」です。
渋沢が亡くなったのは1931年。91歳の大往生でした。当時としてはかなりの長寿で、今で言えば100歳どころか110歳まで生きたような感覚でしょう。
これだけ長い人生を彼はどう生きたのか。
これもまた、現代を生きる私たちにとって重要かつ非常に身近なテーマです。
生まれてから20年で人間としての基礎を作り、それから40年「人生の第一期」を過ごしたとしても、まだ60歳。
それからさらに40年という「人生の第二期」「黄金期」が待っています。
人類史上経験したことのない人生100年時代を私たちはどのように生きればいいのでしょうか。
そのヒントを渋沢栄一は与えてくれます。

ここでのキーワードは「身分を変えながら生きる」。
今の言葉に置き換えるなら「キャリアチェンジ」です。
こちらも詳しくは本文で述べますが、農家に生まれた渋沢は24歳のとき、一 橋慶喜に仕えます。すなわち農民から武士になったのです。
江戸時代は武士ですが、明治になれば、そのまま役人として政治や行政の世界で生きていきます。
その後、役人として一生を送るのかと思えば、33歳のとき、当時勤めていた大蔵省をあっさり辞めて、第一国立銀行(現・みずほ銀行)を設立。35歳には頭取になります。ちなみに、第一国立銀行は日本最古の銀行です。
役人を辞め、経済・実業の世界で商人として生きることを決めた渋沢は、約500とも言われる企業・団体の設立に関わり、日本の経済、ひいては資本主義の礎を築いていきます。
農民から武士(役人)へと身分を変え、さらに商人になる。
69歳になった渋沢は第一銀行以外のほとんどの役職を辞し、76歳には最後に残った第一銀行の頭取も辞め、実業界から引退します。
それで渋沢の生涯が終わると思ったら大間違い。60歳を過ぎた頃から渋沢は民間外交に力を入れていきます。
経済を発展させるには、国レベルの外交のみならず、民間レベルの外交が不可欠。そう考えた渋沢は、人生の最晩年に民間外交へと自らの情熱を傾けていきます。
まさに「人生100年時代」を先取りするかのように、自らの身分やキャリアを変えながら、第二、第三の人生を精力的に歩んでいきます。
今、私たちが真剣に向き合わなければならない「キャリア設計」そのものではないでしょうか。

今こそビジネスに「徳」が求められている

三つ目の共通点は「ビジネスに徳が求められる」という点です。
今、私のところには国内外を問わず多くの経営者、ビジネスパーソンたちが「東洋思想をベースとしたビジネスマインド、企業経営、企業戦略」を学びに来ます。
そんな彼らに「今、ビジネスで大事なことは?」と尋ねると、多くの経営者、CEOたちがこんなことを口にします。
「virtueが必要だ!」
「virtue」とは「徳」のことです。
とりわけシリコンバレーのCEOたちは「virtueの大切さ」を強調します。企業や経営者の「徳」こそが、ビジネスの成否を分ける大きな要因となる。たしかに、その傾向はどんどん強まっています。
今や、SNSを使って国の代表までが直接メッセージを発する世の中。どんな立場、どんな身分にいる人でも、世界のリーダー、名だたるビジネスパーソンに直接つながり、その人たちの「生の声」に触れることができます。
そうしたリーダーたちの発言や振る舞いは一気に世界中に拡散され、地球環境に対する考え方、企業のあり方や精神、顧客やユーザーに対する心配りなど、あらゆる側面を世界中が注目しています。
そんなガラス張りで、一気に情報が伝達する世の中にあって、人として、あるいは企業としての「徳」がなければ、瞬 く間にバッシングされ、炎上し、不買運動が広がり、経営自体に大きなダメージを与えます。
まさに「徳のある/なし」が企業成長のカギにもなり、経営リスクにもなり得るのです。
そんな現代をまるで予見するかのように、渋沢は『論語と算盤』という著作を残しています。「論語」と「算盤」という言葉を並べたところに深い意味が含まれています。
一言で言ってしまえば、論語とは「道徳」のこと。先に述べた「virtue(徳)」と言い換えてもいいでしょう。
一方の算盤とは「経済」あるいは「商売」や「ビジネス」のこと。すなわち渋沢は『論語と算盤』という著作のなかで「道徳とビジネス」について語ったのです。
道徳なくして、ビジネスは成功しない──。
現代を生きるあらゆるビジネスパーソンが学ばなければならない「ビジネスの根幹」であり「仕事の本質」です。

今という時代に渋沢栄一が求められるのは必然

本書は「渋沢栄一の生涯」と「『論語と算盤』という名著」、そして「『論語』そのもの」という三つの題材を用いながら、現代の生き方やビジネスのあり方を考えていく本です。

  1. 大転換期を生きる
  2. 「人生100年時代」のキャリア設計
  3. ビジネスに「徳」が求められる時代

こうして並べてみると、今という時代に渋沢栄一が求められるのは必然です。
実際に、渋沢栄一はどんな生涯を送ったのか。
そして『論語と算盤』や『論語』には何が書かれていて、私たちが「今を生きる」上で、何を学び取らなければならないのか。
渋沢の生涯をじっくりひもときながら、さまざまなテーマについてこれから一緒に考えていきましょう。

 

本書は2019年春に慶應丸の内シティキャンパスで開催されたビジネスパーソン向けの講義『田口佳史さんに問う「渋沢栄一と論語」』をベースに、新たに書き下ろしたものになります。講義のようにわかりやすい語り口を目指しました。
なお、本文中に引用した『論語と算盤』は角川ソフィア文庫版、『論語』は岩波文庫版(金谷治訳注)を元に、読みにくい漢字にはルビを追加しています。
気負うことなく、お読みいただければ幸いです。

渋沢栄一に学ぶ大転換期の乗り越え方
著:田口 佳史 ; 出版社:光文社(光文社新書) ; 発行年月:2021年2月; 本体価格:840円(税抜)
田口佳史(たぐち・よしふみ)
田口佳史

  • 東洋思想研究家
  • 株式会社イメージプラン代表取締役会長
1942年生まれ。株式会社イメージプラン代表取締役会長、一般社団法人日本家庭教育協会理事長、一般社団法人東洋と西洋の知の融合研究所所長など。「東洋思想(儒・仏・道・禅・神道を有機的に融合させた思想や哲学)」を基盤とする独自の経営思想体系「タオ・マネジメント(東洋思想的経営論)」を構築・実践、数多くの企業経営者と政治家を育て上げてきた。社会人教育に関しては、延べ1万名(2000社)超への提供・支援実績を有する。
これまで掲げてきた理念(東洋と西洋の知の融合)をより高い次元に発展させ、21世紀にふさわしい人となるための新しい指針」をも世界に向けて提唱すべく精力的に活動中。

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