ピックアップレポート
2025年05月13日
黒岩 健一郎「企業と顧客が価値を共創する“サービス“を活用し、他社との差別化を実現する」
サービス・マーケティングの枠組みを理解し、事業に生かす新講座
みなさんの今週の支出を思い浮かべてみてください。スマホの通信料金、交通系ICカードのチャージ、美容室のカット料金など、ほとんどの支出がサービスに対するものだと思います。よく考えてみると、私たちは、形のある製品よりもサービスにかなりのお金を使っています。
視点を移せば、世界の時価総額トップ10のうち、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(Googleの親会社)など、IT系を中心にサービスを提供する企業が半数以上を占めています。日本においては、オリエンタルランド、帝国ホテル、セブン&アイホールディングス、日本郵政、JR、NTTといったサービスを扱う企業がGDPの約70%を占めています。さらに、2024年に東証グロース市場に上場したスタートアップ企業を見ても、短時間アルバイト・マッチングプラットフォームの「タイミー」や料理動画アプリの「デリー」など、サービスを扱う企業が大半を占めています。
それだけではありません。製造業でさえ、サービス化を積極的に進めています。製造業の象徴ともいえるトヨタ自動車は、月額制のサブスクリプション型カーリースサービス「kinto」を展開しています。私たちの身の回りは、いまやサービスで溢れているのです。
身近となったサービスは、形ある製品とは何が違うのでしょうか。サービスと製品との違いについては、さまざまな整理がなされていますが、代表的なものとして、4つの特性があります。
- 形がないため、見たり触ったりすることはできない(無形性)
- 生産と消費が同時に起こる(同時性)
- その時々で品質が変動しやすい(変動性)
- 生産されたと同時に消えてしまうため、在庫をかかえることができない(消滅性)
こうしてみると、製品とは異なる点が多くあり、それらの特性を理解した上でビジネスを展開する(マーケティング施策を打つ)必要があることがわかります。その必要性から生まれたのが、「サービス・マーケティング」です。
サービス・マーケティングの研究は、実は1970年代にアメリカで始まりました。当時、航空業界や金融業界での規制緩和を背景に企業間競争が激化し、サービス業でもマーケティング活動の必要性が高まりました。さらに、弁護士などのプロフェッショナル・サービスにおいてもマーケティングの導入が求められるようになり、有形製品と無形サービスの違いに注目しながら、サービス特有のマーケティング課題に関する研究が進んできました。
例えば、マーケティング施策検討に欠かせないマーケティング・ミックス4P(product、price、place、promotion)は、サービスを扱う際には、「参加者(Participants)」「物的環境(Physical evidence)」「プロセス(Process of service assembly)」の3要素を加えて7Pとして考えます。
他にも、
- サービス品質の評価と顧客満足の関係性を理解すること
- 企業に対する信頼や愛着を示す顧客ロイヤルティ向上について検討すること
- 需給を調整して収益を安定化する方法を検討すること
も、サービスを扱うからこそ必要となる項目です。
さらに近年では、サービスとは、企業が一方的に価値を創造して提供するものではなく、企業と顧客がそれぞれの知識や資源を持ち寄り、状況に応じて価値を“共に創り出す”行為である、という考え方も登場しています。これが、いわゆる「共創(コ・クリエーション)」です。
こうしたサービスへの関心の高まりや共創による価値創造への期待が、「共創の時代をリードするマーケティング戦略」プログラムとなりました。本プログラムでは、サービスにおいて重要となる、品質、顧客満足、顧客ロイヤルティ、サービスデザイン、需給のバランス、さらには新しいテクノロジーの活用といったテーマに絞って考えていきます。
授業はすべてケースメソッド形式にて、実際の企業の課題に直面する意思決定者の立場に身を置いて意思決定を体験していきます。こうした疑似体験を通じて、サービス・マーケティングにおいて重要な枠組みを理解すると共に、サービスを活用した新しいビジネスモデルの構築や差別化の実現を目指します。
サービス・マーケティングに関心をお持ちの方はもちろんですが、「サービス・マーケティングって何?」「自社には関係ない」と思っている方にもご参加いただくと、これまでにない視点や考え方を獲得いただけると思います。
この機会にサービス・マーケティングを自社の事業に生かす力を養いませんか?
黒岩 健一郎(くろいわ・けんいちろう)
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科(青山ビジネススクール)教授
慶應MCC担当プログラム
共創の時代をリードするマーケティング戦略
早稲田大学理工学部建築学科を卒業。住友商事株式会社にて不動産事業に従事。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了(MBA)。同大学院後期博士課程単位取得退学。博士(経営学)。武蔵大学経済学部専任講師、准教授、教授を経て現職。慶應義塾大学ビジネススクール認定 ケースメソッド・インストラクター。日本マーケティング学会理事。株式会社トビラボ顧問。
専門はサービス・マーケティング。特に、苦情対応のマネジメント、顧客オーナーシップのマネジメント、サービス・デザイン、市場志向型経営。
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