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慶應義塾・大学発ベンチャーの成長―ナノテク企業・(株)SNT―

2005年06月14日

白鳥世明  慶應義塾大学理工学部助教授、株式会社SNT代表取締役

1.SNTの設立
まず、会社の概要からご説明します。私どもの会社は、2002年3月に、有限会社白鳥ナノテクノロジー(資本金300万円)として設立され、翌2003年4月に株式会社に変わり、同年12月に株式会社SNTに社名変更しました。資本金は現在、6,710万円に増えました。


私どもの会社の名前は、大学の研究室から出たということが、学内でわかりやすいように、ナノテクをやっている白鳥研究室ということで、最初、白鳥ナノテクノロジーとしました。これを略すと、SNTですが、この略称は、運良く業務内容を表していますので、社名もSNTに変更しました。つまり、Sは Sensor、NはNano Coating、TはThin Filmsを表します。薄膜をナノオーダーでコントロールして、センサー技術や薄膜技術の技術移転、商品化、開発という当社の業務をよく表しています。
まもなく、まる2年になりますが、現状はあたふたするばかりです。まだ、大学の研究室に毛の生えただけのようなもので、会社といえるような状態ではありません。
5年くらい前から、私はいろいろな薄膜技術の研究を進めていましたが、学会発表をしていくうちに、様々な企業からその薄膜はこちらに使えませんか、というような話を聞きました。大学では論文を書いて、発表してしまえば終わりますが、もう少し役に立つような形で、企業の方と一緒になって、やっていければと思いました。しかし、慶應義塾大学の学内では殆どスペースがありません。1教員あたり25坪ですので、当初は私の受け持ち学生は8人でしたが、今は25人に増えてしまい、1人当たり1坪しかありません。実験装置もありますので、実際は、立っていなければならない状態です。
学内では無理なので、大学の近くに製品化にいく一歩手前までの開発の拠点が作れないかと考え、新川崎のK2タウンキャンパスに入居させていただき、スタートしました。幸いその後、川崎市のご好意もありまして、K2の隣のインキュベーションセンターのかわさき新産業創造センター(KBIC)にも入ることができました。現在は、矢上校舎とK2に研究室、KBICにSNT=会社という形になっています。なお、学内で登記はできませんので、本店は自宅にしてあります。会社の従業員は5名です。
なお、私は日吉校舎と矢上校舎で授業を持っていますので、K2の研究室とKBICの会社とは1日に何回か行き来しています。そういう意味では、ここは近くて、大変助かっています。
2.コア技術と特許-申請特許は31件-
では、何がコア技術かと言いますと、ウェットプロセスのナノテクノロジーです。ナノは10億分の1を表す単位ですが、物質を構成する分子や原子の大きさに相当します。ナノテクノロジーは、このように極めて小さな分子や原子を自由に操って加工する「超微細技術」のことです。ほとんどのナノテクの技術は真空によるものが多く、真空の中で原子や分子を動かして加工しますが、真空技術にはかなりの設備導入が必要です。中小企業やベンチャーにはなかなか難しい。私は、ウェットプロセスといいまして、水を使って、真空を使わないプロセスを提唱しております。ですから、コア技術は、「ウェットプロセスのナノテクノロジー」ということになります。つまり、従来の真空を使った薄膜作製技術に代わって、常温・常圧の電解質高分子の水溶液を用いて作る「交互積層法」とよばれる次世代の薄膜作製技術に取り組んでいます。これにより、常温・常圧下で、低コストの製膜が可能になりました。
製品等の説明に移る前に、研究開発や特許のシステムをご説明しておきます。研究開発の成果を特許申請しますが、最初は個人で特許を出していました。個人で特許を出しますと1件35万円~50万円かかります。ほぼ1ヶ月分の給料になってしまい、2件出しますと、家内が悲鳴をあげました。その後、大学に知的資産センター(TLO)ができました。それからは、センターが特許申請をしてくれますので、大学に無償譲渡という形で申請するようになりました。費用を個人で負担しなくてもよくなったわけです。とくに、海外特許などは1000万円もかかることもありますので、大変助かります。そして、特許が売れて契約が成立しますと(ライセンス契約)、その収入の一定の割合が研究室にバックされます。それで大学の研究室として、産学連携をして、いろいろな企業と連携して開発・事業化を行います。
企業との連携はいろいろな形で、スタートができるのですが、製品開発まではもう一歩進んだ小回りのきく調整が必要だと考えて、ベンチャー企業を立ち上げました。ベンチャーになりますと、別人格、法人格になりますので、私個人が発明者の特許でも、慶應義塾大学に譲渡していますので、一定の約束ごとが必要になりまして、慶應義塾大学から特許の実施権を無償でいただきます。ただし、特許の出願費用を大学に持ってもらっていますので、販売が成立した時点で、一定の割合でロイヤリティーを返すという契約を塾長と交わしています。つまり、大学の白鳥研究室(矢上校舎)で理論・基礎研究を行い、その成果=特許を知的資産センター(TLO)に申請します。知的資産センターは、特許の調査や特許の管理、場合によってはアドバイスをしてくれます。(株)SNTは、同センターから技術移転を受けて事業化に取り組みます。
知的資産センターができた当初は、特許の出願件数が少なかったので、出すものはすべて出願してくれましたが、現在は皆さん出しますので、そうとう洗練されたもので、すぐに実施が決まりそうなものだけしか、出してくれません。漏れたもので、どうしても出しておきたいものは、こちらで会社の特許として出します。慶應義塾の場合は、教員が個人で出しても、センターに出しても、会社で出しても、発明者が選択できるようになっています。そこで、適宜その場に応じて、選択して出願しています。ちなみに、いままで出した特許は31件です。最近は月に1件のペースで出願しています。知的資産センターで出していただいたものは、このうち20件くらいです。
なお、この会社は、確かにベンチャー企業ですが、すぐに膨張させて自ら成長企業にしようとは思っておりません。あくまでもパートナー企業との協力関係で実用化を推進する、開発をベースにした業務を行っています。研究者としての本業はおろそかにしないで、やっていこうと思っています。
3.ナノテク薄膜技術の応用分野-光エレクトロニクス、コーティング、快適生活環境-
ナノテクを使った薄膜技術をどういう分野に応用していくかということですが、3つの分野を考えています。1つは、新機能の光デバイスフィルムや有機・無機複合太陽電池の開発(光エレクトロニクス分野)、2つ目は有機超薄膜の微細構造制御や超撥水面の開発など(コーティング技術分野)、そして3番目は、がらりと変わりますが、きちっとナノオーダーに薄膜を作るのではなく、ポーラスといいますか、穴のたくさんあいたフカフカした構造の薄膜を空気清浄機とか、水の浄化とか、センサーに使う、快適生活環境という分野があります。
このコア技術はすべて同じです。わが社のコア技術はウェットプロセス、水を使うと言いましたが、簡単に説明します。基材は半導体であれ、Yシャツのような繊維であれ、球であっても、なんでもいいと思いますが、表面に少し処理をしまして、それにまた違う電荷を持つポリマー又は有機材料の溶液に浸水させます。そうしますと、電荷のクーロン力でプラスとマイナスがくっ付きまして、それを繰り返すとプラス・マイナス・プラス・マイナスと薄膜が成長していきます。半導体の真空技術に、レーザー、ダイオードの技術に分子線ビームエピタキシー(molecular beam epitaxy)というのがあります。オングストロームオーダーで分子線をとばして、真空中で積層するという高精度の技術です。ところが弊社の方法はビーカーがあればできますので、モルキュラビーカーエピタキシーと呼んでいます。
ビーカーにちゃぽんと浸けるだけで本当にこんなことができるのかということですが、もともとは私が考えた技術ではなくて、1992年にドイツのデッカー (Gero Decher)という人が考えたのですが、この人が学会に発表した時に、私も含めて多くの人が本当にできるのかと思っていました。非常に緻密な薄膜を作る場合と、ナノオーダーで穴があいたものをポーラスに積層する場合と、同じ材料でも少しの工夫で、全く違った構造の薄膜ができます。どういった条件でどういう風になるかということを丹念に調べまして、それをデータベースにしました。データベースをとるのに1年かかりました。薄膜には、プラスのものとマイナスのものがありまして、そのときの溶液の水素イオン濃度phを変えています。そこには、9×9=81通りの条件があります。その1つの条件で超親水性の薄膜を作成した場合、これをプラスティックコンタクトレンズの上にのせますと、涙がさっと広がって、生体親和性がよく、目に優しいコンタクトレンズになります。ここのところは私が5年前に留学していましたマサチューセッツ工科大学で行われていました。そこでコンタクトレンズが、こういった技術の第1号として、商品化されました。MITから、イギリスのコンタクトレンズの会社に技術移転されました。1億円でライセンス契約になりました。私はずっとこの基礎研究だけをしていましたが、この部分が1億円ということは、9×9=81通りで、どれくらいの産業効果になるだろうと思い、夢が湧いてきました。場合によっては、少し研究費を確保して、新しい仕事ができるかなと思いました。実際はいろいろな問題もありますし、一筋縄ではいきません。
でも、このようなコア技術は、ある部分はエレクトロニクスへの応用が利きますし、ある部分ではポーラスな薄膜ができますので、高表面積材料になり、化学工業とか、メンブレンフィルタとか、生体制御、バイオセンサーに応用できます。したがって、緻密な構造か、ポーラスな構造かで、同じ材料を使っていても、全く違ったアプリケーションが可能になります。つまり、材料をいろいろ変えなくても、バラエティーに富んだ薄膜の形成が可能になります。そういう技術を、どんどん製品に結びつく形で、いろいろな企業と一緒にやっていければと思い、会社をスタートしました。

『新産業政策研究かわさき 新産業政策研究所研究年報』第2号(発行:財団法人 川崎市産業振興財団 新産業政策研究所)より転載。全文はこちらから(PDF,140KB)ダウンロードしてご覧ください)

白鳥世明
慶應義塾大学理工学部助教授、(株)SNT代表取締役
1987年早稲田大学理工学部卒、1992年東京工業大学大学院博士課程修了。94年慶應義塾大学理工学部助手、2000年同助教授。1997~98年マサチューセッツ工科大学物質科学工学科客員研究員。2002年3月(有)白鳥ナノテクノロジー(現(株)SNT))設立。

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