ピックアップレポート
2026年04月14日
中原 淳『学びをやめない生き方入門』
はじめに--なぜ、学ひたいのに学べないのか?
「日本人が必死に学ぶのは、せいぜい大学受験まで……」
「社会人として働き出すと、まともに勉強しなくなる……」
「この国は『学んでいない大人』があまりにも多すぎる……」
こんな話を耳にしたことがあります。
はたして本当でしょうか?
ただの都市伝説なのでは……?
しかし、客観的なデータを確認してみると、残念ながらこうした議論は「単なるデタラメ」というわけでもなさそうです。
働く日本人の5割が「学び」をサボっている?
次ページに掲載したのは、世界各国の主要都市で働く人たちにおける「勤務先以外での学習や自己啓発」についてのリサーチ結果です。※01
「自分の学びのために、職場の外でなにかやっていますか?」という質問項目に対して、「『学び……? とくになにもやってないですね……』と回答した人」の割合を、国別で比較してみました [図表0-1]。
結果は一目瞭然──。
「学びをなにも行っていない」と答えた人の割合は、対象となった18カ国のなかで、日本が「ダントツの1位」でした(52.6%)。
つまり日本では、「働く大人の半数以上」が「学びゼロ」の状態にあるということになりそうです。
もちろん、学びといっても、ビジネススクールに通うなどの重厚なものから、もっと気軽に参加できるものまで、中身はさまざまです。
この調査では「読書」や「勉強会への参加」など、比較的ライトな学びの機会も含めて「学んでいる」と回答していいことになっていました。
それにもかかわらず、日本だけがこのありさま……。
インド、ベトナム、フィリピン、インドネシア、マレーシアなど、ほかのアジア諸国の数値が1ケタ台に収まっているのと比較すると、日本の異常さがいっそう際立ちます。
次に、同じ調査で「いまはなにも学んでいないし、今後も学ぶつもりはない」と答えた人(いわば〝学びの超・無関心層〟)の割合にも注目してみましょう[図表0-2]。
すると、やはり日本だけが突出して高い……(学びの超・無関心層は、なんと42.0%!)。
つまり、全体の半数近くの人が「今後も学ぶ予定がない」と答えているのです。
さらに悲劇的なデータもあります。
別の調査によれば、この国の「学んでいる大人」の割合は、年々、減り続けてもいるようなのです。
次ページのグラフをご覧ください [図表0-3]。
2024時点での「いくつになっても学びたいものがある」という人の割合は、1990年代後半の3分の2程度にまで減っています。
また、「知識・教養を高めるための読書をよくしている」という人に至っては、ほぼ2分の1にまで激減しています。
こうしたデータを見ると、やはり「日本の大人は、世界的に見てもかなり学んでいない」というのは間違いなさそうに思えます。
それどころか、働く大人の〝学び離れ=学びからの逃避〟が加速しているとすら言っていいかもしれません。
なさん自身の実感に照らしてみて、こうしたデータはどう映るでしょうか?
「まあ、そうだろうな……」と思いますか?
それとも、「いや、そんなはずはない!」と思いますか?
「学べ学べ」の大合唱にウンザリしているあなたへ
私・中原淳は、「働く大人の学びを科学する」を合言葉に、四半世紀にわたって探究を続けてきた研究者です。
さまざまな企業・非営利組織・自治体とともに、「ひとづくり(人材開発)」や「組織づくり(組織開発)」について研究し、実践してきました。
そうした立場からすると、これらの調査結果には忸怩たる思いを持たざるを得ません。
そもそも、なぜ日本の大人は「世界でいちばん学んでいない」のでしょう?
よくある典型的な答えは、「忙しくて学ぶ時間がないから」です。
しかし、これは本当なのでしょうか?
ほかの国のビジネスパーソンだって、忙しいのは同じはずです。
私は海外でも研究を行った経験がありますが、「あー、ヒマでヒマで仕方がないですよ」というビジネスパーソンには一度も出会ったことがありません。
実際のところ、経済成長の著しいアジアの新興国にせよ、欧米諸国にせよ、日本人よりも長時間のハードワークに取り組んでいる人がたくさんいます。
先日もアメリカの学会に参加してきましたが、「オーバーワーク」がアメリカの労働者の課題であるとの問題提起がなされていました。
ヒマな人など、そうそう存在しないのです。
それでも彼らは、自分の学びのためにコストを割いている──。
だとすると、「日本人が学んでいない理由」を「忙しさ」だけで説明するわけにはいかないように思います。
とはいえ、読者のみなさん、決して勘違いしないでください。
本書の目的は、みなさんに「お説教」を繰り広げることではありません。
「そうだ、そうだ! 日本人はもっと学ぶべきだ!!」
そんなふうに騒ぎ立てるつもりで、この本を書いているわけではないのです。
世の中では、「リスキリング」「生涯学習」「リカレント教育」「アンラーニング」「AI人材養成」……などなど、「大人の学びの必要性」が叫ばれています。
少子高齢化やそれに伴う人手不足を背景として、国もこの流れをあと押ししています。
また、「人的資本経営」などという旗印のもと、研修やオンライン学習などに力を入れる企業も増えています。
さらには、世の中の不透明性、新興国のエリート層の台頭、生成AIの登場などを背景として、「これからの時代、学ばない人材は淘汰される。もう生き残れない……」といった脅し文句もあちこちに見られるようになりました。
しかし本書は、そんなトレンドに乗っかって「お説教」をかますつもりはありません。
暑苦しい叱咤激励と脅し文句を浴びたい方は、ぜひ「ほかの書籍」をあたっていただければと思います。
むしろこの本は、世の中に響きわたる「学ばないと、もう生き残れない!」の大合唱にちょっとウンザリしている人たちのために書かれました。
「『大人もちゃんと学んだほうがいい』なんてことはわかっている。
でも、『学ばないと、生き残れない!』という脅し文句で、
『学び』を押しつけるような世の風潮にはちょっと疲れたな……」
そんな「モヤモヤ」こそが、本書のスタート地点なのです。
本書では「学び」は押しつけません。
むしろ、「えっ……! こんなものも『学び』と呼んじゃっていいの!?」というくらいまで、「学びのハードル」をグッと下げていきます。
そんな「『学びの旅』への指南書」を目指して、この本は書かれました。
読み終えるころには、みなさんも「学びのハードル」がもっと低く感じられるようになり、「さあ、どこから動き出そうかな……!」とワクワクしているはずです。
この本は3つの章から構成されています。
第1章は、「学びやすい自分」をつくるための下準備となるパートです。
ここでは、「学びのOS」のうち、「学びとはどのようなものか?」という〝ものの見方〟にスポットを当てます。
働く環境や学校教育の影響によって、私たちのなかには知らず知らずのうちに、学びに対する「7つのバイアス(偏り)」が生まれてしまっています。
この章では、この7つのバイアスを明らかにし、凝り固まったものの見方を解きほぐしていきます。
また、自分自身のバイアスに気づけるよう、「セルフチェックテスト」も用意しました。
第2章では、理想的な学びを継続している人たちに見られる「5つの行動」を見ていきます。
たとえ「学びのバイアス」を解きほぐせても、それだけで私たちが重い腰を上げて、いきなり学びに取り組めるように変わるわけではありません。
ここで注目したいのは、「学びのOS」のうちの後半部分、すなわち「実際にどのように学べばいいのか?」という〝学びの方法〟です。
科学的なデータ分析をもとにしながら、「望ましい学びを続けられている人は、どんなふうに学んでいるのか?」を押さえていきます。
第3章では、前章で確認した「5つの行動」からさらにハードルを下げて、明日から「具体的な一歩」を踏み出すためのヒントについて解説していきます。
「学びをやめない生き方」を実現するうえで重要なのは、「努力」や「気合い」ではなく、日々のなかに織り込まれた学びを取り出すための「技術」です。
とはいえ、なにか大げさなことをする必要はありません。
ひとさじの工夫さえあれば、日常のなかの「学び」を発見するには十分だからです。
リサーチで明らかになった「3つの経験」をカギにすることで、多くの人は「すでに学んでいる自分」に気づくことになるはずです。
また、各章の末尾には、「望ましい学び」を続けている人たちの「ストーリー」を掲載しました(それぞれのプロフィールその他は、インタビュー当時のもの)。
本論で語られたエッセンスが、現実のなかでどう作用しているのかを確認いただき、ご自身の学びを駆動させるエネルギーにしていただければと思います。
本書が「学びをやめない生き方」への道標となることを願っています。
『学びをやめない生き方入門』(フォレスト出版2025年8月)の「はじめに」を中原先生と出版社の許可を得て抜粋・編集しました。無断転載を禁じます。

中原 淳 (なかはら・じゅん)
立教大学経営学部教授
博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等を経て2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。
立教大学経営学部においては、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、リーダーシップ研究所副所長を歴任。研究の詳細はBlog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)
担当プログラム
ラーニングイノベーション論
組織開発論ーその理論と実践ー ゲスト講師
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