HOMEへ戻るMCCマガジンPresent Tree in 南八ヶ岳 <ヤマガラの森> ―森の活動で質の高い人材を育てよう―

Present Tree in 南八ヶ岳 <ヤマガラの森> ―森の活動で質の高い人材を育てよう―

2007年03月13日

渡辺パコ 環境リレーションズ研究所監事/コンサルタント/有限会社水族館文庫代表

ビジネススピードが速くなり、短期で結果を出すことがビジネスパースンに求められる傾向が、どんどん強まっています。そんな中、「長期的な展望をもって、仕事に取り組む人材」の価値は、それ故に、以前にも増して、求められる状況になってきました。短期目標へのコミットと、中長期的な展望を併せ持つことが、重要だといえます。


では長期的な展望はどうやって持てるようになるのでしょうか? その答えのひとつが、今僕が進めているプロジェクト「Present Tree in 南八ヶ岳<ヤマガラの森>」です。ビジネスパースンの方に、八ヶ岳の森の植林活動に参加してもらうと、次第に長期的な視野を持てるようになる、というねらいを持ったプロジェクトなのですが、エッ?どうして? と思われることでしょう。実際、このプロジェクトは、どちらかというと企業にとっては環境経営や CSRのソリューションになるものです。でも、単に「社会的責任を果たす」というねらいだけではなく、「質の高い人材の育成に、大きな意味」を持たせるために、企画されています。つまり、ひとつの施策で、複数の効果がねらえる、という提案です。
Think Globally, Act Locally
僕が環境問題に本格的に取り組み初めたのが2000年。僕自身のミレニアムプロジェクトでした。それ以前から環境問題をテーマにしたMLをつくるなど、いろいろチャレンジはしていたのですが、自分の仕事のなかに位置づけたのがミレニアムのころから。
それから7年たち、いろいろチャレンジしたり、知識を深めるにつれて、考え方が少しずつ変わってきました。
最初の5年ぐらいは、企業の経営を環境に適応させることを考えてきました。そしてそれはある程度可能だという感触はつかめました。実際、トヨタやリコー、星野リゾート、他さまざまな日本企業が、経営に環境を組み込み、それをテコに使いならが経営を成功させてきたのですから、環境経営という方法論は十分以上に実質的な価値があることは確認できました。僕にとっては、企業を環境適応させるというアプローチが「正しい」ことが確認できたのは、研究の成果として満足のいくものでした。
そこで、企業の環境経営をコンサルティングか人材育成の面から支援することを自分の仕事にしていこうかと考えたのが、2~3年前です。環境報告書の制作の現場に入ってアドバイザとして関わり、なにをすべきかを提言したり、実際にそれにそった制作を行ったりする仕事をしてきました。また研修面でも、日本たばこ産業でマネジャー向けの研修を行うなど、いくつかの仕事もして、一定の成果を上げられたと思っています。
この仕事は、それ自体よかったのですが、問題もありました。まず、僕がめざすようなアプローチは、どの企業でも受け入れられるというものではなく、むしろ限られた企業でしか好まれないもののようでした。そもそもこういうタイプの研修を営業できる研修会社も限られ、僕自身がやりたいと思っても、コンスタントにやることは難しいことがわかってきました。
もうひとつは企業にアプローチした場合の効果です。企業の環境経営はまだ成熟度が低く、一定のメソッドに沿って深めるべきだという基本的な考え方ができあがっていません。そのため、ある企業では毎回研修の方法を変え、別の講師が別のカリキュラムで実施する研修、というランダムな行動を続けたり、担当マネジャーが交代するとまったく違う方法論を実践することが目的になり、それ以前のマネジャーのやり方の善し悪しを検討することより、新任者の独自性を出すことの方が目的になっているかのような場合もありました。
さらにこのような研修を続けることで企業がはっきり、環境経営に向けて方向転換できるという実感も、こちらが持てないようなところもありました。これはおつきあいした企業が少なく、継続性もなかったので、よけいにそうなのだと思いますが、しかし、「この方法で環境は本当に良くなるのか?」という思いがいつもある感じだったのは事実です。
グロービスの受講生など、ビジネスの最前線にいる人に研修や勉強の機会を提供する試みも続けましたが、盛り上がったとはいえない状況で、このアプローチに未来があるのかというと、ちょっと違うと感じていました。
そんな中で、興味深い方向がふたつ出てきました。ひとつは、里山という日本独特の環境を題材にするおもしろさと、ふたつ目は東京のような大都市の企業より、地方都市や農村部に活動場所を求めた方がいいのではないかという思いです。
里山については、これまでもいろいろ書いてきたので、そちらも参照してもらいたいのですが、
http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/eco_society/070111_sonomama1/
http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/eco_society/070118_sonomama2/
http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/eco_society/070125_sonomama3/
http://www.chieichiba.net/2nd/weekly/072bonchikankaku.htm
http://www.chieichiba.net/2nd/weekly/080workshop1.htm
http://www.chieichiba.net/2nd/weekly/084workshop2.htm
特に、上記の日経BPサイトでの反響を見ていて感じたのは、現代人の「自然」に対する認識のズレ、というか喪失です。
以前から、「現代人は自然に手を触れること自体をよくないことと考える」という指摘はあり、それ自体納得がいく指摘だったのですが、最近、この点がとても気になりだし、放置できない問題ではないかと思い始めました。自然に対する理解が不足すれば、そもそも自然とともに人間が生きていくという考え方自体がずれていき、最終的には崩壊してしまう可能性があります。
大きな話で言えば、自然を守り、自然と共に生きていくという環境問題の本質は、自然をどうやって自然のままにしておくかということではなく(そういう要素も一部分ありますが)、自然を人間の都合のいいように改造しながら、それによって自然を豊かにして、その豊かな恵みの一部を受け取って人間が生きていくということを意味しています。
人間は自然環境の一部であるということは、言葉としてはみなわかっているはずですが、その本質的に意味するところが誤解されつつあるという感じですね。
人間が自然をいじったり、都合のいいように自然を変えたり、自然に働きかけながら生活するということ自体が、「環境に悪いこと」「人間の傲慢」ととらえている人がとても多くなっていると言うことに、最近僕は愕然としてしまっていて、これは単に「環境保護」という意味で問題ということではなく、人間のあり方そのものに関わる問題として考える必要があるのではないかと思えてきました。
里山という環境は、人と自然が一体になって、というより、人間が自然を都合のいいように変えながら、しかも自然も豊かになってきたという、自然と人間のかかわりがもっともよく見えている場所です。田畑や林業の森ほど人間の活動が優位ではなく、原生林や深海ほど自然が優位ではない、ちょうどバランスがとれている場所が、里山です。だからこそ、人間と自然のどちらがどのように役割を果たせばいいのか、相互の会話が成り立つ場所であり、かかわり方によって自然が豊かになり、人も豊かになり、共生することができる場所として、とても貴重です。
里山に人が係わる機会をつくることは、こういった自然と人間のかかわり方を再発見(というよりは、その人にとっては、新しく発見)する機会をつくることであり、この発見ができた人は、自然と人の付き合い方について、適切な理解を持つことができると考えるようになりました。
経営を環境適応させたいと考える経営者やビジネスパースンは確実に増える傾向にありますが、「適応」とはなんなのか、そのイメージや具体的な方向性が見えていないのが現状です。だからこそ、経営者が代わったり、マネジャーが代わったりするたびにコロコロ方針が変わってしまうことも起こるし、目に見えやすい「環境マネジメントシステム」や抽象的に過ぎる「社会的責任」という言葉でお茶を濁すことが増えてしまうのでしょう。
里山に関わる人が増えることは、単に自然に親しむ人が増えると言うことではなく、自然と人とのかかわりについて、深い理解を持つ人が増えると言うことを意味していて、そういう意味で、数ある環境についての活動の中で今一番意味が大きなものだというのが、今僕が持っている結論なのです。
今回、六兼屋(自宅)のすぐ裏山を「Present Tree in 南八ヶ岳 “ヤマガラの森”」として整備することにしました。これは、単に山の保全という意味ではなく、むしろ「人の保全」の意味のほうが大きいのかもしれない、と僕自身考えているというわけです。
環境経営というフレームで考えているときには今ひとつ抽象的だった僕の活動ですが、里山という場を設定することで、具体的になり、何をめざすのかも明確になってきました。「Think Globally, Act Locally」という言葉は、昔から環境問題の行動指針として語られてきた言葉ですが、僕の場合はこれまで「Think Globally」「Think Logically」のほうを中心にやってきて、今、「Act Locally」のフィールドをつくろうとしているというフェーズなのだと思います。
ということで、「Present Tree in 南八ヶ岳 “ヤマガラの森”」という活動は、参加する、あるいは支援をする皆さん自身にとって、大きな学びのある場になると思います。まずは最初の関わりを持ってみてください。それだけで森が近くなり、森ってどういうところなんだろう?と考えることから、自然と人との本来のかかわり方を見つける第一歩を踏み出すことになるのです。
森で長い時間の意味を知る
今、この森についての活動に、自分の時間をなるべく割こうと思っていて、東京にいて、少しでも多くの人に会って、この話をしています。活動に興味がある方は、遠慮なくメールをいただきたいと思います。
自然とのかかわり方を知る場として森の貴重さについて、お話ししました。ここでは、その延長で、森と関わることで、どんなことを知ることができるのか、という点を「時間」という観点から考えてみます。
僕が木ときちんと関わるようになったのは、2001年の年初、六兼屋ができてからなので、ちょうど7年になります。森の時計から見れば、たいした時間ではありません。多くの人が、森と関わるというと、100年1000年の活動と思っています。僕自身もそう思っていました。しかし、実際に木を植えてみると、植物の変化は思っている以上に速く、たった7年でも十分に変化を実感できることがわかってきました。その気づきが、今回の「ヤマガラの森」の活動を決断させたということができます。
7年前のいまごろ、僕はできたばかりの六兼屋の、何にもない庭に木を植え始めました。今年と違ってけっこう冷え込んだ冬で、3月になってようやく雪が融け、木を植えることができました。左の写真は2001年の3月、同じ木の2006年秋の写真が右。この木は裏の雑木林から掘り起こしてきたもので、ひょろひょろと背丈ばかり伸びて、幹はまだ直径が10円玉ぐらいの太さしかありませんでした。山桜です。7年近くたって、今の状態を見ると、太さは根元で 15cmぐらい、高さは5メートルぐらいになったでしょうか。最初は葉の付き具合もしょぼしょぼしていたのが、今ではこんもり茂らせ、伸びた枝が絡んで込み入ってしまうので、毎年春に枝を少し落として、成長しやすくしています。
もうひとつ紹介する木は、ケヤキです。こちらは買った木で、2001年のゴールデンウィークに5メートルぐらいの高さに育った木を買って植えました。庭のシンボルツリーにしたかったので、植えたときからある程度の高さのものがほしかったからです。結果的には、こんな大きさの苗を買う必要はなかったのですが、それについては後述。6年前、根元で直径10センチぐらいだったのですが、今では20センチを越えている感じです。高さがそれほど大きくなってなくて、7~8メートルかな。今では子どもの木登りができそうなしっかりした木になり、見た目も安定感があります。枝を広げた投影面積は直径10メートルはあるでしょうか。庭の真ん中でたっぷり日を浴びて育っています。
実はこの木は、植えた年にたくさんのカイガラムシにやられてしまい、秋に半分ぐらいの高さに枝を切ってしまったのです。どうなることかと思ったら、翌年にはたっぷり枝が出て、今見えている上部の枝はみなこのときに伸びたものです。木は、枝を払う(剪定)することで伸びる性質があり、放置するより、ある程度積極的に枝を切ったほうが、新しい若々しい枝と葉が出てくるのです。実際、ざっくり切ってしまった年の初夏に出てきた葉は、大きな葉で、今付いている葉の 2倍はありました。大きく育ってしまってから植え付けると、土がかなりよくないと、どうしても上まで養分があがらなくなり、弱って虫などにやられやすくなることを、このとき学びました。結局小さな苗木を植えたほうが、成長力があって、同じ期間で大きく伸びるのです。
「ヤマガラの森」に来てもらうビジネスパースンの皆さんには、こういうことも実感値として理解してもらえると思っています。「鉄は熱いうちに打て」とか「若いほうが伸びる」という言葉は知っていても、実際に「5年前にこんなに弱々しかった苗木が、こんなにしっかりするのだ」ということを自分の目で見て体験することは、大きな意味があります。今立派に見える先輩社員も新人の時はまったく印象の異なるひ弱な人だったかもしれないし、今はとても「使えない」感じの新人も、5年、しっかり延ばせば、ものすごい戦力になる可能性があるということも実感できます。
僕はライフデザイン・ダイアローグでいろいろな若い人と話します。中には大学生もいて、ちょっと頼りなさそうな、話もうまくできない感じの人もいるのですが、そんな彼らを見ながら、「この人も苗木なのだ」と思うと、数年先の発展の可能性がかなり実感をもって見えてくるのです。
森と関わっていくと、植物以外の生き物とも関わることができます。その代表例が、昆虫と鳥たちでしょう。カブトムシやクワガタムシは、木の樹液がだいすきで、クヌギやコナラなど、雑木林の代表的な木に集まってきます。ちょっと生き物に詳しい人なら、雑木林に行くとクワガタやカブトがいるという知識を持っているわけですが、でも、雑木林だからといってクワガタやカブトがいるとは限らないのです。
六兼屋ができたころ、夏になるとカブトムシを探したのですが、まったく見つかりませんでした。おかしいなと思って調べたところ、「オチバンク」がないと、虫の幼虫が育たないことがわかったのです。そこで秋に落ち葉を集めてオチバンクをつくってみたら、翌年にはまるまると太った幼虫がたくさん入っていました。こうしてオチバンクをつくってからは、徐々にクワガタやカブトムシが増え、夏の夜になると窓の明かりをめざして飛んで来るので、家にお招きして記念撮影をして、また森に帰ってもらうようにしてきました。「ヤマガラの森」でもオチバンクをつくって、虫たちを増やそうと思っています。
実はオチバンクは、かつては農家の人たちが落ち葉のたい肥をつくるために集めた場所でした。たい肥をつくって利用する場所に、カブトやクワガタが育った。だから日本の里山には、こんなにも昆虫の影が濃いのです。人が、オチバンクをつくって森を利用しなかったら、昆虫はもっとずっと少なかったでしょう。そして人がもし、オチバンクの中の幼虫を見つけ次第殺してしまったら、やはり昆虫たちは増えなかったのです。日本人は輪廻転生の思想を仏教から受け継いだのですが、インド生まれのこの思想が日本に定着したのは、生き物の循環を感覚的に知っていたからわかりやすかったのだと思います。農業に邪魔にならない限り、強制する生き物を排除することなく、共に生きてきたのが日本人でした。そしてそうやって増えた昆虫を目当てに、たくさんの鳥たちも集まってきました。六兼屋の庭に植物が増えるに従って、カエルやヤモリが増えていきました。これらは、小さなガなど、羽虫を食べていますが、一方で肉食の鳥たち、たとえばモズのエサになります。六兼屋にも、スズメやシジュウカラ、ヤマガラはじめ、たくさんの鳥たちがやってきますが、これも庭の植物や昆虫が豊かになるにつれて増えてきたのです(最初は鳥の影もありませんでした)。
数年をかけて、少しつつ変化していく自然を見ていると、日々の人間の活動が、自然に大きく影響を与えているのがわかります。そして人間の活動が加わるほうが、自然のままより、自然を豊かにすることにも、実感を伴って気づくのです。
そしてもうひとつ重要なことは、何かを変えていくためには、急がず、長い目でじっくりものごとを動かす必要がある一方で、その変化は、気の遠くなるような時間ではなく、半年、1年、5年という期間でみると大きな変化になっているという、中長期の視点が持てるようになるという点です。
今、ビジネスの世界はどんどん単位が短時間になり、四半期ごとの収益計画を追いかけて必死になっています。それ自体やむを得ない面もあるのですが、同時に、中長期の変化を見通すことの重要性も、どんどん増しています。日常の速い流れと、数年単位の大きな時間の流れ。両方をズームレンズのように自在に行き来できる力が、先を見通すためには重要なのですが、森と定期的に関わることで、こういうものの見方ができるようなるといえます。僕自身、「先見力強化ノート」という本を書いているのですが、この本を書けたのも、実は自然と付き合ってきたことが大きな支えになっているのです。
もちろん、自然と付き合って長期的な視点を持てたからと言って、未来が確実に見通せるようになるとは限りません。それは当然のことです。しかし、未来を見通す力は確実に付くし、それ以上に、予想と違う未来がやってきてもうろたえずにすむようにはなります。これは間違いなく言えます。
もしあなたが、経営者や、経営的な仕事をめざすなら、こういう長期的な視点を持てるかどうかは、非常に重要な意味を持ちます。ビジネスパーソンを森に関わるきっかけを用意することは、優れた経営幹部候補を育てる、遠いようで近道だと僕は思っているし、「ヤマガラの森」をそういう「人を育てる場」として活用したいと考えています。
「ヤマガラの森」に興味を持っていただけた方は、ぜひこちら(http://pacolog.cocolog-nifty.com/yamamori/)をご覧ください。また、単に「里山保全に参加してみたい」という方にも、楽しんでもらえるプロジェクトになっています。

「ヤマガラの森」Webサイト http://pacolog.cocolog-nifty.com/yamamori/ より、著者の承認の上、編集転載

渡辺パコ(わたなべ ぱこ)
グロービスマネジメントスクール講師、亜細亜大学経営学部非常勤講師
1960年東京生まれ。都立西高卒。学習院大学哲学科卒。コピーライターとして広告、会社案内の制作、 PR戦略の企画立案などを担当。88年に独立して100社以上にコーポレートコミュニケーションプランを提供する。98年からコンサルティング業務を開始。
主な領域は、環境戦略、ベンチャービジネスのスタートアップ、ナレッジマネジメント、コーポレイトコミュニケーションなど。 97年より、インターネット上に、ビジネスパースン向けの総合情報メディア&コミュニティ「知恵市場」(有料)を主宰。
「論理力を鍛えるトレーニングブック」他、著書多数。
e-mail:paco@suizockanbunko.com  Web:http://suizockanbunko.com/

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