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会議変革のクリティカル・ポイント

2009年12月08日

桑畑幸博 慶應MCCシニアコンサルタント

1. 組織的な取り組み

習慣化した会議を見直そう
ファシリテーション・スキルを有効活用した会議変革のポイントを、組織と個人、両面からの取り組みについて提案したいと思います。
まずは組織的取り組みから考えていきたいと思いますが、やはり真っ先にやるべきなのが、既存の会議を見直すこと、特に“習慣化した会議”の存在意義を、今一度議論することでしょう。
定例化した会議では、会議の代替手段の検討や、人件費試算による原価意識の向上等、こうした単純かつ正当な検討すらしばしば否定されます。定例的な会議は、なかば儀式化し「開催することが目的」になってしまっているため、それを見直すことに対して抵抗が強いのです。
しかしだからこそ、こうした定例化・習慣化した会議を見直すことは、単に人件費の効率化や会議の生産性向上のみならず、組織風土の変革に直接的に寄与するのです。
見直しといっても、別にすべての習慣化した会議をやめろと言ってるわけではありません。週一を月一にすることで、生産性が上がる会議もあるでしょうし、目的をもう一度明確にした後、その目的を達成するための新しい会議の進め方を考えても良いはずです。
重要なのは『聖域を設けない』ことです。「やるのが当たり前」と考える前に、まずは全ての習慣化した会議を洗い出し、ひとつひとつの目的と現状を対比させながら、その存在意義をいっさいの固定観念を取り払って議論してみることをお薦めします。


会議のルールを決めよう
組織として会議変革に着手する際、その方向性は大きく2つあります。ひとつが地道な啓蒙や教育によるもの、ファシリテーターの計画的育成などがそれに当たります。そしてもうひとつが、会議に関するルールを決めて、強制的に変えてしまうというやり方です。
このふたつ、どちらが正しいかという議論は不毛です。会議を行う「ヒト」のレベルアップと、ルールによる正しい会議のやり方の浸透は、車の両輪としてどちらも重要であり、特に即効性の高い『会議のルール』は、もっと多くの組織で検討されるべきでしょう。
さて、組織で制定するルールとして考えられるものは様々です。「出席者は1部署2名まで」 「会議時間は90分」 「会議資料はA4で1枚」「参加者は必ず意見を言う」等々、リソース/プロセスデザインのポイントを押さえていけば、いくつでも洗い出せます。
しかし、ルールが多すぎても窮屈ですし、覚えていられません。また、他社の真似をしてもうまくいかないでしょう。ルールは組織によって向き不向きがあり、何でもいいというものではないのです。
そもそも会議は組織活動の手段であって、会議変革自体は最終目的にはなり得ません。よって、まずは組織としての課題を明確にすべきです。「おとなしい企業風土の変革」「仕事の効率化」「人材育成」など、様々な組織固有の課題があるはずです。
そうしたら、その課題を実現するための会議の役割を考え、次にその役割(会議のあるべき姿)と会議の現状を比較すれば、会議の問題点が明確になります。後は、「その問題を解決するにはどのようなルールがあり、その中のどれが現実的かつ効果が高いか」と考えていけば、おのずとあなたの組織に合った『会議のルール』が見つかるはずです。
会議の反省会を開こう
本来は組織的・計画的な反省会が理想的です。なぜならば、我々はどうしても自分自身のことは客観的に評価できないからです。
自分としてはうまくやれたつもりでも、参加者の立場から見るとファシリテーターに誘導されたように感じていたり、意見の採用に不公平感を持っていたりすることは、しばしば起こり得ます。その反対に、ほとんどファシリテーションできなかったと思っていても、参加者はあなたの進め方に大変満足している場合もあります。
ですから、他者の目で客観的に評価してもらい、フィードバックをもらうことが重要なのです。確かに、誰かに評価されながらファシリテーターを務めるのは大変なプレッシャーですし、厳しい指摘を受ければ落ち込むこともあるでしょう。
しかしこのフィードバックで自分の短所と長所に気づけば、それはすなわちファシリテーターとしての、克服すべき点と伸ばすべき点が課題として見えてきたことに他なりません。ひとりで試行錯誤するより効率が良いのは明らかです。またこのプロセスを通して、組織の会議そのものの問題点や課題も見えてくるはずです。
会議終了直後に毎回というわけにはいかないと思いますが、『リソース/プロセスデザイン』『発散と収束』『問題への対処』『ファシリテーション・グラフィック』などのチェックポイントを定め、定期的に会議を部/課内で振り返ってみてはどうでしょう。
“会議を振り返る会議”は無駄と感じるかもしれません。しかしこれによって会議の効果と効率が高まり、ファシリテーターの育成にも繋がれば、組織における意義は大きいはずです。
若手にヴィジュアライザーをやらせよう
「仕事を覚えさせる」手段として、若手に議事録を書かせている組織は多いでしょう。確かに組織内外の現状を把握し、先輩達の仕事のやり方を学び、そしてビジネス文書の書き方を練習するためにも、会議に参加し、議事録を書くのは有効な手段です。
しかしながら、これまで解説してきたように、議事録は会議の質とファシリテーション・スキルを高めるための、非常に重要なツールですから、本来はファシリテーターが書くのが望ましいのです。
そこでひとつ提案したいのが、『若手には議事録でなく、ホワイトボードを書かせる』ということです。
会議机の端で、議事録のためのメモを録るのも簡単なことではありませんが、悪い言い方をすれば適当にこなすことも可能です。しかしヴィジュアライザーとして、議論の中身を理解・整理することで会議を支援するプロセスには、より高いスキルと集中力が求められます。つまりヴィジュアライザーを務めることは、論理的思考・コミュニケーション力、そして精神力という、ビジネスパーソン必須の基礎能力を、実戦の場でトレーニングすることになるのです。また、会議に貢献することで、達成感ややりがいを早めに経験することは、若手のモチベーション向上にも繋がります。
もちろん新入社員にいきなり、というのは難しいと思いますが、何度か会議に同席させた後、部内会議など他部門に迷惑のかからない環境で、ヴィジュアライザーを任せることはできるはずです。
最初は論旨が把握できずにオロオロしたり、適切な図解が描けなかったりするでしょうが、それは先輩ファシリテーターであるあなたがフォローすれば問題ないはずです。次代のファシリテーター育成の第1ステップとして、検討してみてはいかがでしょうか。

2. 個人の取り組み

自分の周囲を巻き込もう
会議のルール策定に代表される組織的取り組みは、会議変革への効果は大きいものの、トップダウンで検討を開始することが必要であり、特に大企業で提案を出して承認をもらうためには、多大な時間と労力が必要です。
この論理展開から、「結局上の意識が変わらなければスキルを身につけても無駄」と考える方も多いでしょう。現に私が講師を務めるファシリテーション研修でも、「良いスキルを学んだが、周りからの抵抗でスキルを使う場面がない」「まずは部長クラスが参加すべき研修だ」というアンケートのコメントをしばしば目にします。
しかしこの考え方は、申し訳ないですが”逃げ”の発想と言わざるを得ません。確かに周囲の理解やトップダウンによる仕掛けは、即効性の高い会議変革の手段ですが、私は「最初はひとりの取り組みからスタートしても、徐々に周囲を巻き込んでいけば、組織全体の会議変革は可能」だと考えます。
その理由は、レベルの低い会議があまりにも多いため、ファシリテーションの効果をはっきりと、それも何回も示すことができるからです。また、会議は部門横断で行われるものも多いため、自部門に留まらず、横(他部門)にも広がりやすいと言えます。
つまりひとりの力でも、ファシリテーションとそれを活用した会議変革の重要性を、組織全体に浸透させることは可能なのです。実際に私のファシリテーション・セミナーの参加者で、様々な会議でファシリテーターを務めるうちに、当事者でない会議でもファシリテーターを頼まれるようになった方もいらっしゃいます。
次はあなたの番です。諦めずに、まずは自分が変わり、自分の周囲を巻き込みながら、会議を変えていきましょう。
自分に適したファシリテーター像をイメージしよう
あなたにとって”理想的なファシリテーター”とは、どのようなイメージですか? 人あたりも良く、穏やかで笑みを絶やさず、それでいながら頭も切れて、的確に切り口を提示しながら、議論を効率的に進めていく人でしょうか。確かに、このようなファシリテーターが理想かもしれません。しかしながら、あなたはこうした”理想的なファシリテーター”になれますか? 私にははっきり言って無理です。
ファシリテーターには様々なタイプがあり、どれが正解というわけではありません。人にはそれぞれ個性がありますから、その個性でファシリテーターとして武器になるものを活用し、自分しかなれないファシリテーターになれば良いのです。
そのためには、まず自分がどのようなタイプのファシリテーターに向いているのかを見極める必要があります。右の図は、「議論のプロセス・結論の論理性を重視」「参加者間のコミュニケーションとモチベーションを重視」という2軸で分類したマトリクスですが、基本的に《建築家》タイプか《触媒》タイプのどちらかが、あなたの目指すべきファシリテーター像になります。さて、あなたの個性を活かせるのはどちらのタイプでしょうか。
最終的に目指すべきは、やはり”論理と想い”を高いレベルで両立させた『プロデューサー』タイプですが、そこを性急に目指す前に、《建築家》や《触媒》を究めることを私は提案します。
自分の個性を最大限に活かすことは、人材としての差別化にも繋がります。弱みの克服も大切ですが、強みを活かす方が効果的・効率的であるのは明らかですし、これは戦略論でも定石です。
では、その強みの伸ばし方(弱みの克服のヒントでもあります)について、簡単にアドバイスさせていただきます。
基礎スキルを高めよう
《建築家》タイプと《触媒》タイプ、どちらを目指すにしても、一番のポイントは会議の場面に特化しない、『汎用的な基礎スキルを高める』ことです。いわばファシリテーターとしての基礎体力と考えれば、イメージしやすいでしょう。
《建築家》タイプを目指すあなたは、やはり論理的思考力です。書籍やセミナーを活用して、議論の整理に必要な様々な切り口の生み出し方を学びましょう。そして日常的に、ロジックツリーで分けて考えるような、「図解を描きながら考える癖」をつけると、論理思考を単なる知識でなく、スキルとして体得することができます。
また、経営戦略論やマーケティングの分野には、会議で汎用的に切り口として活用できるフレームワークが数多くあります。議論の切り口の品揃えを増やすために、また今後のキャリアを考えても、勉強をしておいて損はありません。
《触媒》タイプを目指すあなたは、たぶん人あたりも良く、基本的なコミュニケーション能力は高いはずです。よってあなたが強みを伸ばすために学ぶべきは、コミュニケーションの理論です。
「人がこういうリアクションをするのはこういう理由」「こういう時はその人はこういう心理状態」といった、心理学をベースとした様々な理論は、あなたがなぜコミュニケーション上手なのか、そして課題は何か、を明らかにしてくれます。そして今までそのキャラクターで議論を盛り上げていたあなたは、理論に裏打ちされた、さらなるコミュニケーション支援の達人になれるはずです。
その学び方としては、特にファシリテーションとは具体的テクニックも共通しているコーチングの分野と、コミュニケーションのプロの行動解析から生まれたNLPに触れてみることをお薦めします。
会議を『観察』しよう
当たり前のことですが、我々は会議にはその当事者として参加し、議題やその時の論点について真剣に考えなければいけません。
しかし時には当事者の立場から離れ、客観的に会議を『観察』してみてください。実はこの会議の観察こそ、あなたのファシリテーション・スキルの体得を促進するツールなのです。
会議の内容ではなく、会議の”場(参加者とその雰囲気)”と”流れ”、そしてそれを作っている”ファシリテーター”を、第三者の立場で客観的に見てみましょう。
「発散のフェーズは自由な雰囲気か? その時ファシリテーターはどのような工夫をしているか?」「論点は迷走していないか? ファシリテーターが手を抜いたり、誘導していないか?」
など、自分なりにテーマを持って観察すると、当事者として参加していた時には気づかなかったことが見えてきます。どうどう巡りになってしまうのが、ファシリテーターの準備不足が原因であることがわかるかもしれません。また、ファシリテーターが適宜『翻訳』していることで、論点が明確でスムーズに議論が進むという実例に出会うかもしれません。
こうした発見で、「ああそうか」と感じた時が、頭で覚えた知識が”腑に落ちた”瞬間です。そして自身でも実践し、繰り返すことでスキルが真に身につきます。我々は通常こうした「観察してみよう」という見方をしていなかっただけで、誰でも意識して観察すれば、様々な発見があるはずです。
ただし、本来は当事者としてその会議に貢献することが、最優先なのは言うまでもありません。自分の役割と状況をわきまえながらの観察を心がけましょう。
会議が変われば組織が変わる
私は本心から、『会議が変われば組織が変わる』と考えています。
組織変革とは、制度やシステムという目に見える部分とともに、風土や文化という目に見えない部分も変えることで実現します。目に見える部分を変えるのは、トップが決断さえしてくれればある意味簡単です。しかし目に見えない部分は長年を経て培われたものですから、なかなか変えることは困難です。会社や業種に、変えがたい固有の風土があることを、あなたも肌で感じているはずです。
こうした風土や文化の違いは、実は『習慣の違い』、具体的には『思考とコミュニケーションの習慣の違い』に起因します。リスクを取るのか避けるのか、下からの声に耳を傾けるのか塞ぐのか。これらはほんの一例ですが、組織の構成員は誰でも先輩達のこうした考え方とコミュニケーションの仕方を見て育ち、いつの間にか自分も習慣として身につけてしまうのです。
ですから、組織の悪しき文化(たとえば自由にものが言いにくい等)は、悪しき思考とコミュニケーションの習慣で培われたものであり、この文化を変えたければ、思考とコミュニケーションの習慣を変えるしかありません。実に困難な道のりに思えます。
しかしこれは、会議を変えることであっけなく実現します。なぜならば、会議は誰もが必ず何度も行い、多くの工数を費やし、そして思考とコミュニケーション両方の習慣が表に出る活動だからです。
まずは自分の悪しき習慣を変えて会議に臨みましょう。できればファシリテーターとして良き習慣を周囲に見せて、先に述べたように浸透させていってください。そうすれば波紋が広がるように、少しずつ多くの人々の習慣が変わり、その結果あなたの組織の悪しき文化は、徐々に影を潜めていくはずです。
 

桑畑幸博著『目に見える議論―会議ファシリテーションの教科書』の第5章より著者および出版社の許可を得て編集転載。無断転載を禁ずる。

桑畑幸博(くわはた・ゆきひろ)
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應MCCでプログラム企画や講師を務める。
また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。
主な著書に、『すごい結果を出す人の「巻き込む」技術 なぜ皆があの人に動かされてしまうのか?』(大和出版)『日本で一番使える会議ファシリテーションの本』(大和出版)『論理思考のレシピ』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

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