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川上 真史「のめり込む力」

2010年04月13日

川上 真史
ビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授、慶應MCC客員コンサルタント

 「何かをやっていて夢中になり、つい時間を忘れてしまった」―そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。こうした「のめり込み」は、そのことが楽しく、やりがいを感じられて、初めて生まれます。毎日の仕事もそんなふうにできたら、どんなに幸せでしょう。仕事が楽しければ努力や工夫も苦にならなくなり、結果として成果もあがるはずです。
 のめり込むように仕事ができてこそ、仕事もプライベートも充実し、幸せにもつながる。それこそが本来あるべき「正しい仕事」なのだと思います。職場で理不尽な会社や上司に悩まされ、「何か違う」と感じながら働いている状態は、とても正しい仕事のあり方とは言えません。

 仕事にのめり込める状態になるのは、そう容易なことではありませんが、しかし「仕事とはそういうものだ」と諦める必要はありません。あなた自身が「のめり込む力」を身につけていけばいいのです。それは七つのルールを押さえておくことで可能になります。

ルール1 仕事のやりがいは自分で見つけよう!

 仕事をしながら「何か違う」と感じるのは、会社の上司世代と若手・中堅世代の「働く動機」に大きなギャップが生じていることが一因になっています。日本の会社では長い間、「収入」や「地位」といった「外的報酬」が働く動機になっていました。ところが、生まれたときから豊かななかで育ってきた若手・中堅社員には、「収入」や「地位」はそれほど大きな動機にはなりません。それ以上に「やりがい」や「楽しさ」「充実感」など、より精神的な満足感である「内的報酬」を仕事に求めるようになっています。

 最近では、会社側がイベントなどを企画して社員を楽しませようとしていますが、これも「外的報酬」でしかありません。仕事に対する精神的な報酬は、会社に与えられるものではなく、自分自身で見つけるものなのです。

ルール2 「正当パワー」で仕事をしよう!

 人間が社会において発揮する力、いわゆるソーシャルパワーには次の五つがあります。報酬を与えることで人を動かす「報酬パワー」、相手に気に入られることで動いてもらおうとする「準拠パワー」、高い専門性や地位による権威を示すことで相手を動かそうとする「専門パワー」、相手を脅して動かそうとする「強制パワー」、そして、誰もが納得するような正当さによって相手を動かす「正当パワー」です。
 これまで、仕事のなかで多く使われてきたのは最初の四つのパワーでしたが、これらは今では通用しなくなっています。これからの仕事には、仕事そのものが正当なものであり、仕事のやり方も正当であることが求められます。「正当パワー」による「正しい仕事」だからこそ、仕事は楽しく、やりがいのあるものになり得るのです。

ルール3 ストレスは元から解決しよう!

  IT化や顧客の要求の高度化によって、若手・中堅社員の仕事の難易度は格段に上がりました。仕事から受けるストレスも以前の比ではありません。さらに「正当パワー」以外の力で仕事をさせようとする不当な上司の存在は、ストレスの最大の原因になっています。仕事をしていくうえで、ストレスはきわめて深刻な問題です。ところが現在行われているストレス対策は、ストレス反応を癒そうとすることばかりで、根本的な解決策ではありません。ストレスは、元になっている原因を取り除かないかぎり解消されないのです。

ルール4 仕事のプロセスに面白さを見出そう!

 仕事を楽しくするという場合、「自分の好きなこと」「楽しそうなテーマ」を基準に考えてしまいがちですが、現実には自分の好きなテーマを仕事にできることなどめったにありません。楽しくなくてもやらなければならないことが存在するのも事実です。「やりたいことができない」といって会社を転々としても、結局何も見つからずに終わるのがオチでしょう。テーマではなく、仕事の「プロセス」にやりがいを見出すことが大切です。そのためには「自分が生み出している成果を感じとる」「目標設定力を身につける」「仕事に笑いを組み込む」など、いくつかのコツがあります。

ルール5 シナジーを生み出そう!

 仕事に喜びを感じ、成果を生み出すためには、他の人と「シナジー(相乗効果)を生む」ことも大切な要素です。日本ではシナジーというとチームワークや協調性ばかりが強調されますが、「シナジーを生む」ことと「人に合わせる」ことはまったく違います。シナジーを生むためには「自尊感情の高さ」「事実ベースで自己イメージを持つ」「共感性を高める」ことなどが必要です。

ルール6 コミュニケーション力を鍛えよう!

 仕事のなかで他の人とシナジーを生んでいくために必須なのが、コミュニケーション力です。とりわけ企業がグローバル化し、ダイバーシティ(多様性)の時代を迎えている今、コミュニケーション能力がなければ仕事はできません。それは英会話力などとはまったく別物で、コンテクスト(文脈)ではなくコンテンツ(事実ベース)でコミュニケーションをとること、「好き嫌い」と「良い悪い」を切り分けて考えることなどが基本になります。

ルール7 仕事と生活のバランスを快適に保とう!

 難易度の高い仕事をストレスにつぶされずにこなしていくためには、仕事と生活のバランス、つまりワークライフバランスを快適な状態に保っておくことが必要です。勘違いされがちですが、ワークライフバランスとは「時短」ではありません。自分にとって快適な仕事と生活のバランスを見つけることです。いくらプライベートを優先しようと思っても、仕事が充実していなければプライベートも充実しないのです。

 仕事を楽しみながら成果をあげていくこと、自分がのめり込めるような仕事をしていくことは、ビジネスパーソン個々の幸福感につながりますし、結果的に会社にも活力と成果をもたらします。それが本来の「正しい仕事」のあり方です。
 「何か違う」とモヤモヤを感じながら働いている方たちが、日々の仕事に喜びと充実感を感じ、幸福な人生を送れるようになる。本書がその一助となれれば、私にとってこの上ない喜びです。

川上真史著『のめり込む力 ―楽しみながら仕事の成果をあげる7つのルール』の「はじめに」より著者の許可を得て転載。無断転載を禁ずる。

川上真史(かわかみ・しんじ)
川上真史

  • ビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授
  • 慶應MCC客員コンサルタント
  • 京都大学教育学部教育心理学科卒。産業能率大学総合研究所研究員、ヘイコンサルティンググループコンサルタントを経て、1997年4月より現職。2003年4月~2009年3月まで早稲田大学文学学術院心理学教室非常勤講師。
    コンピテンシー理論に基づくコンサルティング・人材アセスメントの実践などの活動や、講演、セミナーなどでも活躍中。ビジネスブレークスルー大学院大学専任教授、株式会社ヒューマネージ顧問を兼任。日経ビデオ、PHP通信教育での著作や、ビジネス・ブレークスルーチャンネル(CS)へのレギュラー出演など、幅広い分野での活動を行なっている。
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