KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2003年03月11日

『図で考える人の図解表現の技術-思考力と発想力を鍛える20講』

著者:久恒啓一
出版社:日本経済新聞社; ISBN:4532402603 (2002/12)
本体価格:1,500円; ページ数:192p
書籍詳細

本書は、ベストセラー『図で考える人は仕事ができる』の著者・久恒啓一氏がゼミ形式で図解表現と図解思考のスキルを解説しているものです。
前著『図で考える人は仕事ができる』では、図解の大切さや有効性、楽しさ、そして図解による問題解決法を説き、この書籍をきっかけに、“図解思考”が注目されるようになりました。多くの人に、図解の重要性が理解されるようにはなりましたが、「実際にどのように図解をすればよいのかわからない」という声も多く、そんな読者の要望に応える形で書かれたのが本書です。

著者本人もまえがきで述べているように、前著が原論であるとすれば、本書は“トレーニング編”とも呼ぶべき内容になっています。図解の基本スキルを学ぶ【基礎編】、図解の「深さ」を味わう【実践編】、図解の「広さ」を味わう【応用編】の三部で構成されています。
また、「図を描いてわかり(理解)、図で考え(企画)、図で伝える(伝達)」という技術を“図解コミュニケーション”と名づけています。図解コミュニケーションは、才能やセンスではなく技術であり、一定の努力によって誰でも使うことができるようになるもので、本書では、そのためのコツやポイントを総まとめにして解説しています。

では、「図解する」ということは、いったいどういうことなのでしょうか。

基本的には「マル」と「矢印」だけで多くの事柄を図解できる、と著者は言っています。マルを使って「関係、位置、構造」を、矢印を使って「動き、流れ、方向、関係」を表現し、その組み合わせによって、ものごとの構造や因果関係、時間的・空間的関係、論理的関係、関係の強弱など、ものごとを大局的に整理したり、また思考を構造化することができるのです。

また、「鳥の視点で全体の構造から描く」「論旨の中心をはっきりとさせる」「タイトル、コメントは図解に不可欠」「読み手の視点をわすれない」「図解には正解はない」など、わかりやすく、効果的な図を描くためのポイントが散りばめられています。

図解は、材料を加工・組立、再構築しながら、構造的、立体的に表現することにより、体系をつくりだし、それにより理解や思考を深めたり、本質を浮き彫りにさせたり、新たな関係の発見や新たな発想を生み、さらには新しい価値創造にもつながるものです。図解はいわば価値創造ツールとも言えるかもしれません。

企業の優れたリーダーや、ビジョンを描けるトップにも図解を用いる人が多い、と言います。その一例として、GEのジャック・ウェルチの1枚のシンプルな図(事業構想図)をもとに改革を推し進めた例をとりあげています。

図解とは一種の通訳ではないかと、私は思います。会議での議論の際や、ブレーンストーミング、企画書作成のときなどに、拙いながらも図解を使っています。議論や思考を目に見える形にすることによって議論が活性化できたり、頭の中で抽象的に考えていたことが具体的に整理されたり、新たな論点や新しい発想を引き出したり、問題点や疑問、驚きが出てきたりと、図解の強力な威力を実感しています。また、講演会でその内容を図解することもあります。これなどは、論旨や文脈を踏まえたうえで、構造化しなければならず、あたかも「日本語の同時通訳」をしているようです。図解を使いながらいつも感じるのは、思考の回路が自然に整理され、バラバラの知識の断片が立体的に関連づけられることです。図解は本当に奥が深いです!

図解は、図解表現をしたら終わりなのではなく、図解思考をしてこそ真価が発揮されます。図を描くこと自体が目的ではなく、図から何を考えるか、図を使っていかに創造的な知的生産活動をするかが重要なのです。図解は人間の思考活動とコミュニケーションを促進する技術であり、その応用範囲はきわめて広いものだと思います。そして図解とは、言語感覚を磨いたり、論理的思考を養ったり、本質を抜き出す力をつけたりと、自分の考えの基礎を作り上げるための作業でもあるでしょう。だからこそ、いま、この時代に図解が求められているのです。MCC定例講演会『夕学五十講』での久恒氏の講演も大盛況で、図解への関心の高さを実感しました。

本書がトレーニング編として非常にわかりやすいのは、多数の図解例をとりあげ、その良い点、悪い点を指摘しながら、さらに具体的な改善点を述べていること、そして、人のものの見方の特性や思考パタンから、さまざまな表現方法を解説し、効果的でわかりやすい図解方法、また逆にわかりにくくしてしまう描き方や陥りやすい失敗などを具体的に提示している点です。それらのポイントは、各講の最後に「塾長からのアドバイス」としてまとめられています。非常に示唆に富んでいる内容ですので、この部分を読むだけでも価値があります。

また、本書がさらに興味深いのは、本書では図解のスキルやテクニックの解説だけにとどまらず、事例を通して、社会や経済、ビジネスなどの問題点の指摘や、仕事への取り組み方、教育や教養についての考察、さらには組織におけるコミュニケーション戦略や人事政策にまで話題を発展させていることです。これは、筆者の豊富な発想によるところはもちろんですが、まさに図解したからこそ、そこからいろいろな点が見えてきたからだと言えるでしょう。

ベストセラー『図で考える人は仕事ができる』とあわせて読むと、図解に対する理解がより深まります。さらに、たくさんの図解に触れるといいでしょう。自分で考えて図を描くことに加えて、よい図を手本にして真似することが、図解上達への近道だと筆者も言っています。
ぜひ、みなさんも「図解仕事人」になって、「仕事革命」を巻き起こしてください!
(井草 真喜子)

『図で考える人の図解表現の技術-思考力と発想力を鍛える20講』

『図で考える人は仕事ができる』

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