HOMEへ戻るMCCマガジン『マネジメントの正体―組織マネジメントを成功させる63の「人の活かし方」』

『マネジメントの正体―組織マネジメントを成功させる63の「人の活かし方」』

2003年04月08日

著者:スティーブン P ロビンズ; 訳者:清川 幸美
出版社:ソフトバンク パブリッシング; ISBN:4797320532 (2002/09)
本体価格:1,600円; ページ数212p
書籍詳細

本書は、組織行動学の研究者であるスティーブン P ロビンズ氏が書いた、実務家向けのコンパクトなマネジメントセオリー集である。

「5 つのスキル」「7つのヒント」「55の鉄則」「99の法則」....この手の題名が冠せられたビジネス書の氾濫には、正直言って食傷気味である。特に、リーダーシップやマネジメント、コミュニケーションに関わる領域には顕著だ。手っ取り早くノウハウを知りたいというビジネスパースンの心情とそこに付け込んだ出版社の思惑が透けて見えていい気分がしない。
この本の副題にも「組織マネジメントを成功させる63の『人の活かし方』」とある。ところがどうして、その類の書籍とは明らかに異なり「理論と実践を繋ぐ架け橋」が本書である。

著者は組織行動論の分野では、世界で最も普及している教科書の著者として知られている。『組織行動のマネジメント』(高木晴夫 慶應大学大学院教授監訳)というタイトルで出版されている訳書は、慶應ビジネススクールをはじめ、日本のほとんどのMBAでテキストとして使用されているという。組織行動学というのは、組織における人間行動、具体的にはリーダーシップやモチベーション、組織風土・文化などを領域としており、心理学の色彩も濃い学際的な学問領域である。

しかし、本書はあくまでも一般のビジネスパースンに向けて、一切専門用語を使わずに書かれている。著者はまえがきの中で、30年間の研究生活を振り返りながら、次のように述べている。「...研究や理論検証は、実務家からは批判されがちだが、人間の行動について数え切れない見識を私に与えてくれた。しかし残念なことに、今まで行動学の研究を簡潔にまとめた本、つまり管理について何が有効で何が有効でないか、その真理を専門用語を使わずにマネジャーに教えてくれる本はなかった。だがそれはもう過去にことだ。私はこの本を、そうした空白を埋めるために書いたのだ....」

なんとも凄い心意気である。だが、心意気だけではなく、簡潔な文章の中に、実務に役立つ含蓄深い理論が数多く埋め込まれている。「読み易いにもかかわらず中身が濃い本」といえるだろう。

本書は、「リーダーシップ」や「モチベーション」「変化への対応」など、マネジャーが直面する、人間の行動に関する主要な問題ごとに構成されている。更には、それらの問題ごとに短いトピックが63のケースとしてまとめられ、好きな順に読むことができるし、少しずつ分けて短時間に読めるように工夫されている。ちなみに私は、いつも鞄の中に入れておいて、電車の中や昼休みに、その時々に気になったページを開いてみることが多い。

具体的なケースを見てみると、「カリスマ性は身に付けられる」とか「男と女のコミュニケーションは違う」など、思わず読んでみたくなるテーマもあれば、「チャレンジはごめんという人もいる」とか「チームに向かない人もいる」など一義的な管理の難しさをズバリ指摘するテーマもある。「感情を無視するな!」「仕事の本質は自分探し」といったテーマでは、エモーションやキャリア等、いま時の潮流もきちんとフォローしている。しかも、繰り返しになるが、いずれも体験論や一般論ではなく実証研究に基づく理論に裏付けられた説明がなされている。

実務家向けの本ではあるが、MBAなどで組織行動学を学んだことのある人にとっても、自分の知識を再確認する機会になるだろう。巻末には、各章を書くのに参考にした文献リストが学術書なみに掲載しているので、詳細を調べたい人にも親切である。(ただし、英語のままで載っているので翻訳があるか判別できない点は不満)

もちろん、人間の行動や感情に関わる問題は、文化の違いを色濃く反映するので、我々にはピンとこないトピックや解説もある。短い文章にまとめてある分、言い切り表現が多いところも気になる点ではある。しかし、マネジメントハンドブックとして近くに置いておきたい良書であることは間違いがない。

MCC でもプログラムディレクターをお願いしたことのある神戸大の金井壽宏教授は、機会あるごとに「良い理論ほど実践的である」という恩師の言葉を例えに出されるが、願わくは日本発の研究成果が、この本のように簡潔なメッセージで実務家に届けられるようになることを祈ってやまない。
(城取 一成)

『マネジメントの正体―組織マネジメントを成功させる63の「人の活かし方」』

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