KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2003年06月10日

『ビジネススクールで身につける 思考力と対人力』

著者:船川淳志
出版社:日本経済新聞社(日経ビジネス人文庫); ISBN:4532191483 (2002/07)
本体価格:800円; ページ数315p
書籍詳細

「すいません。私の認識違いでした」・・・もういきなり謝ってしまいます。
いや、最初にこの本を手に取った時、そのタイトル見て正直そう思ったんです。
「どうせまたビジネススクール信者の喜びそうなクリティカルシンキングのノウハウ本なんじゃないの?」・・・本当に失礼なヤツですね(笑)。

でも、事実、そういう、つまりロジックツリーやマインドマップといったビジネススクールで必ず出てくる「思考ツール」を解説した本って多いですよね。それでもってその手の本が大好きな人もまた結構多い。まあ、そういう人が多いからこそ次々にその手の本が出版されるのでしょうが。
ところが、この本はそれら「ビジネススクール信者のためのノウハウ本」の類とは根本的に違うのです。


どこが根本的に違うかを説明するためには、なぜ私が「ビジネススクール信者の~」などという暴言を吐くかを説明しなければいけませんね。ちなみに“信者” というのは自分の頭で考えることができない状態の“メタファー”であって、宗教を否定しているわけではないです、念のため。・・・そうなのですが、実はこの「自分の頭で考えることができない状態」、つまり『思考停止』こそがキーワードなのです。つまり、ロジックツリーにしろマインドマップにしろ、所詮はツールであって手段に過ぎないはずです。ところが「ツールを使うことが目的」になってしまっている人って意外と多いと思いませんか? ほら、胸に手を当てて・・・手段がいつの間にか目的にすり替わっていたり、そうしたツールに「当てはめて」いたりした経験はありませんか? 正直、私はあります。

過去の自分を棚に上げて(!?)言わせていただくと、我々はしばしば安直にツールに頼る、つまり「How」に走りがちなんです。本来はツールを使う目的である「Why」や「What」を吟味した後に手段としての「How」を考えるべきなのに。そして、なぜに我々がそういう罠に陥りやすいかというと、それが楽だからなんですね。なぜならば、人が考えた定評あるツールに当てはめてさえいれば、取りあえずもっともらしいアウトプットは出せるし、予定調和としての合格点も貰えそうだし。実は、こういう状態が『思考停止』状態なんですね。
ここで少しご自分を振り返ってみてください。こんな状態になっていませんか? もしそうだとしたら、お願いですから、ちょっとでも情けないと思ってください(当然、過去の自分自身にも言っています)。

さて、前置きが非常に長くなりましたが、この『ビジネススクールで身につける 思考力と対人力』はこうした私の危機感にピンポイントで応えてくれました。もっと正確に言うと、やや大げさではありますが、著者である船川氏と私とは”ビジネスパースンの思考停止”という同じ危機感を共有しているとすら思えたのです。

この本の中で著者はしつこいほどに「自分の頭で考える」ことを促しています。たとえば「ステレオタイプに振り回されるな」と。でもそのために必要なのは「ステレオタイプの自覚」だと続けているのですが、もうこのへんだけで共感しちゃいます。

そう、この本ではクリティカルシンキングについても当然触れられていますし、思考ツールもちゃんと解説されています。でも、「ビジネススクール信者のためのノウハウ本」の類とは根本的に違うのが、こうした「クリティカル思考の鍛え方」にまで踏み込んでいるところなんですね。
そして著者はこうも言っています。

「道具は与えられたものの、それを使いこなすための『身体能力』がともなっていない」

「『知っている』こと自体は思考力ではない」

いやもう「我が意を得たり」とはこういうことでしょうね。
さらに、それは、MCCがビジネスパースンに必要な仕事の方法論として提唱している、「知的基盤能力」の定義そのものです。ちなみに、「知的基盤能力」とは、「論理的に考える」「創造的に発想する」「協創的な議論をする」といったビジネスプロフェッショナルとしての知的活動の基盤となる力のことで、つまりは、知識やツールを獲得する力ではなく、それらを使いこなすためのいわば「知のインフラ」ともいうべき能力です。その意味でも、この1冊は、とにかく多くの方々に読んでいただきたい本です。

ところで、著者の船川氏には、5月にMCC定例講演会『夕学五十講』でご講演いただきました。その際僭越ながら私が司会を務めさせていただきました。
実はその講演後の控え室で、身の程知らずにもここまで述べてきた話をご本人にしたのです。すると、なんとご本人から「そこまでくみ取ってもらえて嬉しい」とのありがたいお言葉をいただきました(ちょっと自慢です!)。
でも自慢する前に、いきなり謝罪しなければならいないような認識違いをすることが、私の知的基盤能力不足を露呈してることに、まず気づかなければいけないですよね。。。もう一度読んで修行しなければ、と改めて思います。いやホントに。

ぜひ、みなさんも、『ビジネススクールで身につける 思考力と対人力』を手にとってみてください。そして、知らないうちに身についてしまう“思考停止”を防ぐため、さまざまな「クリティカル思考の鍛え方」を実践してみてください。
あ、本にサインしてもらうの忘れてた。
(桑畑幸博)

『ビジネススクールで身につける 思考力と対人力』

 

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