KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2004年01月13日

『会議革命』

著者:齋藤 孝
出版社:PHP研究所; &nbspISBN:4569624790 ; (2002/10)
本体価格:1,200円; ページ数:191p
http://item.rakuten.co.jp/book/1492660/


「本当の会議はすがすがしい。」
帯紙に書かれた、その言葉に、私は違和感を覚えた。と、と同時にハッとさせられた。違和感の原因は、 “すがすがしい”というものが、到底“会議”とは結びつかない形容の言葉だと思っていたからだ。さらに、ハッとさせられたのは、すがすがしさを感じられる本当の会議を常に行っているか、と問いかけられたように感じたからだ。
帯紙にはさらに、「時間半減。気分爽快。成果倍増。」とある。そして、表紙をめくると、「あなたの会社の会議は大丈夫か?」チェックリストがあり、その一つひとつは、「あ、あの会議は、まさにこんな会議だったなぁ。」と、心当たりのあることばかりである。その上、「日本経済をダメにしている元凶のひとつは会議だ」という断言から始まるのである。衝撃的であるとともに、期待を持って読み進めてみたいと思わせるキーワードがちりばめられている。
本書は、日本語ブームの火付け役となったベストセラー『声に出して読みたい日本語』の齋藤孝氏の著書である。齋藤氏は、日本の非効率な会議を何とかクリエイティブなものに変えたいという思いから、専門の教育学や身体論、コミュニケーション論をもとに、幅広い知見を取り入れたクリエイティブな独自の会議スタイルの提案として、本書を著したという。まさに会議に対する従来の認識を一変させてくれる一冊である。本書は、二部構成になっており、第Ⅰ部では、会議における改善ポイントを「10の法則」として提示し、第Ⅱ部では、著者が考案した、会議革命を起こすメソッド「3つの革命」を提案している。
疲れるだけで時間の無駄、単なる伝達・報告のみで形骸化している、決まったシナリオで結論ありき、形式的で集まることで仕事をしたと勘違い、目的が不明確で何のために集められたかわからない・・・。何かを生み出すべき会議が、現実的には、まったくといっていいほど機能せず不毛な会議となり、不満をもっている人は多いはずだ。
本書ではそんな問題意識のもと、まず、「会議とはアイディアを生み出す現場である」と定義し、そのための改善ポイントとして「10の法則」を提示する。

  • 法則 1 :とにかくアイディアを出す
  • 法則 2 :「結果の出やすい」テーマ設定をする
  • 法則 3 :三色に色分けして、聞く・話す
  • 法則 4 :インスパイア・アイテムを用意する
  • 法則 5 :身体のモードを切り替える
  • 法則 6 :他人の脳ミソを使う
  • 法則 7 :ホワイトボードに書き込む
  • 法則 8 :スポーツ感覚で望む
  • 法則 9 :全員の顔が見える位置に座る
  • 法則10 :何かを決めてから会議を終える

それぞれの解説と具体的な方法について書かれているが、詳しくは本書を読んでいただきたい。私が特に関心をもったのは、法則2の項目で述べられている、「カオス(混沌)とコスモス(秩序)を往復する技」である。会議のプロセスの途中では、話を上手にまとめることが必要なのではなく、参加者がアイディアを出せる方向へ水を向けながら、コスモスとカオスを行ったり来たりすることによって、アイディアを練り上げていくことが必要だということだ。コスモスとは、話が一通りまとまったいわば秩序ある状態のことであり、その状態に違う角度から刺激を与えて、ある種の混乱をもたらすことが、カオス化である。コスモスに対して、違う意見を与えてカオス状態にし、そこからまたアイディアが出てきて、それをまたコスモス化していく。この繰り返しが、会議参加者の脳ミソを混ぜ合せ、重層的に思考を折り重ね、アイディアを研ぎ澄まし、鍛え上げ、練り上げていくことになる。
さらにそこで私が感じたのは、角度の違う刺激を与えることの難しさである。一言で「カオス化」といっても、そのためには異なる視点の提示や他からアイディアを引き出すための投げかけが必要であるが、そう簡単なことではないのではないかと思うからだ。私は、それに対して少しでも参考になるのではないかと、齋藤氏の別の著書『質問力』を手にした。「コミュニケーションの秘訣は質問力にあり」と謳われたその著書の中では、よい質問とは「具体的かつ本質的な質問」「頭を整理させてくれる質問」「現在の文脈と過去の文脈や相手の経験世界が絡まりあう質問」といい、また、コミュニケーションの秘訣は「沿う技」と「ずらす技」と述べている。そして、その前提となるのが、状況を把握し文脈に沿って組み込む洞察力、相手への共感や敬意であるという。これらは、会議の場でも十分活用できるものではないかと、こちらの著書も興味深く読んだ。
次に、会議革命を起こすメソッド「3つの革命」として、

  • 第一の革命:ポジショニング
  • 第二の革命:キーワードシート
  • 第三の革命:マッピング・コミュニケーション

を提案している。アイコンタクトが全員とできるポジショニングをつくり、共通の土俵とつくるためのキーワードやアイディアを出し、それらを関連づけたり、グルーピングしながら思考のプロセスを形にしていくという方法である。参加者全員が、アイディアを出し切り、意思決定にかかわり、現実を作っていく実感をもつことができるための有効なメソッドとして、齋藤氏自らが独自に開発したものである。
MCCでは、齋藤氏の提案しているマッピング・コミュニケーションではないが、MCCで独自に開発した“コラジェクタ®”を使って、会議を行っている。ねらいは、マッピング・コミュニケーションと同様、コラボレーションワークの生産性・創造性の向上である。そこでは、自分の脳ミソと相手の脳ミソを混ぜあわせることによって、個々人がそれぞれもっている力以上のものが産まれたり、一人では思いつかなかったような発想を思いつく瞬間を味わうことがある。
今以上に、会議での議論を深め、密度を高くし、生産性を高めるために、「10の法則」と「3つの革命」を実践し、“すがすがしさ”を感じられる会議を、より多く行っていきたいと思う。
(井草 真喜子)

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