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『プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?』

2017年07月11日

プルーストとイカ
著:メアリアン・ウルフ ; 訳:小松 淳子 ; 出版社:インターシフト ; 発行年月:2008年10月; 本体価格:2,592円

読書。時代や場所を越えて様々な世界へいざなってくれるとともに、私たちの脳を変化させてきたもの。
『プルーストとイカ』というシュルレアリスムちっくなタイトルを冠したこの本は、「読む」ということについて、そして読字と私たちの脳の関係を様々な角度から示してくれます。

読むということは、読む対象がある、つまり「書いてある」ことが前提です。
口承文化から文字文化への移行期に生きたのが、古代ギリシアの哲学者ソクラテスです。ソクラテスは文字文化の普及に否定的でした。
その理由の一つは、“さも知的であるかのように見える”書き言葉は真の知の追求を阻害する、ということ。書かれた文章は理解し始めたに過ぎない物事を理解したように錯覚させる、反論させる余地を与えない、そのうえ記憶力を衰えさせるというのです。

突き詰めていうなら、ソクラテスは読字を恐れていたわけではない。彼が恐れたのは、過剰な知識とそれが必然的にもたらす結果―表面的な理解しかできないことである。(P.120)

リテラシーに対するソクラテスの批判が、よりデジタルで視覚的な文化へ移行しつつある現代にも当てはまることは、筆者が指摘する通りです。

私は「声に出して読む」ことを強く意識した経験があります。
それはプログラミング言語との出会いです。前職で、この言語の習得に大変手こずりました。
学生時代から十数年の間に七か国語をかじった私にとって、それは初めての「音を持たない言語」だったのです。
思えば七か国語のうち身についた、残った、と言える二か国語は、その言語が持つ音に魅かれて学び始めたものでした。私の語学習得の鍵は音にあったのです。

日本における「読む」行為は、江戸時代の音読・素読中心から、現代の圧倒的な文字文化へと大きく変化しています。
絵文字やスタンプといった文字すら用いない伝達方法も一般的になっていますし、オーディオブックや音声検索といった伝達方法も、技術の進歩で新しい活躍の場を築いていくことと思います。

これからも増え続ける情報を素早く「処理」するためには黙読が効率的であることは間違いないですし、情報へのアクセスがかつてないほどに容易に、身近になったことは、新しい発想の誕生を促すことでしょう。

しかし同時に思うのです。画面越しの溢れんばかりの情報を前に、全てを知ったつもりになっていやしないか。目にする情報を、立ち止まって考えることなしに鵜呑みにしていやしないかと。

時には“速く、多く”から離れ、“じっくり、絞って”思考することも、私たちは意識して行っていく必要があるといえそうです。

(田口 舞)

プルーストとイカ』(インターシフト)

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