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佐藤 優『友情について-僕と豊島昭彦君の44年』

2019年06月11日

友情について-僕と豊島昭彦君の44年
著:佐藤 優 ; 出版社:講談社 ; 発行年月:2019年4月; 本体価格:1,600円

「高校時代の親友が膵臓癌に。余命の中央値は291日――。」
私なら、どうするだろう。私には、何ができるだろうか。

佐藤優氏はどうしたか。その答えが本書である。
本書には佐藤氏と豊島君、2人の44年友情、そして59年の人生が綴られている。
著者は作家で本外交官の佐藤優氏である。2人の物語はいきいきとして鮮やか、テンポがよく、面白い。引き込まれていっきに読んだ。

―――

豊島、一緒に本を作ろう。君の体験という財産を、後の人たちのために遺すんだ。

本書は、きっかけとなった2人の40年ぶりの再会に始まる。そして前半、少年時代から、2人が出会った高校時代、大学時代、豊島君の人生に折々佐藤氏の人生が織りこまれ綴られる。

2歳の豊島君、妹が生まれるとき祖父母のもとに預けられた。泣いて「外に出して犬に食わせてしまうぞ!」と叱られ、以来犬が恐くなった。わかる。犬ではないがそういう原体験、私にも、ある。
中学生の豊島君、芥川龍之介の小説を授業で読み、田端に終の棲家を訪ねた。芥川が好きだった山茶花の垣根が当時も残っていて、写真に撮った。ある。鮮明に残る思い出の景色、私にも。
県立浦和高校に進学した2人。先生をもやり込める佐藤君に感嘆する豊島君、成績優秀で着実な豊島君のアナーキーな気質にも気づいていた佐藤君。いた。自分にないものをもっていて、すごいなあ、と思う同級生が私にも。
自分の思い出がくすぐられ、懐かしさがわいてくる。

豊島さんの笑顔も思い出す。
豊島さんとはクラスメイトだ。私が担当していたagora講座に3度(古事記、源氏物語、茶の湯)参加してくれた。agoraでは講師におおいに質問し、全員でおおいに語り合うから、私は事務局というよりクラスの一人。期をまたいだ同窓会でもたびたびご一緒してきた。

クラスでも会でも、豊島さんはいつも穏やかで、笑顔。メンバーの中では控え目だったが、感想を蕩々と語り、質問は具体的でユニーク、自信が感じられた。クラスでは生い立ちまで話すことはなかったけれど、小説が好きでいつか自分でも書きたいと思っていることや、佐藤優氏と同級生だったことなどは聞いていた。なるほど、知的で鋭い方なわけだ、と納得したことを覚えている。

本書にもどろう。後半、2人の人生が続く。
豊島君は日債銀に就職、重要な仕事を担い多面的に活躍、順調にキャリアを積む。がしかし、日債銀の経営破綻、リストラ、2度の転職、数々の窮地と不条理を豊島君は経験する。そしていま、膵臓がんと闘う。
佐藤氏は神学を専攻し、チェコスロバキア留学への思いから外務省へ、在ロシア日本大使館勤務や対ロシア外交分野の分析官として活躍する。がそこで、鈴木宗男疑惑、逮捕、投獄、作家に転身して、現在の活躍は皆さんご存じの通りだ。

ノンフィクションで佐藤氏の筆力である。迫力がある。ここまで書いて大丈夫なのだろうかと心配になるほど、具体的ゆえに説得力があり、状況や感情がストレートに伝わってくる。

捜査当局のやり方や経営破綻の現場など、知らなかったことも多く、驚かされた。
理不尽な上司。組織の不条理。社会の仕組みの恐ろしさ。腹立たしかった。

そして思った。比べ私は、なんとこれまで恵まれてきたのだろう、自分が苦労だと思ってきたことはなんと生ぬるいものだったのだろう。その一方で、本書はこんな私を鼓舞し、励ます。

2人は本書の中で、特定の相手を批判したり、なにかを恨んだり、過去を悔やんだり、を一切していない。2人が貫く誠実さ、真摯さが伝わってくる。壮絶な内容ながら読んでいてすがすがしいのは、佐藤氏の文章スタイルに加えて、2人の生きる姿勢にあるだろう。あるとき佐藤氏は、こうも言い切っている。

人生は悪いことばかりが続くわけではない。悪いことの後にはいいことがくるものだ。

そう、豊島さんも同じことを言っていた。
本書の企画が始まって間もなかった12月の同窓会のときだ。

講師 阿刀田高先生の文化功労者受賞と、豊島さんの小説『小説 豊国廟考 ―夢のまた夢―』の出版。ダブルのお祝い会だったので、とても賑やかになった。

豊島さんは病気を知ったとき、「なぜ自分が」と思ったそうだ。私であってもそうだろう。次に、これからや家族のことを考えると不安でたまらなくなったという。そして豊島さんは行き着いた。いま悩んでも仕方がない、悩むのはやめよう、「残された時間をどう生きるか考えよう」と。

「わかった。それで豊島は、何がしたい」
「自分がこの世に生きた証を遺したい」
「そうか、わかった。じゃあ、一緒に本を作ろう。豊島君の人生を振り返る本だ」

豊島君の思いに佐藤氏が応え、2人の本書のプロジェクトが始まった。

「悪いことばかりではないんですよ。実は、今が人生で一番、充実しています。」
花束を受け取り照れながら豊島さんは、いきいきとした、とてもいい笑顔で、そう言った。

―――

発刊直後の4月27日に、出版を記念して佐藤氏と豊島君の「対談・サイン会」が開催された。

2人は浦高時代を明るく、懐かしそうに語った。大きな事件や時代の節目を振り返り、そのときの詳細やおのおのの思いにも触れた。本書のきっかけも話してくれた。会場には同窓生もたくさん来ていた。涙する人もいた。満席の会場にはふしぎな一体感があった。

そして、さいごの佐藤氏のメッセージに、私は心が震えた。

大きな時代の転換においては、どこかが必ず犠牲になるものである。
豊島くんも僕(佐藤氏)もその転換を図られた1つになってしまっただけ。役割分担のようなもの。
大事なのは、そこからふんばれるか、そこからがんばれるかどうか、なんだ。

そんな内容だった。そうなのだ。
私たちはつい、誰かのせい、時代のせい、何かのせいにしたくなってしまう。誰かを恨み、不幸を嘆き、何かを憎みたくなってしまう。しかしそうなのだ、それでは解決しない、進まない、そこからどうするか、なのだ。それをどう糧にできるかなのだ。

これが、本書のもつひたむきさ、力強さだ。
同じ時代を生きた人には、きっと人生のどこかに接点があり、共感することや勇気づけられることがあるだろう。若いこれからの人には、きっとこれからどこかで役立つ人生の場面があるだろう。2人の思いが伝わってくる。

では、いま、友である豊島さんに対して、私たちには何ができるだろうか。私には何ができるだろうか。
クラスメイトで本の感想とメッセージを寄せ書きした。本書を多くの皆さんに読んでもらいたいと思い、他のクラスや友達、家族に、そしててらこや読者の皆さんに本書を紹介している。本書に私は励まされ、慰められた。この本から受け取ったものを噛みしめ、活かしていくのはこれからだ。

(湯川真理)

友情について-僕と豊島昭彦君の44年』講談社

小説 豊国廟考 ―夢のまた夢―』豊島昭彦著、ケイアンドケイプレス、2018年12月

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