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仲野 徹『(あまり)病気をしない暮らし』

2020年03月10日

(あまり)病気をしない暮らし
著:仲野 徹 ; 出版社:晶文社; 発行年月:2018年12月; 本体価格:1,545円税抜

「病気にならない△つの習慣」「痩せたい人は○○せよ」「××でがんが治る」
本著には、このようなハウツーや、何か画期的な方法が書かれているわけではない。どちらかというと、「禁煙、節度ある飲酒、適切な体重、十分な睡眠、バランスの良い食事、念入りな手洗い、定期検診の受診、ストレスをためない、対人関係をたくさん持つ」-といった具合の、そうだろうなとは思っているものの、それが難しいっちゅうねん!と思うことが書かれている。しかし本著を読んで、これらが、なんとなく大事と思う、から、なぜ大事なのか分かるに変わった。

世の中にはさまざまな医学情報があふれている。著者の仲野先生曰く、「役に立つなぁと思うものもあれば、ようこんなウソ書くなぁ、というものまで、ほんとうに玉石混交」らしい。近年、新型ウイルスの流行や、遺伝子検査の普及、がんに代表される病気の罹患など、私たちは日々、病気やその予防について考える機会に直面している。どの情報が正しいか、あるいは、正しそうかを決めるのは、結局のところ自分の判断でしかない。そして、そういった力を身につけるには、正確な医学情報を知っておくのが一番であるが、医学の専門家ではない私たちが、膨大で多岐にわたる医学情報を記憶するのは不可能に近い。そのためにも、普段から正しい医学情報に接するようにしておけば、それなりのヘルスリテラシーが身について、細かな知識がなくても、これはどうやら怪しいぞ、とかなんとなく正しそうとか、言うのがわかってくるようになるはず、というのが仲野先生の狙いだ。そして、その一歩を踏みだすために、本著は非常に役立った。

まず、なんといってもわかりやすい。仲野先生は大阪大学大学院の病理学の教授。2018年ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑先生の研究室で、過去に助手・講師をされていたこともある。このようなすごいセンセイであるが、失礼ながら、さながら近所のおっちゃんから聞く話のようなのだ。医学の話、基本的には難しいはずだ。しかし、仲野先生の平易な言葉と関西弁の軽快な語り口で、言葉が空中をさまようことはなく、するすると頭に入ってくるからあら不思議。ちっとも挫折しなかったのが驚きだ。そして、DNAとゲノムとか、がんの発生とか、菌とウイルスとか、頻繁に耳にしてぼんやりと知ったつもりになっていることの仕組みが、素人なりに理解できるようになる。特に、ノーベル賞を受賞した本庶先生の「オプジーボ」についての解説は、そういうことなのか!とようやく理解ができた。

そしてもう一つ、言葉一つひとつに対する姿勢がすごい。例えば、まえがきに「病気ってなに?」という項がある。病理学の専門家が、「病気ってなに?」としばし考える、まずそのことに少し驚き、次いで広辞苑を引きだすことにも驚き、しまいにはウィキペディアまで引用することにとても驚いた。しかし、もちろんただ“引く”だけではない。読んでいて、ちょっとしつこいんとちゃうか?と思わせるほど、定義を深く、深く、鋭く!考察する。それこそが、全くの素人にとって、本質を理解するのに非常に頭が整理され、納得感があり、ありがたかった。

これらは、仲野先生が平成2年から5年近く在籍していた本庶研究室でのエピソードに通じるのではないかと感じる。当時、本庶先生がよくおっしゃっていたという言葉-「Do not stick to the system. Stick to the question(システムに固執するな。知りたいことにこだわれ)」。研究者は、ある研究システムを手に入れると、それを使った研究を水平方向に展開したくなるそうだ。しかし、「方法論に拘泥されることなく、自分が設定した問題にこだわってまっすぐ進むこと」-これこそが、仲野先生の研究人生においての教訓のひとつ、とのことだった。私たちも、自分の仕事や専門領域こそ、確立したやり方にこだわりたくなるのではないだろうか。そして、当たり前に思うことが増え、難しい言葉を使うようになり、一度立ち止まってその本質や目的を考えることから離れてしまうこともしばしば。このように、仲野先生の文章の端々から感じる、〈姿勢〉や〈信念〉は、医学情報のほかにも大切なことを伝えてくれる。

〈学び〉に対する姿勢も同様だ。本著では、数多くの関連研究等が紹介されている。論文、医学書、科学書のみならず、歴史、伝記、小説、エッセイ、映画やTV番組までもがつながっている。そして自らの体験談も豊富だ。人はこれほどまでに好奇心をもってアンテナを張り、一見、専門外と思われる事柄をも関心事と結びつけ、考えられるのか-。仲野先生の引き出しの豊富さから、〈学び〉とはこういうことか~、と改めて考えた。

最後に、何より本著は医学書と思えないほど、オモロイ。クスッと、ハハハッと、なんでやねん!と心で応えつつ、読み進めていくライブ感がある。ときに世代や地域差なのか、仲野先生のボケとツッコミについていけないときがあるのもなぜか良い。本著では、「笑いとがん」の項で、笑いが免疫能を高めるか、といった考察がある。多くの研究がある中で、もちろん笑いだけで病気の進行を止めるほどではないが、「笑いは万病の良薬」といった印象を受けた。本著を読んで、笑ったこと数知れず。〈(あまり)病気をしない暮らし〉へ、一歩近づけたと思う。

(米田奈由)

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