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今月の1冊

2020年12月08日

『コロナの時代の暮らしのヒント』をやってみた

コロナの時代の暮らしのヒント
著:井庭 崇 ; 出版社:晶文社; 発売年月:2020年9月;

この10ヶ月、家で過ごす時間が、圧倒的に、それも急に、増えた。
いつか時間があったらやりたいことがいっぱいあって、それが次々とできた。
と同時に、これまで時間がないことを言い訳に、片目をつむってきたことたちと向き合うことでもあった。
そう、後ろめたいこと。ちょっと苦手なこと。そういう “自分”の一面と。

そんな私のとこに、この本がやって来てくれた。
シンプルで簡単なヒントは、さりげなくて、優しい、そばにいてくれる。友のよう。
わかっているけれど、ちょっと自信がもてない、そんな私に刺激をくれ応援してくれる。久しぶりに会う同級生のよう。
素敵な本なので、一読者の目線でも紹介したいと思う(ピックアップレポートに続いて)。

コロナ禍の緊張や不安もあいまって、後ろめたい自分、ちょっと自分の苦手、とも向き合う。
後ろめたいこと。私の場合、まず本だった。
いつか読もうと思っている本。読もみたくて買っておいた本。好きでなんども読んでいる本。
身のまわりは本であふれている。本棚はぎっしり。オフィスのキャビネもびっしり。カバンには毎日欠かさない。ベッドサイドにも数冊。
“いっぱい”の本は、あるべきところからあふれ、積まれていく。仕事の本も、趣味の本も、実用的な本も、思い出の本もある。
つまり、本が好きなのである。が、後ろめたい。“積ん読”も読書のうち、いつか時間ができたら読む、いつも言い訳していた。

そんな私に、第7章のヒントがこう語りかける。

「なじみの本屋に足を運び、本の散策をする時間は、なんとも言えない贅沢な時間です。」そんな「自分選書の本棚」は、まさに自分だけの本屋さんですよね、と。(第7章 自宅に、世界で一番ワクワクする《自分の本棚》をつくる)

そうなのだ!私は素敵な本棚を持っているの。
並んだ背表紙を眺めてはワクワクし、順にパラパラ立ち読みを楽しんでいる。家を出るとき、ベッドに入る前、今日の一冊を選んでいる。
はっとする、発想の転換だった。後ろめたかったはずの本たちは私の宝物、私の自慢になった。

次に、ちょっと苦手なこと。私にとって、家にずっといる、ということそのものだった。
ビフォー・コロナの暮らしは、圧倒的に”家にいない“時間が長かった。仕事中心で、帰宅は夜遅く、週末は週末でよく出かけた。そんな生活のなかで求める居心地の良さがわが家にはあった。
しかし、である。ずっと、昼も夜も家で過ごし続けることになると、求める家の居心地の良さは違ってくるのだ。もともと中より外が、家にいるより出かけるのが好きでもある。

そんな私に、第16章がアイデアをくれた。
「できなくなったことではなく、≪できること≫を」を書いてみて、と。(第16章 できなくなったことではなく、《できることリスト》を書いてみて、前向きに暮らす)

「仕方ないと頭ではわかっていても、あれもこれもできなくなってしまっている現状はとても残念ですし、不自由さも感じます。でも、そんなふうに、落ち込んでいても、よいことはありません。」そうそう。そこで、「今自分が「できること」をできるだけたくさん書き出してみましょう。」あれ、拍子抜けするほど、すごくシンプルで簡単。

頭ではわかっていてもネガティブな感情ばかりのとき。はっと、自分に、気づかせてあげるのだ。それにはこの“書き出す”ことが大事。頭にある、思いつく、ではなくて書いて出す、自分に客観的に見せる、自分を納得させられる。そして、気持ちが前向きになると人は行動が変わる。

やってみよう。長い時間家にいるからできること、いいこと、を私は書き出してみた。
PCしながら窓からいつも緑が見える。焼きたてのパンを買いに行ってお昼ごはん。毎日好きなお茶碗を選んで抹茶を点てる etc。そんな、それとない、ちいさなことばかり。でも日常の幸せってこんなことなんだよな、どれも自分らしいな、と気づく。ことのほか数がたくさんあって、嬉しくなる。ちょっといいものを見つけた気分。

次に、家でやりたかったこと、家をこうしたいと思っていたこと、も書き出した。
これまた案外どれもすぐにできた。憧れそのものではなくとも、工夫すれば近いことができた。それに、家はもともと居心地はよかったのだ、私の気持ちが肯定的ではなかっただけだった。
書き出す。気づく。やっていく。この3ステップで、とにかく“やってみる”ことで変わる。私自身の実感だ。

このほかにもたくさんのヒントがある。未来シナリオをイメージして備える(第13章)は、シナリオプラニングという手法の実践編。感謝のことばを伝える、ことばのギフト(第14章)は、コミュニケーションの極意。これまで見聞きしてきた方法論やコツも、アレンジによってぐっと引き寄せられる。
そしてこれが、著者 井庭崇くんの専門性でもある。

井庭くんはfacebookで、日々の生活をアップしている。子どもたちと野菜をつくり、その収穫を、ご馳走を、時間を、楽しんでいる様子。オンライン授業の試行錯誤を惜しげなく共有し、教える側、学ぶ側、運営側とおおぜいを巻き込んでチャレンジ中。そう、井庭くん自身がヒントの実践者、試行錯誤の実践者なのだ。

コロナ影響下にあって自分にはなにができるだろうか。
自分のためだけでなく家族のため、みんなのため、社会のためになにができるかも考えていく。専門性や、仕事や生活のフィールド、自分の個性や感性をそのためにいかす。
いろんな分野で見出されたコツを集めることが井庭くんの専門だ。研究とは、用いられ、役立つためにある。井庭くんとは大学の同級生なのであるが、この研究者然とした姿勢は、私まで誇らしくなる。

私たちはいま「先行きの見えないなかで、ストレスと不安を抱えながら暮らしています。」と本書ははじまる。私たちそれぞれが、創意工夫し、試行錯誤しながら、「自分達のよりよい暮らし・働き方・学び方をつくっていくしかない」、一緒にそれをやっていこうではないか。メッセージとそのためのヒントがぎゅっと、本書にはつまっている。
そしてこうしめくくられる。いろいろ大変なことばかりだが、それも自分たちの「人生の大切な一部」、「将来、≪楽しい記憶≫として思い出される」ような日々にしていこう。「感染症に関係を侵された時代というだけでは終わらせず、身近な人との関係を紡ぎ直した時代として過ごしていこう」と。

わかるよ。当たり前だよ。そう思った方こそ、読んでほしい。
やればできるよ。簡単でしょ。そう思った方こそ、素直に、愚直に、実践してみてほしい。
そう、いくらでも変えられるのは、自分の発想、考え方、行動。いくらでもできるのが工夫、試行錯誤だから。

(湯川 真理)

コロナの時代の暮らしのヒント
著:井庭 崇 ; 出版社:晶文社; 発売年月:2020年9月;
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