KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2005年08月09日

『会議が変わる6つの帽子』

著者:エドワード・デ・ボーノ; 訳者:川本英明
出版社:翔泳社; ISBN: 4798103500
本体価格:1,600円 (税込:1,680円); ページ数:264
書籍詳細

A氏:「この手法の問題点は、使う人によっては全く効果が出ないところですね」
B氏:「でも、実際にあの会社ではこれで25%のコストが削減されたようだよ」
・・・Bさん、それは白い帽子での意見であって、今はAさんのように黒い帽子をかぶってご意見していただきたいのですが。


B氏:「あ、すいません。では黒い帽子をかぶり直して・・・。さて、Aさんに追加すると、この手法は使いこなせない人のモチベーションを低下させるリスクがあると思います」
・・・ありがとうございます。では、このあたりで全員黄色い帽子をかぶってみましょうか。
A氏:「この手法は、とにかくコストがかからないということがメリットですね」
B氏:「それと、トレーニングに時間がかからない!」
□ □ ■ □ ■ ■ □ □ □ ■ □ ■ ■ □
・・・・・・とある会議でのこのやり取り。「*色の帽子」などという、見慣れない言葉が飛び交っています。それに、Aさん、Bさんは、この手法の採用に賛成しているのか、反対しているのか・・・どちらなのでしょう?
実は、これが「6つの帽子メソッド」による会議なのです。
著者であるボーノは、「考えることの最大の敵は多くのことを一度に考えようとしすぎること」であり、「考える時には一度に一つのことを考えるようにすること」が大切だと説いています。
そして考える時の視点を6つに分類し、それを“帽子”にたとえ、意識して使い分けることを薦めています。
では、その6つの帽子(考える時の視点)をご紹介しましょう。なお、説明には私なりの解釈も加えてあります。

  • 白い帽子:客観的データ・事実等の情報の視点
  • 赤い帽子:主観的直感や予想・感情等の感覚の視点
  • 黒い帽子:デメリットへの消極的姿勢・危機回避等のネガティブな視点
  • 黄色い帽子:メリットへの積極的姿勢・希望的観測等のポジティブな視点
  • 緑の帽子:新奇性と変化・発散による選択肢の拡大等の創造の視点
  • 青い帽子:論理性と構造化・整理とプランニング等の管理の視点

いかがでしょう? これらの帽子を使った思考、個人でも使えそうです。
たとえば、何かをやるべきか考えている時に、そのメリットとデメリット、やりたい気持ちと尻込みする気持ちなどが混在し、考え込んだりした経験は誰しもあるはずです。こうした「考え込む」ことを防止し、効率的に「考え抜く」には、「今はどの視点で考えているのか」を自覚(意識)することが有効です。
つまりこのメソッドは、“色”を使って「意識的な思考のギアチェンジ」を行わせる、ということがポイントなのです。
これは私が講座の中で紹介している、『視座(誰の立場から見るか)・視野(どの範囲を見るか)・視点(何にフォーカスして見るか)』を変えて見る、という“多様なモノゴトの見方”と「意識的な思考のギアチェンジ」という点で共通していると言えます。
そう、人は一度に多くの見方や考え方を行き当たりばったりに行おうとすると、うまく整理したりまとめたりできなくなってしまうのです。
さて、そう考えるとこのメソッド、やはり冒頭のような「会議」において、より大きな効果を発揮しそうです。
賛成意見と反対意見が入り乱れたり、感情論に走ったり、予想なのか客観的事実なのか判然としない意見があったり・・・その結果、論点は飛びまくり会議が迷走した、などという経験はありませんか?
まさにそこでは、「複数の視点が混在し、混乱して考え込む」という個人の頭の中と同じ状況が起こっているのです。
ここで冒頭の会議のシーンを思い出してみてください。
A さんは、ある手法を採用することのデメリットを述べています。つまり彼はこの時黒い帽子をかぶって考え、発言していたのです。それに対してBさんは、具体的データを挙げて反論、つまり白い帽子で意見してしまったため、会議の進行役からたしなめられ、再度黒い帽子をかぶり直しましたね。(厳密には白い帽子の時には事実やデータを提示するだけで、そこに個人的見解を入れてはいけないのですが)
その後会議の論点はこの手法のメリットに移りました。ここでは先ほどデメリットを語っていたAさん、Bさんともに一転して黄色い帽子の意見を述べています。
我々が会議で意見を述べる場合、このケースでいうと「手法の採用に否定的」であれば、終始否定的な姿勢をとりがちです。デメリットを探すことに血道を上げ、この手法の良い点など考えようともしないでしょう。その結果、自分に対する反論を「どう論破するか」「どう説得するか」で頭の中がいっぱいになってしまえば、それはもはや“生産的な会議”ではありません。
その気になれば見つけられるメリット/デメリットが、会議の中で挙がらないとしたら、それは単純に「もったいない」ことであり客観的かつ適切な意志決定をも阻害していると言えます。
「じゃあ自分の主観的意見はいつ出せば?」
ご安心ください。そのために赤い帽子があります。赤い帽子をかぶっている時は、遠慮無く主観で、それも好き嫌いや勘といった感覚で意見してください。さらにいえば、なぜそう感じるかという理由を述べる必要すらありません。それはその後、別の帽子(白・黒・黄色)をかぶった時にみんなで考えればよいのです。
この赤い帽子のおかげで、「誰でも」、極論すれば昨日入ったばかりの新入社員ですら、会議の場で主張することが可能になります。
また緑の帽子をかぶった時には、ブレーンストーミングやアイデア出しは、よりゲーム性を帯びた、ワクワクする時間になるかもしれません。
・・・ではそろそろ、黒い帽子もかぶりながらこの本について考えてみましょう。
このメソッドは、まずコンセプトとしては素晴らしいと思います。ただ、メソッド通りに運用し、効果を上げようとするなら、かなりのトレーニングと慣れが必要でしょう。・・・特に、『青い帽子』の使い方において。
青い帽子とは、「考え方を考える」時にかぶります。
会議においては、「進め方を考える」時、まず会議の最初では必須でしょう。そしてこの本では、この青い帽子を「帽子をコントロールする帽子」としても説明しています。つまり青い帽子とは、『会議のファシリテーターのための帽子』なのです。
「6つの帽子」というコンセプトがいかに素晴らしくても、青い帽子をかぶったファシリテーターが上手にみんなの帽子をコントロールできなければ、会議はまた混沌の支配する世界に戻ってしまいます。
「なぜ今頃(白い帽子で)客観的データの確認をやっているのだろう?」
「どうしてこの案のデメリット面しか(黒い帽子で)議論させてくれないのだろう?」
青い帽子は責任重大です。
帽子の色が象徴しているように、構造化スキルに支えられた「ロジカルな思考」も必須です。そして会議が終わった時には、脳がオーバーヒートしてぐったりしてしまうでしょう。
しかしそれだけ「かぶりがい」のある帽子です。
私自身ファシリテーターとして会議の成功を実感し、参加者からも「いやあ、今日の会議は充実してました」という言葉をもらえた時は、飛び上がって喜びたいのを我慢しています。
ビジネスにおいて会議が無くなることはありません。しかし会議の現状を見れば、生産性の低い会議が蔓延しているのも事実です。
私は、この「6つの帽子メソッド」が万能だとは思いません。企業が全社的に一斉に導入できるほどシステマティックではありませんし、何より青い帽子をかぶったファシリテーターの高いスキル(人間性の部分も含めて)が要求されるからです。
しかし、現在ファシリテーターとして活躍されている方、またはこれからファシリテーターとして活躍したいと考えられている方にはぜひ知っておいてほしいメソッドです。
個人的には、ファシリテーションとは、スキルというより“芸”に近いと考えています。だから、常に自分の“芸の幅”を広げていくことが必要です。そして、この「6つの帽子」は、まさにそのためには最適なコンセプトだと思うのです。
(桑畑幸博)

会議が変わる6つの帽子

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