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『考える力をつけるための「読む」技術―情報の解読と解釈』

2006年03月14日

著者:妹尾堅一郎
ダイヤモンド社; ISBN: 4478490309; 2,000(税込2,100)円; 275P
書籍詳細

「リテラシー」という言葉を私がはじめて聞いたのは、もう15年以上も前になる。ちょうどコンピュータにはじめて触れたときである。そもそもコンピュータとは何なのか、どう使うのか、何ができるのかもわからず、何でもできてしまう万能の機械という幻想をいだいていた。ところがそんな幻想を抱いていた私に「コンピュータは単なるツールである」という衝撃的な言葉とともに、「コンピュータ・リテラシー」というはじめて聞く言葉は、強い印象を与えた。今思えば至極当たり前なことではあるが、コンピュータは人が使いこなしてこそ便利な道具であり、その使いこなす力が必要なのである。


「リテラシー」とは「読み・書き・算盤」という訳として紹介された。「読み・書き・算盤」といわれてまず思い出したのは、小学校の国語や算数の授業、そして、次に、時代劇などで見る江戸時代の寺子屋の風景だった。つまり「コンピュータ・リテラシー」と言われてもピンとこなかったのである。だが、コンピュータを使っていくうちに、「リテラシー」の意味することが、徐々に体でわかってくるようになった。コンピュータを使うためには、使うための能力が必要である。それは、タイピングといった表面的な操作というスキルだけではなく、コンピュータを人間活動に有効なツールとして使いこなすための知的能力である。
情報社会といわれて久しいが、いわゆる情報リテラシーを身につけることはビジネスパーソンとして重要である。それは、表面的な字の読み・書きではなく、より深い意味での情報の読み・書きである。つまり、情報を解釈する力やものごとの本質を理解する力、表現する力やメッセージを伝達する力である。本書では、リテラシーの中でも、基本となる「読む力」を鍛える方法について、著者の理論や経験に基づき、また具体的例を交えながら解説している。読み方のハウツーではなく、読む行為の本質を説き、「知」のあり方を探り、読む対象である知的生産物の捉え方まで含めて、「読む」ことに迫っているのである。
本書は、9章からなり、第1章では、そもそも「情報を読む」とはどういうことかを述べ、それに続く第2章以降で、「図・表」「統計」「新聞」「専門分野の本」「百科事典」「年表」「ウェッブサイト」「学問と理論」とそれぞれの情報源やメディアの読み解き方を解説している。各章では、それぞれの情報の特徴を整理し、読むときのコツや注意点、落とし穴をわかりやすくまとめている。また、各章につけられている副題には、その章の最も大切なポイントがわかりやすい一言で書かれている。読み終わった後に見かえすと、その章で書かれていた事をもう一度思い起こすことができる。
本書で述べられていることは、単なるハウツーの紹介ではないため、自分の今までの「読む」行為を振り返り、自分の癖や習慣を見直すとともに、効果的な読み方を納得感をもって考えることができる。私が特に印象に残った部分を2点紹介したい。
まず、第5章の「専門分野の本」を読む技術である。ここでは仕事のために読むことを念頭においた専門書の読み方を解説しており、「段階的知識習得型読書法」と「経験学習型読書法」の二つの方法を紹介している。前者は、いわゆる学校で教わる読み方であり、教科書→専門書→学術書という順序で、階段を一段一段上がっていくように知識を基礎から順序よく身につけていく読書の方法である。後者は、基本から応用へという一直線の段階を経るのではなく、自分自身の興味や関心を基点にして探索しながら読書を進める、いわば新しい学習モデルである。
両者はどちらがよいかという優劣があるのではなく、それぞれに意味があり、相互に補完しあう読書法である。「段階的知識習得型読書法」は、既存の定説を知ったり、基本的なコンセプトやフレームワークを習得するために適しており、「経験学習型読書法」は、自分なりの解釈やコンセプトを築くときや、新しい考えを創出するときに有効な読書法だという。また、さらに読み方の工夫として、好意的に読んだり、批判的に読んだりしながら、問題意識を持って読むこと、問題意識を得るために読むことを行き来して知的に本を読むことの醍醐味を語っている。
2点目に紹介したいのは、「ウェッブサイト」を読む技術である。ウェッブサイトはすでにビジネスや生活において欠かすことのできない存在となっているが、あまりにも急激に発展、浸透したために、そのリテラシーをしっかりと身につけてこなかったのではないかと、自分でも反省をしている。
検索エンジンの技術が進歩し、一瞬にして膨大な情報が簡単に手に入るが、その真偽を見抜く目や取捨選択のしかた、情報を整理統合する力など、情報活動の基本能力がますます求められるようになっている。ここで陥りやすい落とし穴として、「ケアレスミス」「背景となる知識の不足」「一次情報や公式な根拠の軽視」「情報鮮度を確認しない」「どこまでが“全部”か、調査範囲の確認の手抜き」の5つ紹介されている。どれもこれまで自分自身が犯した失敗であることを痛感した。容易に情報収集ができるようになったからと言って、それが自分のリテラシーによるものではなく技術の進歩によるものであり、それにあわせた高いリテラシーを習得することが必要なのである。
さらにこの章では情報活動における思考法の興味深い記述がある。人間の思考法には、「散策」「検索」「探索」の3つのモードがあり、インターネットにおける情報収集では、この3つのモードを組み合わせて使いこなすことが大切だという。「散策」とは無目的にあちらこちらをめぐること、「検索」とは目的・目標がありそれに向かって効率的に到達しようとする活動、「探索」とはその2つの中間で、ゆるやかなテーマや問題意識のもとに関連ある情報を入手しながら気づきや発見していく活動のことである。インターネットは探索向きとは述べているが、この3つの思考モードを組み合わせて情報活動をしていくことが重要なのである。
その他の章にも、それぞれの情報の特徴分析や読み方をわかりやすく解説しているので、ぜひ関心があれば読んでみてはいかがだろうか。
本書の、“考える力をつけるための”読む技術、というタイトルが示すように、そもそも「考える」ことは「読む力」がなければ成り立たない。「読む力」は、知的活動の営みを支えるもっとも基盤となる能力である。「考える力」をつけるための「読む力」をもう一度ひとつひとつ振り返り、情報社会に求められる高いリテラシーを修得し、知的活動を楽しんでいきたいと思う。
(井草真喜子)

考える力をつけるための「読む」技術―情報の解読と解釈

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