今月の1冊
2006年05月09日
筋肉で音を奏でるミュージカル ─マッスルミュージカル─
ふとしたきっかけから、私が「マッスルミュージカル」なるものを観に行きはじめて1年になります。
そもそもマッスルミュージカルは「筋肉番付」という身体能力を競うテレビ番組が、テレビという枠を超えて舞台公演を行っているものです。その存在は以前から知っていたものの、そもそも舞台というものを見た経験がなく、加えて「筋肉」というとボディービルのようなイメージが、「ミュージカル」というと歌や踊りでストーリーが進んで行くというイメージがあり、正直あまり興味はありませんでした。
ところが実際に行ってみると先入観と全く異なり、驚きと笑いの連続で、とても楽しいものでした。
東京地区の会場であるマッスルシアター(マッスルミュージカル専用劇場)は横浜みなとみらい地区の港にあります。舞台の背後はすぐ海である立地をうまく利用して、舞台の後ろを開いて昼は水平線、夜は夜景をステージに取り込んでいます。
客席は1000人以上が入る大きな会場です。野球場のような簡易椅子が階段状に並んでいて、休日や夏休みには連日満員になるといいます。お客さんを見回すとお揃いのマッスルTシャツを着た家族連れや友人同士などが多い中、年配のご夫婦などお年を召した方も多くいらしていることがとても意外に感じられます。
さて内容についてですが、マッスルミュージカルには開催毎の大きなテーマはあるものの、歌も台詞も物語もありません。ダンス、飛び箱、トランポリン、マウンテンバイクなど、私たちが一度は体験したさまざまな要素や、反対にラートといった初めて目にする競技を盛り込んだショーが全体で20以上続きます。アクロバティックな技や美しいダンスがテンポよく繰り広げられる合間にコントや客席参加のちょっとした体操コーナーもあり、1時間半の時間はあっという間に過ぎていきます。
出演者は有名・無名を問いません。オーディションを勝ち抜いた、優れた身体能力の持ち主ばかりです。得意分野や過去の経歴は実にさまざまです。競技名で挙げると体操、新体操、ダンス、クラシックバレエ、トランポリン、MTB(マウンテンバイク)、ラート、中国雑伎団、スピードスケート、チアリーディングなどの経験者が、そしてそのレベルはオリンピックメダリスト、世界ランカー、全日本選手権優勝、日本代表メンバーから大学の部活動経験者や現役高校生まで色々なメンバーで構成されています。年齢も18歳から最年長は40歳!という幅広さです。
時に、外国からの舞台やパフォーマンスはその完成度が高すぎて「同じ人間とは思えないほどの遠さ」を感じてしまい、素晴らしい一方で「それはそれ」で終わってしまうことがあると聞きます。
一方マッスルミュージカルは「がんばれば自分にも何かできることがあるのではないか?」と思えてしまうようなほどよい距離感、親近感があります。その要因としては先ほど挙げたメンバーの幅広さもありますが、それ以上に経歴も得意分野も年齢も異なる総勢約50名のメンバーのひとり一人が各々の得意分野を常に磨きつつ、さらにメンバー同士の技を組み合わせた新しい技や見せ方に挑戦しているところにあると思います。
たとえば、私がマッスルミュージカルを観に行くきっかけとなった出演者の友人はチアリーディングの出身で、上に高く跳ぶ(跳ばされる)役割を担っています。勢いよく高く跳ぶだけでも見応えはあるのですが、昨年末の公演から新しい技を取り入れました。通常のハイジャンプに長縄跳びを加え、3~4人くらいのチームで長縄飛びをしながらその輪の中でハイジャンプをするというものです。
持ち技の特徴を活かしつつ、新しい技に挑戦するには当然リスクが伴います。新技に挑戦して、万が一失敗してケガをしたら、それまでの持ち技どころではなく出演そのものが危ぶまれます。しかし常にテーマを変え、見せ方を変え、観客を飽きさせないようにするためには避けられません。そのため公演までに何度も何度も練習し、完成度を高めた上でディレクターの許可を得てはじめて演じることができます。舞台でのお披露目を果たした後も、毎回成功させてさらに完成度を100%にまで高めていくことが求められます。
私は偶然にそういった裏舞台を知ることでより親近感が深まりましたが、仮に知らなくても、年間で3期行われる公演を通してお客さんは少しずつ彼らが進化していることを感覚的に捉えているのでしょう。(私のように)継続して観に来るお客さんが多いこと、毎回チケットを取るのは困難なことは一つの表れだと思います。
今年の春、マッスルミュージカルは念願のラスベガス進出を果たしました。多数のメンバーが渡米した都合もあり、今期開催中の出演者は多数の新人メンバーが加入したそうです。これまでの公演を観てきた観客にはなじみの顔や演目がなくて寂しく感じられるような気もしますが、同時に全く新しい演目との出会いも期待しています。
たとえば現在開催中の公演は『夕学五十講』でも登壇していただくシンクロスイマーの武田美保さん(アトランタ、シドニー、アテネの3つのオリンピックで銀・銅・合わせて5つのメダルを獲得)が出演されています。舞台上に巨大水槽を設置し、それまで「上から観る」シンクロナイズド・スイミングを発展させ「水中を魅せる」技を披露されているそうです。
「誰もが楽しめ、元気になる」1時間半の公演後は、皆が笑顔になって帰っていきます。
すっかり「マッスル慣れ」した私の最近の楽しみ方は、「マッスル初心者」を連れて行くことです。皆、口を閉じるのを忘れて見入っています。
普段アタマの筋肉に偏りがちな生活を送ってしまい、身体感覚を忘れそうになっている方には特にお勧めです。たとえ私のように「今日から腹筋やるぞ!」といって3日で終わったとしても…。
(今井朋子)
マッスルミュージカル オフィシャルWebサイト http://www.musclemusical.com/
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~稲盛経営哲学を出発点として~
劉 慶紅
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
日本経営倫理学会常任理事
稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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『VIVANT』とテレビ局社員
福澤 克雄
(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
私にとっての道は、TBSにありました。『VIVANT』は、同じような夢を持つ若者たちの道標になってほしい、そんな思いも込めてチャレンジした作品です。日本のドラマ界、映画界を目指す皆様、夢はあるけど方法がわからない皆様の一助になればと願っております。
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