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『ビロードのうさぎ』

2008年10月14日

原作:マージェリィ・ビアンコ ; 抄訳・絵:酒井駒子 ; 出版社:ブロンズ新社
発行年月:2007年4月; ISBN:9784893094087; 本体価格:1,500円 (税込 1,575 円)
書籍詳細

ここ数年、絵本に興味をもつ大人が増えていると聞きます。
深く味わいのある作品、普遍の真理を説く作品、愛や夢の大切さをやさしく教えてくれる作品、人情の機微に触れることのできる作品など、絵本で描かれる世界観は、大人が十分楽しめる、また考えさせられるものです。
幼い頃絵本に囲まれていた私も、いつのころからか、絵本を手にすることも少なくなりましたが、ここ数年、いろいろな場面で絵本に触れたり、紹介されたりすることが増えてきました。
書店の絵本コーナーにいくと、とても目立つところに置かれており、帯
に書かれた

圧倒的な支持をあつめて
『月刊MOE』2007年絵本ベスト
『この絵本が好き!』2007年の絵本(国内絵本)
堂々の第1位!

という言葉が目に入ってきました。


手にとって、裏返してみると、帯の裏には、大人自身の感動の言葉が綴られています。まさに、大人の方にも手にとってほしいと紹介されるだけある絵本です。
表紙には、愛らしくもどこかにせつなさをたたえた表情の緑色の目をした茶色のうさぎの絵が描かれています。
原作はMargery Williams Biancoが1922年に書いた名作『The Velveteen Rabbit』です。世界中で翻訳され、今なお多くの人に読み継がれている作品です。それを酒井駒子さんが抄訳して絵本化したのが、この『ビロードのうさぎ』です。酒井さんの絵本は2007年初版ですが、それまでにも他の方によって、『ビロードうさぎ』や『ベルベットうさぎのなみだ』などいくつかの翻訳書や絵本が出されているそうです。
ビロードでできたおもちゃのうさぎが、クリスマスプレゼントとしてぼうやの家にやってくるところから、物語は始まります。いくつものおもちゃをもらったぼうやは、うさぎのことを忘れ、一度はおもちゃの棚に追いやってしまいます。うさぎはおもちゃの棚で、優しく接してくれるウマのおもちゃに、ぼうやに心から大切に思われたおもちゃは本当の友達になれる、本当のものになれると教えられます。ある日から、うさぎはぼうやと毎日一緒に遊んだり眠ったりするようになり、ぼうやに「ほんとうのうさぎ」としてかわいがってもらえるようになります。ところが、ぼうやが病気になったのを境に、幸せな生活が突然終わりを迎えてしまいます。でも、うさぎが流した悲しみの涙から妖精が現れ、ビロードのうさぎが本物のうさぎになる奇跡が起こるのです。
うさぎの愛らしく健気な姿とせつない気持ちの揺れ動き、うさぎとぼうやとの愛情と友情に溢れた日々と心のかよいあい、それと対照的に描かれる大人の心ない言葉や行動など、丁寧に描かれるその物語に、読み進めるうちに、せつなさとあたたかさがこみ上げてきます。
読後、“ほんもの”という言葉がとても印象に残り、考えさせられました。うさぎが問いかける「“ほんもの”って どういうこと?」という言葉が、私の心にも突き刺さります。

「ほんものというのはね、ながいあいだに
 子どもの ほんとうの ともだちになった
 おもちゃがなるものなのだ。
 ただ あそぶだけではなく、こころから たいせつに
 だいじにおもわれた おもちゃは ほんとうのものになる。」

と、ウマのおもちゃが話します。
この物語では、奇跡がおき本当のうさぎになる姿を、象徴的に描いています。奇跡という物語らしいエンディングで締めくくられますが、所詮絵本の世界だとは流すことはできない、“ほんもの”ということばが、深く残ります。
私は、周りのものや、接してくれるひとたちを、心から大切にだいじにし、お互い“ほんもの”の存在となっているだろうか、また、私は周りのひとたちから、“ほんもの”と思われるような、心の通い合いや関係性を築いているだろうか、うさぎとぼうやの姿を通して、自分自身を振り返ってしまいます。
酒井さんの絵は、うさぎのせつない気持ちがにじみでるとても物語にぴったりあった画風で、うさぎの存在感を際立たせています。うさぎの目の色が緑色に描かれているのが、なんともいえない不思議さを感じさせますが、最後のページで、それは、ほんもののうさぎとの対比であったことに初めて気づかされます。最後に描かれる、ほんものになったうさぎの目は、黒く描かれているのです。酒井さんが、ことばのひとつひとつ、挿絵のひとつひとつを、大切に書き、描いていることが、とても感じられます。
“ほんもの”ということばを噛み締めながら、これからも折に触れ読み返したい、たいせつな一冊となりました。
(井草真喜子)

ビロードのうさぎ』(ブロンズ新社)

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