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私の”轍”を築く-『リーダーは自然体』を読んで

2011年01月11日

出版社:光文社(光文社新書) ; 発行年月:2010年6月 ; ISBN:9784334035679 ; 本体価格:820円(税込価格861円)
書籍詳細

 ストレッチ目標とストレッチ面談。
私の所属する部署では、年に1回、これからの1年間、自分が仕事において何をすべきか目標を立てるとともに、その目標について語りフィードバックを受けリフレクションをしていく上司との面談が年に2回ほどあり、これらをそれぞれ「ストレッチ目標」「ストレッチ面談」と称しています。
 他者と比較したり相対評価をするのではなく、自身を客観的に見つめ、今の自分ができると思っていることよりも少しでもチャレンジしていくことに意味があり、まさに柔軟体操にてもう伸ばすことできないと思っていた筋肉を少しずつほぐし伸ばしていく”ストレッチ”のイメージで進めていきます。


弊社ではこのストレッチ目標を、ジョブストレッチ(Job Stretching:仕事の幅を広げるためのチャレンジを記載)とバリューストレッチ(Value Stretching:仕事をするうえで大切な価値観や想い、新たな視点を記載)の二項目にわたって、数値、実績などの定量目標ではなく、個性が滲み出てくるよう各自が思い思いに文章化し定性的に記していくことに重きが置かれています。そして、ストレッチ面談は、各自が立てたストレッチ目標に沿って上司マネジャーとゆっくりと時間をとって語り合うものであり、具体的な業務についての内容というよりも、むしろ、どういった想いでこの1年間仕事をしていきたいのか、1年後の自分の成長地点をどこに持っていこうとしているのかを確認する大切な場となっています。
 ストレッチ目標を立てる時期は、正直、少々憂鬱です。この1年間、先に立てた目標を念頭に頑張ってきたという自負はあるものの、本当にやってきたのか棚卸をしていくとともに、これからの1年間はどのようなことを大切に仕事をしていきたいのか、自分に問いかけ、ストレッチ(=成長)させていくよう働く一人の”人”として幅を広げることができるような行動を考えなければなりません。この時は、1年後の自分を思い描くことの楽しみよりもむしろ、今の自分からさらに成長し続けることはできるのか、自分が”伸びきったゴム”のように思え、変化を続けることへの不安を感じ、自信を失うことも少なくないからです。 そこで、勇気を持たせてくれるのがストレッチ面談の存在です。自分が記した(時にまだ自信を持つことのできない)目標について、上司と時間をかけて対話することにより、必要に応じて諭し背中を押してもらうことにより、昨年よりさらに良い仕事ができるよう、そしてさらに一段高い視点から自分を見つめ、世界観をつくることができるよう気持ちが高まっていきます。何よりも、自分が記した目標をあらためて他者に語ることにより、頭のなかは整理され、具体的に何をすべきか見えてくるから不思議です。相手に何かを語り、それについて、また新たな視点を投げかけてもらいながらさらに深く考えていく…対話の持つ力を感じるとともに、1年をふりかえり、次を思い描くために私にとって大切なひとときです。
 とは言え、このストレッチ目標と面談。いつもが順調にうまくいくわけではありません。私は、ストレッチ目標を立てるようになり丸7年になりますが、ちょうど2年前、何一つ目標を描くことができず、今後の展望を見つめることのできない時期がありました。世の中ではこれをスランプというのかもしれませんが、転職して今の仕事に就き約5年経っていた当時、仕事への変な慣れを勘違いし、もうこれ以上、習得するものはないと思い込んだ奢りと、毎日の連続をマンネリしている日々と思い込み、何か工夫することも嫌になり思考停止に陥っていたのかもしれません。ともかく、次の年に向けた目標を立てることもできず、白紙のまま提出し、今から思えば、上司もさぞ驚いたことに違いありませんが、その時のストレッチ面談は今でも忘れることができません。
 仕事のこと、プライベートのこと、とりとめもなく続く私の不安や悩みを辛抱強く聴き、何かサジェスチョンを与えるわけでもなく、ただただ受け止め「今は悩みたいだけ悩んでみたら」とだけ伝えてくれたその姿に、今は感謝するばかりです。そして、その面談にて、自分の想いを吐露したおかげでしょうか。「初心を忘れずに」と「目の前にあることを一つずつ取り組んでいく」ということを確認し実践していくなかで、少しづつながらも、頭のなかを支配していた”もやもや”したものが晴れ、次に自分がどう進むべきかクリアになっていたように思います。
 人はもっと頑張ろうという前向きな気持ちになるときに、動機付け理論でいう「認知」と「賞賛」を欠かすことはできないと言います。私はこの時のストレッチ面談を、今はニッチもサッチも行かないように思えても、それでいいんだ、無理に進もうとせずに今はそのままでいいんだと”今の自分”を”認知”してもらえた貴重な時間であったようにふりかえります。あの踊り場があったからこそ、次の階段へと進むことができたように今思うのです。
 この年始休暇中に、『リーダーは自然体』を読み、当時悩み、上司・先輩・家族をはじめ周りの方々に目には見えない数々の力で助けていただいたことが、今の自分にとってかけがえのない軌跡になっていることを強く感じました。
 本書は、多くの人にとって興味ある生き方、働き方をされていながらも「自分はふつうの人である」という自覚を持ち続けている増田弥生さんを主役に、その道のりをリーダーシップ、キャリア、モチベーションなど人の発達や心理的側面の研究家である神戸大学 金井壽宏先生が聞き手、コメンテーターとなり、増田さんのナマの語りと、それについての学問的解説が加えられた大変興味深い1冊となっています。増田さんは、日本企業に「ふつうの社員」として入社し、雑務、秘書業務をこなし、海外業務、日米合併事業の立ち上げ・撤収業務の経験後、人事の世界に入り、Human Resourceの先駆企業でもあるリーバイス日本法人にての組織開発、グロバールリーダーシップ開発について一から学び実践し、その後、アメリカでナイキ・アジア太平洋地域の人事部門にトップに就いたという異色であり華麗なご経歴をもつ方です。
 本書は、チャレンジフルでありながらもしなやかで無理のない生き方、働き方のなかで自然にリーダーシップを身につけてこられたという増田さんの”旅”をもとに、リーダーシップの発揮の仕方、リーダーシップの見つけ方を主眼に置いたものではありますが、私は、増田さんが働き生きているなかで、多くの人とつながっていることから、たくさんの気づきを得て、多くを学び、専門性を深め、その結果リーダーシップを築いていらっしゃることに感銘を受けました。そして、それは仕事をしている状況のみならず、キャリアチェンジを図るなかで仕事から離れている時、ボランティアをしたり近所の子供たちとの触れ合いのなかからも、タイトルにもある”自然体”である自分を、自分がまず受け容れ、そこから感じることを成長につなげている姿に強く共感するのです。
 人は人のつながりのなかで生き、お互いに対話し、ふりかえるなかで成長すると言います。そして、そのなかで何に気づき、感じ、感動し、次の行動に積極的につなげることができたか…実践とはまさにその繰り返しであり、それが成長につながることだと思っています。
 今年もまたストレッチ目標にて自分が立てた目標、描いた成長の姿を頭の片隅に置き、日々暮らし働くことでしょう。そして、また来期に向け、新たな目標を据えていくことと思います。これからも目標を立てることに躊躇する自分に出会うかもしれません。その時には、それを受け容れ、またその場を共にし目には見えない力で助けてくれる周りの方々に感謝しながら進んでいきたいと思います。
 その時には必死であり見えないものであっても、あとで振り返ったときにかけがえのない私の”轍”となっているはずだから…。
(保谷 範子)

リーダーは自然体 無理せず、飾らず、ありのまま』 増田弥生/金井寿宏(光文社新書)

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