KEIO MCC

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夕学レポート

2003年03月11日

和田 秀樹 「40歳からの勉強法」

和田秀樹 ヒデキ・ワダ・インスティチュート代表、川崎幸病院精神科顧問
 >>講師紹介
講演日時:2002年11月7日(木) PM6:30-PM8:30

11月7日(木)の夕学五十講は、あのベストセラー「大人のための勉強法」の著者、和田秀樹先生のご講演でした。さすが勉強法を説かれるだけあって、論旨明快で、実にわかりやすく、また得られるものが多かった2時間でした。和田先生のお話の中心テーマは、「どうやったら頭が良くなるか」ということでしたが、それには、IQ的な頭の良さを磨くことと同時に、EQ(心の知能)を鍛えることが重要であるという点が、とても新鮮でした。

まず、IQ的な頭の磨き方ですが、まず大事な点は外部にある情報を頭の内部に取り込むこと、つまり「知識化」(記憶)を高めることだそうです。なぜなら、莫大な情報の中から、価値あるものを見極めるためには、結局、個人が持つ「知識」が必要だからです。

では、どうすれば、「知識化」つまり「記憶力」を高めることができるのか。和田先生は、「記憶力」を3つのプロセスに分けて、それぞれに具体的な処方箋を示してくれました。3つのプロセスとは、「入力」「貯蔵」「出力」です。まず、「入力」を良くするためには、記憶しようとする情報を「理解すること」が大事です。わかることは覚えられる、ということです。そしてまた、その情報に関心を持ち、注意を向けることです。そうすれば集中力が高まり、覚えやすくなるからです。

次に「貯蔵」するためにやるべきこと、それは「復習すること」です。入手した情報は、脳内の一時的な保管場所である、「海馬」というところに入りますが、約 30日で消えてしまうそうです。そこで、早めに復習することで、同じ情報を再度取り込む、そうすると、脳が、これは大事な情報であると判断して、一時保存用の「海馬」から、記憶を長期保持する「側頭葉」の方にその情報を移すのだそうです。

そして、最後の「出力」については、「受け売り」の効用を説かれました。つまり、人から聞いたこと、テレビで見たことなど、要は入力した情報をすぐに他の人に話してみる。「受け売り」は、あまり良くないことのように言われますが、話すこと自体が、「復習」になっているし、理解していないと人には話せないため、そのテーマに対する理解が深まります。ですから、記憶を強化するために、実はどんどん「受け売り」をやるべきなんですね。

さて、和田先生によれば、「無から有は生まない」、つまり入力がないと答えは出ない、ということで、まずは「知識」獲得の重要性を説かれたわけですが、頭の良さとは、「知識」を用いて「推論」を行い、様々な答えを出すことのできる、「問題解決力」を意味するそうです。様々な状況において、柔軟な問題解決ができる人こそが、頭が良いということです。そして、この問題解決力において重要なのが、「メタ認知」(力)です。メタ認知とは、自分のおかれた状況や、自分の認識を客観的な視点でモニターし、コントロールできる力です。この「メタ認知」を働かせることによって、ワンパターンに陥りがちな思考を回避し、柔軟な問題解決ができるようになるのです。

一方、IQ的な頭の良さに加えて大事なのが、精神医学的な頭の良さ、つまりEQ的な能力です。和田先生は、人に聞くのが一番早いのだから、知識を持っている人と仲良くなるために「対人関係能力」が必要であること、また「感情」がメタ認知を曇らせ、間違った判断に導く可能性があるため、自分や相手の感情を知り、コントロールできる「感情コントロール力」や、自分で自分の意欲を維持し続けることのできる「セルフモチベーション力」の重要性を強調されていました。

つまり、和田先生の話をまとめると、頭を良くするには、「知識」「推論」「メタ認知」「対人関係能力」「感情コントロール力」「セルフモチベーション力」といったものをバランス良く伸ばすことが大切なのです。

最後に、和田先生は、中高年の方々に対する具体的な勉強法として、自分の人生経験が活きる学問を選ぶことを提案されました。なにより自分が経験してきた、興味のある学問であれば意欲を維持しやすいですし、分野で言えば、自然科学系より人文科学系の方が、年を取っても取り組みやすいそうです。

そして、勉強するやる気がなかなか出ないという方々のために、とっておきの調査結果を教えてくれました。ある学者がオランダで55歳から85歳までの中高年2,380人を対象に行った調査によると、「心臓病の有無」による死亡率の違いは2倍、「ガンの有無」のよる死亡率の違いは1.7倍であるのに対して「情報処理能力」「流動性知能」(つまり知的能力)の優劣による死亡率の違いは、なんと3倍でした。つまり、長生きしたかったら、病気に罹らないことに気をつけることよりも、勉強して頭を鍛えつづける方がずっと効果的だということです。

長生きの秘訣は、実は‘勉強すること’だった。このことを知ることができただけでも、今回の受講者の方々には福音だったのではないでしょうか?

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