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田坂 広志 「知的プロフェッショナルへの戦略」

2003年04月08日

田坂広志 多摩大学・大学院 教授、シンクタンク・ソフィアバンク 代表 >>講師紹介
講演日時:2003年1月21日(火) PM6:30-PM8:30

今回は、田坂広志氏の登場でした。田坂氏は、数多くのビジネス書を執筆されており、ご存知の方も多いかと思います。今回の講演内容は、昨年出版された『知的プロフェッショナルへの戦略』に沿ったお話でした。


私は、同書が出たばかりの頃に読んでいたのですが、ご本人から直接聞くのは、やはりそれだけの価値がありました。本を読むだけだと、頭で観念的に理解するにとどまります。しかし、直接聞くお話は、頭だけではなく、体全体に沁み込む感じでした。田坂氏が講演の中で、「文字にはできない智恵・知識(ディープナレッジ)を身に付ける方法は、師匠につくことだ」「師匠と同じ部屋の空気を吸うことが大事である」とおっしゃっていましたが、まさに田坂氏というビジネスの達人と、同じ場を共有できる今回の講演に出席された方々は、大きな収穫を得ることができたのではないかと思います。

さて、講演に行けなかったが、ぜひ講演内容全体を知りたいという方、あるいは、講演を聴いたけれども、内容を再確認したいという方は、『知的プロフェッショナルへの戦略』(講談社)の本を読んでいただくとして、受講レポートでは、私が最も心に引っ掛かったところをまとめてみます。

田坂氏によると、「知的プロフェッショナル」は、「知識労働者」(ナレッジワーカー)とは同じではないそうです。これからの知識社会では、すべての仕事において「知識」が求められる状況になります。その点において、知識労働者は“求められる人材”です。しかし、知識社会をリードし、活躍していく人材は、「知的プロフェッショナル」でなければなりません。ここで、「知的プロフェッショナル」とは、どんな能力を持っている人物なのでしょうか。それは、先ほどご紹介した「ディープナレッジ」を持っている人です。「ディープナレッジ」とは、表面的なスキルや専門知識ではなく、名人・達人と呼ばれる一流の人々が体得しているような、本・言葉だけでは学べない、深いスキルや智恵です。

現在は知識の流通革命が起きています。インターネットの普及がそれに拍車をかけました。あらゆる情報が瞬時に、多くの人に共有される時代です。たとえば、企業の中間管理職の役割の一つであった「情報伝達」は、イントラネット、Eメールの登場によって、もはや不要となりました。つまり、知識を単に右から左へと流すだけの人は、中抜きされてしまうということです。また、ほとんどの情報が、インターネットにアクセスすれば簡単に手に入る今、文字になっている知識を持っていることだけでは、価値を生みません。師匠について体で覚えるような「智恵」、つまり「ディープナレッジ」を身に付けることが、知識社会において活躍できるポイントだそうです。

では、「ディープナレッジ」を身に付けるために、我々は、どのような「キャリア戦略」を取ればいいのでしょうか?ひとことで言うならば、田坂氏が言われた「経験を体験に変えること」になるでしょう。それは、日々の仕事を通じて経験したことから、何を掴み取るか、言い換えると、「どんなリターンを得ようとすべきか」ということです。

田坂氏によれば、リターンには4種類あります。まずは、「ナレッジリターン」。文字通り、経験したことから、どんな知識・智恵を得るか、ということです。たとえ新規事業が失敗したとしても、そこから学ぶことはたくさんあります。いやむしろ、人は敗北しないと学べないのだそうです。負けてこそ、謙虚に学ぶ気持ちになれるからです。

次に、「リレーションリターン」。田坂氏は、10年ほどの間に、702社の民間企業と20のコンソーシアムを立ち上げました。うまくいったものも、いかなかったものもあるそうですが、それらを通じて田坂氏が得たものは、各企業のキーパーソンとの、戦友とも呼べる関係でした。単に名刺交換しただけのレベルではない、お互いの力量がわかっている、そんな生きた関係を得たのでした。

さらに、「ブランドリターン」。ブランドは「評判」と言い換えてもいいそうですが、実績や信頼を積み重ねていくことを通じて個人のブランドを確立していくことができます。最後に、「グロースリターン」。仕事とは、自己を成長させる機会でもあるのです。

こうした非常に示唆に富むお話の中で、私が特に心に留めておきたいと思った点は、「個人ブランド」を確立するということです。個人としてブランド(評判)を確立している人は、それぞれ個性的なスタイルを持っています。ナンバーワンというより、オンリーワンであり、「余人を持って代えがたい」、そんな、置き換えのできない人材となっている方々です。そして、個性的なスタイルの裏側には、仕事に対する明確な哲学、思想があります。こだわりや、精神的な価値を大切にしています。田坂氏は、そんな人を「香りがある」と形容していました。

田坂氏は、講演の冒頭でいきなり本質に触れ、“そもそも、ビジネスのプロフェッショナルとは、ビジョンや戦略を立てるだけでなく、アクションプランにまで落とし込めること、つまり、ビジョンを具現化できる人間であり、そこで最も重要なのは、周囲の人を動かすことのできる人間力である”とのお話をされました。したがって、「知的プロフェッショナル」を目指す場合においても、やはり究極的に求められるのは、人間として尊敬できる「パーソナリティ」を有していることです。

“「パーソナリティ」こそが「最高の戦略」である”との田坂氏の結びの言葉は、私の心奥深くまで届きました。

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