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松波 晴人「行動観察のビジネスへの応用(付加価値提案と生産性向上)」

2013年03月12日

松波 晴人
大阪ガス行動観察研究所 所長
講演日時:2012年7月24日(火)

スプツニ子!

1.言語化されていないニーズを把握できる
従来、マーケティング調査として行われてきたアンケート調査やグループインタビュー調査等は、調査対象者に質問し、彼らが語った「言葉」をデータとして収集する方法です。これは、既に顕在化しているニーズを調べることには有効であり、既存製品の改善などに活用できます。
しかし、人々の無意識下にあるニーズ=「潜在ニーズ」は、意識されていないために、言語化はとても難しいのです。そこで、対象者の行動をひたすら観察し、日々の何気ない行動から、様々な気づきを発見する「行動観察」が有効な手法として注目されているのです。松波氏によれば、行動観察は、競合他社製品との差別化を図ることや、革新的な商品開発を可能にするのだそうです。
松波氏は、企業を「小説家」に、消費者を「読者、または批評家」にたとえます。読者・批評家は、読んだ小説(企業の製品)に対する評価は得意です。しかし、読者・批評家に「どんな小説を書けば売れますか?」といった質問を投げかけるべきではないのです。このことは、世界的に有名なデザイン会社、IDEO社が主張している、「イノベーションは観察から始まる」「顧客にたずねるべきではない。本質を見抜くのはお客様ではない」といった言葉からも言えると、行動観察の有効性を示しました。
2.「社会的正義」によるバイアスを排除できる
アンケート調査で、「あなたはトイレで用を足した後、手を洗いますか?」とたずねると、ほとんどの人は「はい」と答えます。ところが、公衆トイレで実際に観察してみると、特に男性は、手を洗わない人が多いことがわかります。「トイレの後は手を洗うべきである」といった社会的な正義や道徳があるため、ありのままの行動ではなく、「あるべき行動」を答えてしまう傾向があるのだそうです。しかし、ありのままの行動を把握する「行動観察」では、こうした社会的正義による回答者のバイアスを排除することが可能です。
さて、行動観察は具体的には以下の3ステップで行われます。
1.観察
生活の場、店舗などのフィールドに行き、客等の動きをひたすら観察し、「事実データ」として記録します。松波氏がスーパー銭湯で観察を行った際には、午前中の開店から深夜の閉店時間まで店舗内に丸2日間滞在し、行動を記録したそうです。
また、生産性向上を目的に、企業のオフィス内での従業員の働き方を観察したケースでは、観察者がいると意識をしてしまうため、代わりに数台のビデオカメラを設置して就業時間中の行動を録画し、離席状況や従業員同士のおしゃべりなどの動きに注目した行動観察データを作成しています。
2.分析
上記の行動観察によって得られたデータを様々な視点から分析し、解釈します。ここで活用するのが、人間工学や、エスノグラフィ、環境心理学、社会心理学、しぐさ分析、表情分析といった学問や研究です。こうした研究分野には、人についての数多くの知見が蓄積されています。こうした知見を元に、人々の行動の「意味」を解釈するのだそうです。
3.改善
行動観察データを元に、具体的な改善提案=ソリューションをクライアントに対して行います。先ほどのスーパー銭湯の場合、全部で113のソリューションを提示したそうです。うち、実際に行ったものの一つを松波氏は教えてくれました。それは、普通はビールサーバーのある食事処に貼ってある、モデルの女性がビールジョッキを持って微笑んでいるようなポスターを、サウナ内に設置されているテレビの下に貼ったところ、生ビールの売り上げは59%の向上につながりました。行動観察を通じて、来店客がビールやソフトドリンクを飲みたいという欲求を喚起できる最適な場所がどこなのかを気づくことができたというわけです。
松波氏は、スーパー銭湯のように、主に「売上拡大」を目的とした行動観察以外にも、5,000人ものホテルのゲストの顔と名前、所属企業名を覚えているドアマンが持つ、ゲストを記憶するための様々な工夫や、トップセールスマンの販売ノウハウ、あるいは、優れた飲食店における従業員のサービス、立ち居振る舞いの特徴的な違いを行動観察を通じて抽出し、従業員のサービスや生産性向上を目的とした教育・研修に展開しているケースなど、過去に実施してきた行動観察の事例を多数紹介してくれました。
顧客が潜在ニーズを言語化できないのと同様、高い成果を挙げている一流の人々は、必ずしも自分たちが取っているどのような行動が功を奏しているのか認識しておらず、「なぜ成果が出るのか」という問いに対してうまく答えられないのだそうです。行動観察では、こうした、いわゆる「暗黙知」を「形式知」に変換することにより、達人のノウハウを他の従業員にも広めることを可能にしているのです。
松波氏は、行動観察は主として、これまでは勘や経験で行なわれてきたサービスを科学する、すなわち「サービスサイエンス」に対して大きな貢献ができると考えています。サービスサイエンスについては、経済産業省や文部科学省などもその普及に力を入れています。また、「サービス学会」の立ち上げも2013年に予定されているとのこと。行動観察に対する注目度合いは今後、ますます高くなっていくのではないかと思います。

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