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三島 邦弘「ミシマ社という名の冒険」

2013年10月08日

三島 邦弘 ミシマ社 代表  >>講師紹介
講演日時:2013年6月4日(火) PM6:30-PM8:30

ミシマ社は、三島邦弘氏が2006年10月に設立した出版社です。本社は自由が丘にあります。三島氏は、同社の特徴を表すキャッチフレーズとして以下のような表現を使っています。
・原点回帰の出版社
・一冊入魂
・自由が丘のほがらかな出版社
・小さな総合出版社
こんなキャッチフレーズからもうかがえるように、ミシマ社はユニークな取り組みや、特色のあるベストセラー本を次々と出していることで、新興の出版社ながら近年注目を集めています。


三島氏が起業にあたり、基本方針としたのは「絶版をつくらない」ということでした。これはまさに他の出版社ではやっていないユニークな取り組みです。その理由として、子供の頃の本屋さんでのエピソード、そして出版社で編集者として働いていた時の経験を話してくれました。
三島氏は子供の頃に、本屋さんで本の取り寄せを頼んだところ、「絶版だからもう手に入らない」と言われた経験があるそうです。小さかった三島少年は、「絶版ってなに?」と理解できず、なぜ欲しい本が読めないということが起きるのか、不思議でかつ、残念に思ったのだそうです。
そして、三島氏は大学を出て出版社の編集者となります。悪しくも出版不況が始まったころで、それまでの「本を出せば売れる」という時代は過去のものとなっていました。また、「不況になると人々が本を読んで能力を高めようとするから出版は不況に強い」という通説が通用しなくなっていました。
このような本が売れない状況において、出版社は新刊点数を増やすことで売上を確保しようとしてきました。実際、新刊点数は1980年代は年間3万冊台だったのに対し、2000年代後半には7-8万冊と2倍以上になっています。結果的に、毎日たくさんの新刊が世の中に登場する一方で、売れない本はすぐに出版社に返品され絶版扱いとなり、断裁処分されてしまっていました。
三島氏自身、1年に20冊もの新刊を並行して担当し、そのサイクルの速さに戸惑っていました。そして、絶版となる本が増えることで、読みたい人が読めなくなるという出版業界の状況に罪悪感を感じていたことから、ミシマ社の出す本は絶版にしないということを決めたのだそうです。
三島氏は、絶版にしないためには、永続的に売れるような本、すなわち普遍性のある内容の本を企画したいと考えています。普遍的であるために大事なことは、必ずしも抽象的な内容を目指すことではなく、むしろ、今の空気を読み、現状を照らし出し、今後の方向性を示すような「現代性」を帯びた内容のほうが、長く読み継がれる本になると指摘します。
例えば、明治時代に生きた夏目漱石は、当時の人々の生き方、考え方、世相を反映した小説を残していますが、時代背景は異なっても書かれている内容は普遍的なものであり、今の私たちが読んでもなにかしら得るものがあります。
また、ミシマ社が出す本は「読者ターゲットを決めない」のだそうです。面白いものは老若男女、誰にとっても面白いはずだから、というのが三島氏の考えで、どんな内容であれ、手に取りやすく敷居の低いものになるような工夫をしています。三島氏は、これまでの経験や実績を踏まえて、しっかりと作りこんだ本であれば、大ゴケすることはないと考えています。
ところで、ミシマ社では今年(2013年)4月より、「みんなのミシマガジン」(以下、ミシマガジン)というWeb雑誌をリニューアル創刊しています。ミシマガジンは、見た目はカレンダーのようなデザインで、毎日なんらかの読み物(記事)が追加されていくというスタイルです。
ミシマガジンは、できるだけ多くの人に無料で読んでもらうことを目指して、他のオンライン雑誌などが採用している1冊(あるいは1記事)ごとの課金や、広告収入ではない運営方法を模索した結果、「サポーター制度」に行きつきました。
ミシマガジンを応援してくれるサポーターの方々からの年会費(サポーター 2万円、ゴールドサポーター 3万円)で運営する方法です。サポーターには、一ヶ月分の記事を編集した「紙版・月刊ミシマガジン」を配布。現在数百人のサポーターがいるそうです。
加えて、三島氏は、紙版の月刊ミシマガジンの発行に当たって、紙の業者さんや印刷業者さんに無償での協力を依頼しました。最初は三島氏の突飛な依頼に唖然とされたそうですが、最終的には三島氏の考え方に賛同してくれ、協力してもらえることになりました。すると面白いことに、無償で協力するからこそ、業者さんの側から「いろいろ試したい」とあえて良質の紙を申し出てくれたり、手間やコストのかかる印刷方法を提案してくれるようになったのだそうです。
三島氏は、これからも紙でできることの可能性に取り組むと同時に、紙とWebそれぞれの良さを最大限に活かして、読者が読みたいと思う、優れた出版物を提供することが大切だと考えています。
三島氏は冒頭、講演タイトルの「ミシマ社という名の冒険」は夕学五十講の事務局側から提示されたものであるけれど、現実に同社がやっているのは「ミシマ社の実験」であり、うまくいっていること、うまくいっていないことの両方ある。そんな実験の過程をありのままに伝えたいとお話しされました。試行錯誤しながらも型破りな三島氏の行動力がうかがえた講演でした。
株式会社ミシマ社
http://www.mishimasha.com/
みんなのミシマガジン
http://www.mishimaga.com/

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