HOMEへ戻るMCCマガジン中島 尚正「次代のリーダー育成~全寮制・海陽学園の取り組みから~」

中島 尚正「次代のリーダー育成~全寮制・海陽学園の取り組みから~」

2014年01月14日

中島 尚正 海陽学園 海陽中等教育学校 校長 >>講師紹介
講演日時:2013年7月18日(木) PM6:30-PM8:30

海陽学園は愛知県蒲郡市海陽町の三河湾に面した中高一貫校です。同校は「完全全寮制」が最大の特徴となっています。「完全」とは、たとえ学校の近くに住んでいたとしても、全生徒が入寮しなければならないということです。中島氏によれば、日本において「完全全寮制」は実質的に海陽学園だけだそうです。
海陽学園は2006年、トヨタ、JR東海、中部電力など中部財界の寄付金をベースに設立されました。株式会社ではなく、あくまで学校法人です。株式会社の場合、どうしても短期的に利益を出すことも重視されることから、学校法人としての設立にこだわったのだそうです。


海陽学園が設立された背景には、今の日本の若者の中から、果たして次世代を引っ張ることのできるリーダーが育つだろうかという問題意識が強くありました。若者の現状として、まず指摘されるのは「考える力の低下」です。インターネットの普及のおかげで情報収集が容易になり、知識は豊富に持っています。しかし、その知識をうまく活かすことができない若者が多い。また、基本的に受け身で、なにごとにも無気力・無関心で、しっかり考えない若者が増えているという現状があります。小さいころから他人と触れ合う機会が減ったため、対話力やコミュニケーション力が開発されず、異質なものとの折り合いがつけられない点も問題です。さらに、挫けやすく内向きな発想が強いことや、社会性が欠如している点を中島氏は指摘します。端的にいえば自己中心的に振る舞う若者が増えているということです。中島氏によれば、積極的に考え、行動する東南アジアなどの若者たちとの差が大きいとのことでした。
すなわち、日本の若者の場合、「人間力」の欠如が最大の問題なのです。中島氏自身、東京大学で長年教鞭を取ってきた経験を踏まえると、大学生になってから人間力を育成しようとするのでは遅すぎる、むしろもっと早い段階、つまり中等教育で解決しなければならない問題だと指摘します。そこで、基礎学力だけでなく「人間力」も伸ばすことを主眼とする「全人教育」を行うことを目的とした、完全全寮制の海陽学園が開設されたのです。
海陽学園の「全寮制」は、英国の男子全寮制のイートンカレッジに代表される、欧米のパブリック校やボーディング校をお手本にしたそうです。全寮制の良さは、共同生活を通じて異質な人々と交わらざるを得ないため、他人と折り合いをつける能力が養われることです。旧来より、日本は似た者同士で構成される閉鎖社会であり、異質なものをなかなか認めない文化であると言われています。しかし、海陽学園のように、中等教育において全寮制を採用することで、こうした文化を変えていく可能性があると中島氏は考えています。
さて、海陽学園の生徒たちは、朝6時半に起床し、7時15分から朝食、日中の授業後は16時から部活動、20時から夜間学習、22時就寝準備、22時半就寝といった規則正しい生活を送ります。したがって、始めはだらしなかった生徒も、しばらくすると好ましい生活習慣を自然と身に付けるのだそうです。
生徒たちが住む寮は「ハウス」と呼ばれています。現在は全部で12棟あり、1ハウスあたり60名の生徒が共同生活を送っています。各ハウスには教員資格を持った「ハウスマスター」が住み込み、生徒たちの日々の生活の指導にあたります。また、ユニークな制度に、海陽学園に賛同する企業から派遣される「フロアマスター」があげられます。フロアマスターは20代の独身男性が担い、生徒たちの指導、そして個人的な相談に当たります。社会人の先輩として13か月にわたって生徒たちと交流することで、生徒たちは社会で働く人々の生活や仕事について知ることができるのです。
海陽学園では年間を通じ、主に週末を使って様々な行事が行われています。田植え、自然体験、ボランティア活動、歌舞伎・演劇鑑賞など。これも全寮制だからこそできることです。こうした行事を通じてもまた、生徒たちは協調性や社会性、感性を養っていきます。
授業についても、全寮制の特性を生かして週6日制(平日7~8時限、土曜4時限)を採用し、十分な授業数を確保しているとのこと。英国数の3教科を中心に習熟度別授業を行い、また少人数担任のチューター制度により、10~20名の生徒に1人のチューターがハウスでの夜間授業や演習・補習を行うなど、1対1のきめ細かい学習、アドバイスを可能にしています。
海陽学園では「キャリア教育」にも力を入れています。パナソニック、キヤノン、日立製作所といった大企業への訪問や就業体験、また、「商社の仕事について」「弁護士になるまで」といった様々なテーマで開催されるキャリア講座を生徒たちは受講することができます。中島氏によれば、こうしたキャリア講座を通じて将来どんな仕事をやりたいか、また自分の適性や興味関心がどこにあるかということをじっくり考える機会が持てるため、海陽学園では高校生の頃からかなり明確な職業観を持つようになるとのことでした。
中島氏は、中等教育を取り巻く社会的変化として、中学受験教育が産業化したこと、進路を決めるための情報として偏差値が過度に重視されるようになったこと、高校過程においては、大学受験のための塾とのダブルスクール化が進行したこと、そして、大学合格が目的化してしまったことを指摘しました。結果的に「全人教育」を行うことが難しくなってしまったのが日本の中等教育なのです。そこで、中島氏は、大学に対して、全人教育を視座に据えた教養教育の再構築、ペーパーテストに偏重している現在の大学入試システムの改革、そしてまたリーダー教育の充実を提言しています。
全寮制の全人教育に取り組む海陽学園の運営は、実のところ、手間もコストもかかりとても大変とのことでしたが、未来の日本を背負うたくましい若者たちが同校から次々と社会に送り出されることに、大いに期待したいと思います。

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