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夕学レポート

2014年01月09日

この世のなかに、くだらないものなんてない!  出雲充さん

今期の夕学 第2回に登壇された楠木健先生の名著『ストーリーとしての競争戦略』の中に「クリティカルコア」というキー概念が紹介されている。
小説にせよ、映画にせよ、演劇にせよ、よいストーリーに共通するのは、ストーリーの読者(聴衆)を「グイっ」と引き込んでいくドライバーが仕込まれている。
「えっなんで!」「どうして、そうなるんだ!」「これからどうなる?」と思わせる大胆なスートーリーチェンジが行われる、というものだ。
芥川賞作家で大手商社マンでもある磯崎憲一郎氏の言を借りれば、
「ンなこたぁないだろう。でもひょっとして...」という表現になる。

楠木先生によると「クリティカルコア」の条件は、そこに非合理性が埋め込まれていることだという。
一見するとムダで、バカげたことに思える。
ところが、その非合理性が、一貫性のある動画に流し込まれると、ストーリー全体の合理性を産み出していくのである。
非合理と合理の不思議な結合、それがイケてるストーリーに不可欠の要素だという。
photo_instructor_705.jpgユーグレナ社長出雲充(みつる)氏「ミドリムシで地球を救う」という信念は、見事な「クリティカルコア」であろう。
ミドリムシが地球の問題を解決する。
「そんなバカな話があるか」、と誰だって思う。
しかし、東大農学部出身の出雲さんが熱く語る、ミドリムシならでは効能を聞くと、これこそが次世代型のサスティナブルビジョンだ、と納得させられる。
和名ミドリムシ:学術名ユーグレナは、体長0.1ミリの水中に棲む微生物、藻類の仲間である。キャベツの葉につく青虫ではない。
ミドリムシは光合成を行う。したがって植物である。
一方で、自ら行動し移動する。つまり動物でもある。
植物であり、動物でもあるミドリムシは、栄養素の点からみると、植物と動物の良いところ併せ持った究極のハイブリッド生物だという。
野菜・肉・魚に含まれるそれぞれに特有な59種類の栄養素を持つ。
ミドリムシの栄養食品化。それがユーグレナをマザース上場まで成長させたビジネスモデルである。


地球を救う所以は、栄養問題の解決だけではない。
ミドリムシからは、ジェット機用のバイオ燃料を作り出すことができるという。しかも穀物から作る他のバイオエネルギーのように、農地をめぐって食糧と競合することもない。
ミドリムシは光合成をするので、大量生産すればそれだけCO2を使うことになる。燃料として排出するCO2を相殺することができるので、地球温暖化にも貢献できる。
「2020年にはミドリムシから作った燃料でジェット機を飛ばす」
ユーグレナの次の「クリティカルコア」はこれである。
好調な業績と話題性を武器に市場から調達した資本を、この実用化に向けて集中投資している真っ最中だという。全日空との共同研究も始まっている。
この世のなかに、くだらないものなんてない!
出雲さんは、叫ぶよう言った。
2005年、3人の仲間とはじめたユーグレが最も苦労したのは、実績主義の風潮との戦いだったという。
東大初ベンチャー、ミドリムシから作った栄養食品。
そう聞くと多くの会社で話は聞いてくれる。アポはすぐ取れる。だがそこまで。
「面白そうな事業ですね。でも他社で採用されたら来てください」
必ずそう言って断られる。その数500社。
世界で初めての挑戦に取引実績があるはずがない。
初めてのことにリスクを取るから、大きなリターンを得られるはず。
残念ながら日本には、その風土がない。
ミドリムシで地球を救う。
誰だって「まさか」と思うだろう。「くだらない」と一笑にふす人もいるだろう。
でも、ユーグレナ社は、ミドリムシ一本勝負でマザース上場を成し遂げた。
この世のなかに、くだらないものなんてない。
くだらないと思える話を聞いて「ンなこたぁないだろう」でとどまることなく、「でもひょっとして...」ともう一歩踏み込めるかどうか。
それは私たち自身の問題である。

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