夕学レポート
2013年12月11日
わからないまま放置する、第三の関わり方。東 浩紀さん。
「包摂 inclusion」「排除 exclusion」
東さんは、ホワイトボードに大きくこの文字を書いて、2つの言葉を線でつないだ。
この2つは対立する。どちらか、である。
線を加え、三角形をつくった。包摂でも、排除でもない、第三の関わり方、第三の選択がある。
理解はできないが、ゆるく、うすく、存在を認める、放置する。
東さんのメッセージの軸は、この第三の関わり、にあった。
21世紀は、9.11のテロリズムで始まった。
包摂か、排除か。社会的か、反社会的か。
思想的対立の時代である。
しかし、そもそも社会と関わらない、脱社会的存在がある。
社会的でもない、反社会的でもない、脱社会。社会的に受け入れたり折り合っていけなかったりするが、反社会的だといってその枠組みのなかで修正し適応させようとしても難しいことがある。宮台真司さんは援助交際をする少女たちを、東さんはオタクを例に、脱社会を論じた。東さんの著書『動物化するポストモダン―オタクから見た日本社会(講談社新書、2001年)は話題となった。いまでもいちばん多く読まれている著書だそうだ。
脱社会的存在を、脱社会的存在のまま、放置し、受け入れる社会。そんな寛容な社会をつくることを、真剣に考えていくことが大切である。これが東さんの論であった。
放置し、認める、という第三の関わり。理解はできないが、気持ちはわからないが、ゆるく、うすく、認める、という新しい関係。包摂しないが、排除もしない、「放置する」、という第三の選択ともいえる。
目の覚めるような、斬新さと鋭さをもった、しかし、とても優しい、主張だと私は思った。寛容なという言葉も響いた。感性的に優しくていい社会になりそうだなと共感した。
この”第三”の考えは、後半、民主主義の話題に展開する。
うすい関心をもつという関わり方。
いい加減な関心もとりこむという政治のあり方。
メンバーシップのない民主主義の可能性。
興味深かった。後半が講演タイトルながら、推薦図書である『一般意志2.0』に託して、「気鋭の論客に聞く」である、刺激を受け、自分がどう考えたか、思いがどう動いたか、を今日は大切にしたいと思う。
ところで、この「認める」という言葉についても、話してくださった。
わかりやすくて印象に残ったのだが、象徴的でもあると思った。
「認める」かどうか?
問われると日本語では、日本人は、「その人の気持ちがわかるかどうか」ととらえるのだそうだ。
相手の気持ちになれるか、理解できるか、そう問われると、うーん、そこまでは無理だ、となる問題は多い。複雑で、繊細で、特殊や個人的な問題であるほど、意見は対立しやすい、と同時に、理解や共感はますます難しい。気持ちまではわからないしそもそも理解できない、となったら、認められない、となる。排除や否定につながる。
しかし、相手が求めているのは、感情を認めてもらうことではなく、社会における存在や、権利を法的に認めてほしいといった主張であることが多いのである。
だから東さんは論じる。相手の気持ちになれなくていい、理解できなくていい、ゆるく、認め、放置する。
「認める」には、もう一つの意味がある。「存在を認める、権利を認める」である。
ヨーロッパの人々はこちらでとらえる。
私たちは、ヨーロッパのほうがより厳しく包摂か排除か、社会的か反社会的か、二元論を追求していると思っている。それに習ったのが近代ではないか、と問いたくなる。しかしそうではなく、ヨーロッパは存在を認め、権利を認めて、放置するのだそうだ。
思考が続く。いつからこうなったのだろう?
日本は本来、曖昧さや移ろいを美とする文化だったではないか。包容力もあったではないか。
楽屋で、講演あと興奮気味だった私は素直に東さんに問うてみた。
日本人は、近代ヨーロッパ思想を、非常にデジタルなものとして、浄化して、取り入れてしまったゆえに、極端になってしまったのだと、丁寧にお話を続けてくださった。
しかしいまだってヨーロッパはそうではない。脱社会的な存在を、包摂しないが、排除もしない。たとえば、教会があり、大学がある。なるほど、である。
東さんは、1971年生まれ、42歳である。
わからないまま、放置する。ぼんやりとした無関心。私にとって斬新な考えで、これについて自分の意見を述べるほどにはまだまだ至らない。しかし確かにいただいた刺激と、思考の動きを大切にしたいと思う。同世代の論客に、こうして間近にお会いし、刺激的な話を伺えたことを幸運に思った。
(湯川真理)
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