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夕学レポート

2004年05月11日

ケビン・D・ワン 「創造的な組織のため『ニワトリを殺すな』に込めたメッセージ」

ケビン・D・ワン ワトソンワイアット株式会社 コンサルタント >>講師紹介
講演日時:2004年1月29日(木) PM6:30-PM8:30

2003年のビジネス書ベストセラーのひとつ、「ニワトリを殺すな」の著者、ケビン・D・ワン氏は、重い風邪をおしての登壇でした。しかし、今の日本をなんとかして良くしたいという骨太な思いが、お話を通じて伝わってきました。風邪のせいで熱も相当高かったのではないかと思いますが、日本を思う心は、それ以上に熱い方だと思います。


まず、ケビン氏は、さまざまな社会的問題を引き起こしている要因のひとつとして、日本人の「自我の確立」が高齢化していることを指摘します。その結果、現代の大人になりきれない若者たちの行動パターンが、社会や企業にさまざまな影響を及ぼしています。
ケビン氏は、「根気がいい」という言葉はもはや死語になってしまったと言います。最近の若者は途中のプロセスを飛ばして安易に結果を手に入れようとしがちです。ケビン氏は「ショートカット症候群」と呼んでいるそうです。しかしながら、大人たち(経営者層など)もこうした若者たちを笑えない、とケビン氏は警告します。
なぜなら彼ら自身も、例えば「成果主義」が良いと聞けば、ろくに考えもせず安易に導入してしまっているからです。同様に、BSCやEVAといった英語3文字の耳ざわりの良い経営理論やコンセプトにもすぐに飛びついてしまう。ケビン氏は、こうした傾向を「三文字英語経営」と呼びます。
また、売上と密接に結びついている費用と本当に無駄な費用との区別ができず、闇雲にコストカットをする会社があります。その結果、「リストラは成功したが、会社は死んだ」ということになってしまうのです。ケビン氏は、「コストコントロール」が経営の中で一番難しく、この点に経営力の差が現れると考えているそうです。
ところで、ケビン氏の著作のタイトル「ニワトリを殺すな」は、ニワトリというのは、傷ついたニワトリがいると、仲間が寄ってたかって傷をつつき、殺してしまうという話から取っているそうです。会社組織でも同様に、新たなことにチャレンジしたものの、失敗してしまった人間を周囲がつぶしてしまいます。しかし、こんなニワトリを殺すようなやり方では、変化の時代である今、求められている企画力や創造力、提案力のある社員が出てくるはずがありません。
「ニワトリを殺すな」には7つの教訓が挙げられていますが、一番目の教訓は、「失敗を奨励せよ」です。ただ、ケビン氏は、失敗を奨励することだけでなく、結果の検証をすることが重要だと説きます。失敗した理由について、‘感情的’な検証ではなく、‘科学的’な検証を行うことによって、失敗を繰り返すことを避けられるのです。
さて、ケビン氏が一番好きな言葉の一つは、「守・破・離」だそうです。これは歌舞伎などで使われる言葉です。歌舞伎のような芸を学ぶとき、まず基本の型をしっかりと身に付ける、これが「守」です。基本が身についたら、多少応用・展開してみる、これが「破」。最後が、新たな世界を作る、つまり自分独自の型を生み出す「離」です。ケビン氏が、一貫して主張したいことが、この言葉に凝縮されています。なによりもまず、謙虚に「基本」を習得することが重要なのです。常に原理原則や原点を大切にするということでしょう。
このような視点に立つケビン氏は、現在の成果主義の現状は、「自由と自己責任」が基本にあるはずなのに、実際には自由がなく、自己責任ばかり押し付けられる結果になっていると感じています。また、仕事におけるプロフェッショナルとは、個人主義で競い合うことではなく、むしろ「個」を活かし、「個」と「個」を結び、協働して仕事を成し遂げることができる人であり、これは日本企業が得意としてきた「チーム」という考え方と本来通じるものがあるとのことでした。
最後に、ケビン氏は千羽鶴の話をしてくれました。千羽鶴は、すべての鶴が糸で結ばれ、皆上を向いた状態で一つにまとまっています。経営者や管理者は、この千羽鶴をつなぐ糸であるべきだというのです。経営者、管理者のあるべき基本の姿として、これほどいいえて妙な喩えはないと感じました。
ケビン氏の講演は具体的でわかりやすく、実に楽しい内容でしたが、冒頭に書いたようにその根底に流れる骨太の思想に、なによりも感動させられました。体調が悪いにもかかわらず、最後まで熱心にお話いただいたケビン氏に、心からお礼を言いたいと思います。

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