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梶田隆章「ニュートリノ研究の30年」

2016年10月11日

梶田隆章
東京大学特別栄誉教授、宇宙線研究所長
講演日時:2016年5月20日(金)

ニュートリノ研究で、理論では説明できない現象を見つける

梶田隆章

日本のニュートリノ研究は二人のノーベル物理学賞学者を生んだ。
2002年の小柴昌俊氏。そして、きょうの講演者である2015年の受賞者梶田隆章氏である。
さらにいえば、両教授の間をつなぐ存在として、ニュートリノ研究の拠点施設となったカミオカンデ、スーパーカミオカンデのプロデューサー的な役割を担った故戸塚洋二氏を含めれば、受賞者は三人になっているはずだったとさえ言われている。

カミオカンデは、岐阜県飛騨地方の亜鉛鉱山、神岡鉱山の地下空間にある。巨大な水槽タンクに、光倍増電子管と呼ばれる光検知器を、とてつもない数量設置したニュートリノ観測装置である。

カミオカンデは、ニュートリノ研究を主目的に作られたわけではなかった。
1970年代半ばに提唱された素粒子の「大統一理論」を証明するために小柴昌俊氏が作ったものだ。
いわば「理論を実証するため」の実験施設であった。

実験開始後一年足らずで、研究目的を方向転換し、「大統一理論」の証明に加えて、ニュートリノの観測をやろう、と言い出したのも小柴氏であったという。
小柴氏は、構想段階からニュートリノ観測の拠点にできるというカミオカンデの発展可能性を視野に入れていたのである。
これに伴いカミオカンデは、「理論を実証するため」の施設ではなく、「理論では説明できない現象を見つける」実験施設として発展を続けることになった。
結果的に、この時の方向転換が三つのノーベル賞につながった。ちなみに、当初の主目的であった「大統一理論」の証明はいまだに成功していない、というからおもしろものである。

さて、ここでニュートリノとは何か、という説明の極めて難しい命題を、梶田先生の言葉を借りて説明してみよう。
はじめに、物質の構成要素とその間の力学法則を確認したい。

物質はすべて原子から出来ている。一つ一つの原子では、プラスの電荷を帯びた原子核の周りをマイナスの電荷をもった複数の電子が、電気磁力で引き合いながら回っている。電子は可視化することができないほどに小さな素粒子である。
これが、中学の理科で習うことである(たぶん…?)

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梶田先生は、ニュートリノとは「電子から電荷を取り除いたもの」だと言う。電荷がないということは、電気磁力で引き合うことがない。またごくごく小さいので、あらゆるものを素通りしてしまう。地球1万個の素通りは当たり前だというから驚きだ。この宇宙には、無数のニュートリノが飛び交っているのだという。
おもしろいことに1万回に1回程度の割合で、ニュートリノが地球にコツンとぶつかることがある。それを観測するのが、ニュートリノ研究である。
ただし、ニュートリノは、距離の二乗で数が減っていく。従って、遠い宇宙から飛んでくるニュートリノを観測するのは至難の業だと言われている。
これでお分かりだろうか? わからなくて当たり前、書いている私もよくわからないのだから...。詳しくはこちら

さて、カミオカンデでニュートリノの観測をはじめてすぐに、宇宙の僥倖が起きた。大マゼラン星雲で超新星爆発が発生し、巨大なエネルギーが放出された。これ伴いたくさんのニュートリノが地球にも飛んできた。
ニュートリノは、1万回に1回程度ぶつかると書いたが、飛んでくる数が増えれば、ぶつかる回数も増える。しかも、地球から比較的近い星雲で起きた超新星爆発なので観測の確率も高まる。
1987年2月23日、世界で初めて太陽系外からのニュートリノ観測に成功した。これが小柴先生のノーベル賞受賞研究となった。

梶田先生のノーベル賞受賞研究は、ニュートリノ振動の発見にともない、ニュートリノに重さがあることを実証したことだという。
ニュートリノ振動とはなにか、そして振動があるとなぜ、質量があることになるのか。
これは、梶田先生の言葉を借りても説明が難しいので割愛する。ニュートリノ振動の可能性に誰よりも早く気づき、それを実証したのが梶田先生であったということを記すに留めたい。

ただし、ニュートリノ振動の実証は困難であった。カミオカンデの施設規模では、実証に足りうるデータを観測するには不十分であったからだ。
そこで作られたのが、スーパーカミオカンデであった。水槽に貯める水量(5万トン)はカミオカンデの16倍以上、タンクの大きさは縦横40Mにも及ぶ巨大な装置である。光倍増電子管の数もカミオカンデの10倍、1万個以上になる。
設置の過程では、1万個のうち7千個を割ってしまうという大失敗も乗り越えた。

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1998年、スーパーカミオカンデで収集した十分なデータをもとに、ニュートリノ振動の発見=質量の証明がなされた。これが2015年のノーベル賞受賞研究となった。

33年の歴史を刻んで、神岡鉱山周辺は、素粒子理論・宇宙物理学の一大研究拠点になっている。スーパーカミオカンデ以外に、カムランド、KAGURA、XMASSなどの巨大な実験装置がいくつも作られている。

梶田先生が実証したニュートリノの質量は、他の素粒子と比べても圧倒的に軽い(なんと100分の1)。この10ケタ違いの差は、ニュートリノが、次元の違う研究世界を拓く扉になるうることを示唆している。

いま、ニュートリノ研究は、宇宙誕生=宇宙の物質の起源の謎を解く鍵になると言われているという。そのために、スーパーカミオカンデのさらに10倍の規模のニュートリノ観測装置を作るという構想もあるという。

神岡鉱山の地下1000メートルでは、宇宙137億年の時間を遡る壮大な旅が行われている。

(城取 一成)

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