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夕学レポート

2016年11月08日

高田朝子 「女性マネージャーを育む、活かす、押し上げる」

高田朝子
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授
講演日時:2016年6月8日(水)

女性を「育てる」ではなく「育む」企業づくり

高田朝子

いざ女性活躍推進といっても、一体全体何をしたらよいのか。罰則規定はないものの管理職の比率を2020年までに30%に押し上げるという定量目標が先行しすぎて「じゃぁ女性社員に下駄をはかせればいいのか!?」とか、「私、選ばれちゃっても。。。」みたいな戸惑いが特に東京には溢れていると思う。今まで心地よい「固定観念」という枕に顔を埋めて寝ていたところに、大きな音の目覚まし時計で30%を示され、起き抜けに俊敏な活動はできないけれど、自分の意識や行動を変えなくてはいけないと覚醒した感じ。そんな迷える日本社会に一つの答えを与えてくれたのが法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科の高田朝子先生である。

深刻な労働人口の減少が見込まれることから、社会保障費を支えるために女性の就業率は向上させなくてはならない。また、有能な女性社員がマネジャーという重要なポジションに就く以前に出産と同時に金銭労働から退くことは、日本企業の発展をかんがみると避けなくてはならない。

高田先生は女性マネジャーがいない理由の一つに女性社員が男性と異なるキャリアパスや就業経験をしているため、マネジャーになる自信がつかないことを挙げた。女性の就業者はもともと母集団が小さいのに加えて、たどってきたキャリアパスが異なるため、昇進という新領域へのステップに躊躇し、昇進よりも能力を高めようとする「必殺仕事人」になる場合が多いのではないかとのこと。つまり、もしかしたら企業内部で有能な女性を「育む」仕組みを作ることが女性登用率の低さに対する解決策の一つなのだと高田先生は教えてくれた。

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では、「育む」場合に気をつけておきたい女性の心理とはどのようなものなのだろうか。まず特徴的な事例として、近年各種メディアでも拝見する「しなやかに働く」というステレオタイプとの差に感じる呪縛がある。女性は強いリーダーシップを志す女性になることをあえて回避したり、子育てをしながら日々奮闘する自分とステレオタイプとのギャップに苦心しがちである。また、ロールモデルを自分に完璧に当てはめようと試み、会社が設定したロールモデルと自分自身の理想に違和感を感じることもある。さらに、女性は男性の倍働き、愛社精神を持ち、数少ない女性社員代表として自分自身が後輩女子の足かせにならないよう真面目に努めると、環境の変化が起きたときに一気に心を病んでしまったりする。

そこで、これらの女性に特徴的な現象をよく理解し、上手く「育む」ことが上司には求められる。例えば、身の丈より上の仕事を与え、モニターし、必要なところで介入する。そして、短時間で的確な仕事をこなしてもらうために、相手にわかる言語で伝えること。思い込みをなくして観察することで、部下の様子をきちんと理解しなくてはならない。高田先生はまた、女性に成功体験を積ませることや昇進時に推薦してくれる味方を増やすための人的ネットワークの構築が女性マネジャーの活躍には必要であると述べた。

高田先生がこんなにも「育む」を強調することを実は講演中少し不思議に思っていた。それは、私がこれまで女性が出産と仕事を両立できる社会とは、人材流動性さえ高ければ実現できるようになるかもと思っていたからである。そうすれば産休明けに産休中の女性代理を勤めていた人とポスト争いをしなくて済むし、企業側が性別や年齢に限らず適材を登用する体制になるから産休明けの女性にもポジションが不特定多数用意されている可能性が高い。しかし、先生のお話を通じてこの流動性と「育む」という両輪が上手くいかないとやっぱりうまくいかないのかなぁ、特に日本社会では、と気づかされた。

小さい赤ちゃんを育てているお母さんにとっては、出産後の復帰と同時に未知の転職先で仕事をするとなると大変だし、出産後初めての職場では少し落ち着いて長く勤めたいと思うのではないか。だとすると、子育て期間中すらも自らを「育んで」くれる上司がいることは次のキャリアステップを考えたときにとても重要である。育児休暇の穴埋めをしていた代理からすれば、新たな経験を備えて転職活動すれば、ポストの奪い合いもない。

原稿のネタを考えていたときに、ふと新入社員当時の女性の先輩の顔が目に浮かんだ。転職率の高い職場であったけれど、それでも私が今まで出会ってきた先輩方の中でもっとも熱心に私を「育もう」としてくれたのを鮮明におぼえている。先輩は日々私を観察しつづけ、あるときは励まし、あるとき(グズの私に対しては大半だったか?笑)は客観的に改善点を伝えてくれた。会社の評価軸には後輩指導を評価する仕組みが完全には組み込まれていなかった。つまり、プラス点にはなりうるけれど、それを評価するのはさらに上の上司次第みたいなところがあったと思う。当時、夜中まで付き合ってくれた先輩は、一概に彼女自身の昇進評価には繋がらないかもしれない「育む」ということを根気よく続けてくれた。

流動性が高く且つ、「育む」仕組みを導入することは、一期一会的感覚でいかにも今の日本らしいと感覚的に思うのは私だけかなぁ。自分が先輩になってきた今だからこそ、気に留めておきたい。「育む」ということ。

(沙織)

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