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夕学レポート

2019年07月09日

小泉文明さん・山本 晶さん「CtoC × デジタルが変える消費行動」

小泉文明
東京大学大学総合教育研究センター 准教授
山本 晶
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 准教授
講演日時:2019年5月15日(水)

山本 晶

小泉文明

メルカリは楽しい。はじめた頃は家にある不要品が売れて、部屋がすっきりすれば満足だったが、やればやるほどはまってしまった。時間があればメルカリを開いて、安くて可愛い洋服が出品されていないか覗いてしまう。メルカリの小泉文明社長兼COOによると、このような行為を「探索」という。「検索」ではなく「探索」。「何かいいものないかなー」とメルカリ内をスクロールするのはまるで「宝探し」のような買い物であり、メルカリが成功した理由でもある。

かつての不要品は捨てるか、友達にあげるか、リサイクルショップに買い取ってもらうぐらいしかできなかった。だけど、捨てるのはもったいないし、リサイクルショップで買い叩かれたうえ、高く販売されるのは嫌であった。しかし、フリマアプリの登場で見知らぬ人とも個人間で取引ができるようになり、不要品の呪縛から解放されるだけでなく社会の経済的厚生が高まった。見知らぬ同士でやりとりするからには、不良品が届くとか、代金が支払われないとかいったような様々なリスクが伴う。そこをメルカリは手数料をとってリスクヘッジしている。匿名配送やユーザー同士の相互評価、商品を受け取るまで代金が支払われないシステムは安心・安全さを与えて、メルカリユーザーを増やした。

今やメルカリに代表されるフリマアプリは私たちの生活にすっかり馴染み、中古品を購入する機会も増えた。すると個人のモノの買い方(消費行動)に変化が現れた。

たとえば以前は、洋服を買うときは「着る」ことだけを考えていた。でも、今は若者を中心に洋服を「着る」と同時に「売る」ことを考えている。具体的に言うと、1万円の洋服を買おうかどうか迷っているときにメルカリを開いてみて、同じ服がユーズドで8千円で売られていたとする。飽きたら自分も同じように売れば良いので、実質2千円でその服が着られると考えるのである。他にもメルカリで買って、一度着たらまたメルカリで売ってといった感じで、メルカリをクローゼット代わりに使う人も増えてきている。

対談者である慶應義塾大学経営管理研究科の山本晶先生によると、メルカリユーザーのこのような傾向は、流行の「ワンショット消費」とも相性が良いという。ワンショット消費とは、買った洋服を着た写真をInstagramなどにアップして、「いいね」をもらったら、メルカリなどで売ってしまうという消費行動のことだ。若者の間では「インスタで2回同じ服はダサい」らしい。

このように、CtoC×デジタルは消費者の行動を変化させている。私もメルカリにはまってから、何か買うときに、もし合わなかったらメルカリで売ればいいと思うようになってきたし、売るときのことを考えて、本はカバーをかけて綺麗に読むようになった。

こうなってくると、メルカリの方が安くて便利だからと、フリマアプリでの購入が増え、メーカーなどの一次流通にとってフリマアプリのような二次流通は脅威のように思えてくるのだが、そこのところはどうなのだろうか。
小泉社長曰く、消費者は先に挙げた再販のことを考えて、予算を超えても新品を購入するように変化してきているそうで、メルカリをはじめてから高級ブランドの購入が促進されるようになったという話もあるという。

日本人は「お値段以上」の低価格、高品質の商品を求めがちである。6月27日に夕学五十講で講演予定のデービッド・アトキンソン氏はその著書『日本人の勝算』で、日本企業の人材は高いスキルを持ちながら安い価格の商品を生産・販売しているが、高いスキルに見合った付加価値のある商品の生産・販売に移行していかないと、日本の生産性の向上や経済成長が見込めないと警鐘を鳴らしている。メルカリをはじめとするフリマアプリが消費者の行動に影響を与え、消費者が良い品質のものを高い価格で購入するようになれば、日本経済や付加価値の高い商品を提供している企業にとってもいいことであるし、消費者が再販を考えて、高品質高価格のモノを購入する傾向も良いことだと思う。

ちょっと前に「新しい本を『借りるように読む』」、つまり読み終わったら即座に売る、を繰り返す「メルカリ読書法」が、著者に対する敬意がないと批判を受けた。これに呼応するかたちではないが、小泉社長は面白いことを仰っていた。「今後、売買される商品を追跡できるようになったら著作権みたいなことをやりたい」と。それは本やCDに限らず、洋服のメーカーなどにも中古市場で売買された価格の10%(ぐらい)を還元するという取り組みだ。新しい品を買うことがその著者や制作者への敬意かもしれないが、消費者は品質が変わらなければ、より安くて便利な方向へと流れるのは仕方ない。私自身、メルカリで多くの本を売ったり買ったりしているが、売る方としては新刊のうちに売ってしまったほうが高く売れるし、買う方も安く買えてラッキーで双方が満足する。小泉社長が考えている還元システムは、そこにクリエイターやメーカーが取り残されないところがいい。みんなが中古市場で完結してしまうと、制作者は活動の維持が困難になり、創作のインセンティブが失われてしまう。小泉社長の考える仕組みは、そこに関わる皆が満足できるように改善されていく。

買ったまま放置しているモノ、昔は使っていたけど今は使わなくなったモノ。小泉社長によると家にあるモノの非稼働率は約60%ぐらいであり、不要品の推定価値は年間約7.6兆円とのことである。つまり、不要品のCtoCビジネスにはまだまだ成長ポテンシャルがあるのだ。大量生産大量消費社会は陰をひそめ、私たちは急速に新しい消費行動に移行している。これからCtoC×デジタルは私たちの生活や行動を変化させていくだろう。
それはまだ見ぬ未来というよりは、人々がその時必要なモノをわけあっていた過去に戻っていくような懐古的な感覚である。

(ほり屋飯盛)

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